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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第四章
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十九駅目 シャルロの森の事情

 さて、妖精議会の翌日。

 シャロルの森の入り口にミニSLの線路が届いた。


 届けた職人によると、今回のモノは線路、車両ともに十分の一ほどの大きさで現物を見る限り、予想通り公園でよく見るミニSLぐらいの大きさのようだ。


 ここまでは最初に渡された箱の大きさからなんとなく予想はできていたし、機関車一両であの大きさだと聞いていたからこそ妖精を乗せて走ってみるという約束ができたのだ。


 ただし部品の複雑さは実物を部品ごとまんま小さくしたからだろうが……


 線路は数種類用意されていて、それぞれ少しずつ違うらしい。


 それらのデータをもとに今度はもう少し大きいものを作成して、最終的に実物を走らせるための線路を造るのだという。

 大きさ的に目立つ実物を使って派手に事故を起こすより先に小さなモノでどのような条件だと事故が起こりやすいのか、またどうしたら安全なのかを追求する必要があると職人は言っていた。


 その辺の詳しい知識はないが、とにかく安全のための実験だというのは誠斗も理解できたし、このことについて語る職人も真剣そのものだ。


 線路を引くのはマーガレットの家の前を出発して裏の池を経由し、再びマーガレットの家に前に戻ってくるというものだ。


 それ以外の区画については様子を見てまた、妖精たちと話し合いになる。

 職人が帰った後、誠斗は一人で線路を一本、一本森の中へ運び込んでいく。


 線路を引くのはマーガレットの家の前でそこまで運び込まないとならないのだが、街道に放置しておくわけにもいかないのでとりあえず、森に入ってすぐのところにある適当な広さの広場に次から次へと資材を積んでいく。


 なお、マーガレットは協力しないという意思表明とともに家を出て魔法薬の原料を採りに行っている。

 行くだけで数日はかかる森の西の端でしか採取できない薬草を採りに行くからしばらく帰らないそうだ。


 理由を尋ねるとシャロルの森は東西に広く伸びてて、南北に狭いため、南東の端にあるマーガレットの家から西の端にあるその薬草の採取地までかなり時間がかかる上に西側でしか取れない薬草が多数存在するためにそれらもついでに採取してくるとのことだ。


 ついでに多くの種類の薬草が分布している西側ではなく南東に家を建てた理由としては森を出てすぐ東にシャルロッテ家の屋敷があること、また南側にシャルロ地方最大の都市であるシャルロシティがあることが挙げられる。

 そもそも、当初は魔法薬を売って生活するという考えもなく、とりあえず森を抜けてすぐに町に活ける場所に家を建てただけということだ。


 なお、なぜ森の中央にあるセントラルエリアに行くのに半日かからないのに森を東西に移動するのに数日かかるのかと尋ねると、“妖精たちしか知らないゲートがいくつか存在していて、そこを通るとセントラルエリアに入れる”そうで、そのゲートを使う以外にセントラルエリアに入ることはできないし、妖精と許可を受けた人間以外はゲートをくぐることができないのだという。


 なので森の中央に存在するセントラルエリアを避けていくとかなり遠回りになり、結果的に数日の時間が必要になるのだという。


 少々話が脱線してしまった。


 誤解がないように言っておくが、職人が森の入り口で荷物をすべておいていくのは妖精の存在を隠すためであり、決していやがらせではない。

 これはシャルロッテ家、妖精双方からの要請で職人はただ単純に森の入り口に資材を置いて行けという命令しか受けていない。

 なぜ、都市でもなんでもないシャルロの森に妖精がいるのがばれてはまずいのかわからないが、双方それなりの理由があるのだろう。


 一人で黙々と作業する誠斗の頭の中には様々な疑問や考えが浮かんでは消えて行くが、どれも深く考える余裕もなく目の前の作業に集中するようにと自分に呼びかける。

 この作業、線路の量だけでいえば大したものではないのだが、これを広場まで運び込んだ後も広場からマーガレットの家までかなりの距離がある。


 線路を運び込むという作業だけで少なく見積もって二日はかかるだろうし、そこから線路を引くとなると実際にミニSLを走らせるのにはどれだけの時間がかかるだろうか。


 しかし、誠斗は不満を唱えることなく一つ一つ丁寧に広場へと運び込んでいく。


 その何往復目が終わり、職人が資材を置いて行った場所に入ろうとしたときだ。


「あぁいたいた……それで? 何をやっているの?」


 森の入り口にある木の上に腰掛けたマノンが誠斗を見下ろしていた。


「見てわからない?」

「残念ながら……くすっあははっわからない! 全然わからない! あはははははははは!」


 なんというか、妖精たちは誰でも笑いながら話すのだろうか?

 しばらく、マノンが普通に話していたので忘れていたが妖精というのはそういう種族なのかもしれない。

 いや、それは一部だけなのかもしれないがカノンやマノンといった主に誠斗と接してきた妖精たちがそうなのだから、他もそうなのではないかと疑ってしまうのは仕方ないことだ。


 いや、どれだけ頭を回転させたところでリェノンやシャノンがそういったふうに笑う姿が想像できない。


「あのなぁ」

「あはははははっ! 何だかよくわからないけれど手伝ってもいい?」

「……手伝ってくれるなら歓迎だけど」

「そう? だったら、そうしようかな!」


 そう言って笑顔を浮かべると、マノンは下に降りてきて、誠斗の横に立つ。


「それで? これをどうすればいいの?」

「とりあえず、森の入り口に置いてある資材をマーガレットの家の前まで……重いから少しずつでもいいよ」

「……マコト君。あなた私が見た目通りのか弱い少女だと思ってるんじゃないの?」

「違うの?」

「違うよ。魔法使えばだけど」

「あぁそう」


 もはやつっこむ気力を失った気がする。


 なんというか、魔法を使えば何でもありなのだろうか?


 そんな疑問を持つ誠斗をよそにマノンはレールやその他もろもろの資材に次々と小さな魔法陣を描いていく。


「それって何の魔法?」

「えっ? 確か、重力操作。そのあたりは私たちの得意分野だから頭に入れておいた方がいいかもしれないわね。私たちが空を飛べるのもその辺が影響しているわけだし」

「そうなの?」

「えぇ。まぁもっとも自分の魔力が枯渇するまで魔法を使って初めてその事実に気づく妖精が大半らしいし。自覚できる程魔力使っていないし、魔法陣があるのも羽の裏側……しかも付け根の方に生まれたときからあるから仕方ないと言えば仕方ないかもしれないけれどね」


 妖精という種族はそれで大丈夫なのだろうか?


 なんて心配になるが、そんなものは必要ないのだろう。

 恐らく、自分でも羽がついていて空を飛べれば羽のおかげだと思うだろうし。


「あれ? そうなると、マノンは魔力が枯渇したことがあるの?」

「あぁ私はないかな。これ、カノン様が話していたことだし……」

「そうなんだ。それと、もう一ついい?」

「なに?」

「その理論で行くと、羽を動かさなくても飛べるの?」


 誠斗の疑問にマノンはぽかんと口を開けたまま固まってしまった。


 おそらくは誠斗の質問があまりにも初歩的なことを聞いていて、どうしたらいいかわからないか、今まで全く考えたことがなくてその発想はなかったという思考なのかどちらかだと思われるが、彼女はそのまましばらく固まっていた後、空を仰いだ。


「そういえばどうなるんだろ……実際に羽の裏の魔法陣なんて見たことないし……皆、羽を触られるの嫌がるから見せてとも言えないしね。でも、この線路だっけ? の材料に描いた魔法陣と同じなら羽は必要ないってことになるのかな?」

「つまりわからないと?」

「まぁそうね……最初はそんなこと知らなかったから、いちいち羽を動かして飛ぶ癖がついちゃってるから全く考えていなかったわね。ただ、魔力の消費量がかなり少ないところから見て羽の動作に従って作動する魔法陣っていう可能性は十分に考えられるから羽の動きは必須っていう可能性も……」


 マノンはなにやらブツブツと言い出しているし誠斗は誠斗であわよくば魔法陣が見えないかとこっそりと後ろに回る。

 しかし、後ろから見る限りそれらしきものは見えない。


 とりあえず、魔法陣の形状を見てみようとレールの方を見る。

 そこに描かれていたのは、丸い円の中に六芒星が描かれているもので二重になっているふちと六芒星のそれぞれの頂点には緑色の文字で難解な文字列が描かれている。

 一つのモノにつきそれがいくつか書かれているのだが、一番最初に書いたものを除くとどれも非常に小さいうえにそれに比例して文字が小さくなるので一つ一つが違うのかそれとも違うのかまで判別することはできない。


「って……そんなことを考えている場合じゃないでしょ! ほら、さっさと運ばないと」

「うん。それもそうだね」

「それじゃ、さっそく……」


 マノンがレールに手を触れると、先ほどマノンが描いた緑の魔法陣が発光しはじめる。


「……“森林に住まう神よ私は願う。このモノを地の力から解き放ち、空に舞う力を与えたまえ!”」


 すると、音もなく何本ものレールや枕木が宙に浮かんだ。

 その一個一個が小さいためいまいち迫力に欠けるが、魔法のすごさを十分に感じさせる光景だ。


「それじゃ行こうか」


 誠斗が街道から森の中へ移動させていた分を宙に浮かせてマノンが歩き出す。


 その後姿をしばらく眺めていた誠斗であるが、しばらくしてマノンが持っていた量が全体の三分の一ほどの量でしかないことを思い出し、急いで資材が積んである場所まで戻って行った。

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