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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第一章
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一駅目 魔法使いの森

 目を覚ましてからどれほどの時間が経ったかよくわからないが、太陽がいまだに高く上っていることから思っているほど長時間ではないのかもしれない。


 誠斗はベランダからの風景を見ながら小さくため息をつく。


「どこなんだろうな……ここは」


 家主に聞こうと思ったのはいいが、肝心の当人が帰ってくる気配がない。


 助けてくれた以上、邪険にされることはないのだろうが、ここから家に帰れるかどうかも不透明だ。


「なによりも、一番の不安要素は……ボクがみたものすべてってところかな」


 そうだ。落下の最中に見たドラゴン、あれほどのスカイダイビングをしたにもかかわらず傷一つない体……考え始めたらきりがない。

 そもそも、このツリーハウスでさえいろいろと疑問が付きまとう。


 最初は気づかなかったが、ベランダから周りを見たところこの家はかなりの太さがある大木の上の方に建っていて、高さは軽く二メートルは超えている。

 玄関の扉を開けようとしたが開かなかったため確認できなかったが、現実的に考えて玄関からはしごがぶら下がっているか階段があるとみて間違いないだろう。


 もう一つ。


 ここにきて何よりも気になっているものがある。


「あははははは! 鳥かごの中のニンゲンさん! 空飛ぶ羽がなくてかわいそう!」


 さっきからそんなことを言いながら周りを飛んでいる奴である。

 緑で長い髪を赤のリボンでポニーテールにまとめている女の子の背中にはアゲハチョウを思わせるような羽が生えているのだ。

 最初、彼女が木の上の方に座っていたときは作り物かと思ったのだが、実際にそれを動かして空を飛んでいるところを見れば、本当に背中から生えているのかもしれない。


「あのさ、君は何がしたいの?」

「あははははは! わからない? お散歩よお散歩。そうしているうちに面白いものを見つけたんですもの! あなた、空から落ちてきた子でしょ! そうに決まってるわ! マーガレットの家に本人を伴わずにたどり着けるニンゲンなんてまともなわけないもの! あははははは! そんなイレギュラーなことやっているのにそんなちょっとしか魔力がないとか! あははははは! ダメだこりゃ! 最高傑作かも! あははははは!」


 本当にどうなっているのだろうか?

 とりあえず、目の前の奴にバカにされているのは分かるが、本当にどんな場所に立っているのだろうかこの家は……

 見たところはただの森だが、迷いの森的なギミックがあるのかもしれない。


 仕組みはよくわからないけれど……


 自分の理解を超える現象に頭を抱えていると、誰かが玄関の扉を開ける音がした。


「目、覚めたんだ。手紙は見てくれた?」

「手紙?」

「あれよ。机の上に置いといたやつ。それとも、文字は読めなかったかしら? 空から落ちてきたもんだから驚いちゃって。用事があったら出て行っちゃったんだけどね」


 水色の髪に青色のリボンという容姿の少女の左手には分厚い本が抱えられていて、右手にはほうきを持っている。服装は黒いワンピースに白いエプロン、黒の三角帽子と言った恰好で魔女という表現がぴったりとあてはまりそうだ。


 そんな彼女はかすかに笑みを浮かべて歩み寄ってくる。


「あぁごめんね。私は魔法使いのマーガレット。あなたは?」

「……ボクは誠斗。山村誠斗だ」

「ヤマムラマコト君ね。よろしく……して、本題に入らせてもらうけれどさ……どうして空から降ってっ来たの? もっと聞けば、私の家に来たのは何か理由があるのかそれとも偶然なのかどっちかしら? どちらにしてもいろいろと考えるべきことがあるのよね。また、衛兵になんか見つかると面倒だし」

「はい?」


 今、いろいろと聞き捨てならない単語が聞こえて来たのは気のせいだろうか?

 まるで衛兵にでも追われているような言い方だ。


「だからさ、どうやってここに来たの?」

「いや……あの、山の中を歩いていて光る変な球状の奴に追いかけられているうちに気を失って、気が付いたら空からまっさかさまに……」

「あぁーなるほど……全然わかんないや」


 マーガレットはめんどくさそうな表情を隠そうともせずに頭をかいた。

 そこから少し考えるそぶりを見せてから誠斗の後ろに視線をやる。


「そこの妖精。ちょっと来なさい」

「私はそこの妖精じゃなくて!」

「名前とかどうでもいいから、来て」

「はいはい」


 先ほどまでの態度はどこへ吹っ飛んだのだろうか?

 妖精と呼ばれた少女はどこか暗い雰囲気でこちらへと寄ってきた。


「見た感じどう思おう?」

「どうって? マコトのことかしら? そうね。魔力はからっきしで精霊を呼び出す能力も皆無。要するに魔法適性はありえないほどに低いわね。身体能力もさほど高くなさそうだし、とてもじゃないけれどまっとうな方法でこの森を抜けられるとは思えない。本当にどうして空から降ってきて助かったのかわからないわ」


 妖精が何を言っているのか全く理解できない。

 だが、先ほどと同じように誠斗に大した能力はないと語っているのは確かだろう。


 それに魔法だの魔力だの精霊だの言いだしたからには、どう考えても異世界に迷い込んでしまったとみて間違いなさそうだ。


「あらあら、それはそれは……あなたたち妖精がいかにも見下しそうな状況ね。それで? あなたはうちの客人に何をやっていたのかしら?」


 マーガレットが“笑顔”で語りかける。

 妖精は顔を真っ青にさせてあさっての方向を向いた。


「あはは……なんといいますか、ご客人でしたか……これまた空から落ちてくるというとんでもない方法でやって来たもので妖精たちも間でも“親方! 空から男の子が!”なんて言って騒ぎになってしまったものですから様子を見に……ただそれだけよ。そうよね。えっと……」

「マコトよ」

「そうそうマコト君! 私は今日のところは失礼するから! 適当に森の中を歩いていれば見つけられるかもね!」


 妖精は逃げるように飛び去っていく。


「あっちょっと待て!」


 妖精はあっという間に姿を消してしまい、マーガレットがベランダの方まで走り抜けていく。


「次会ったら承知しないわよ!」


 そんなことを大声で叫んだで返事なんて帰ってこない。

 ただ、誠斗は心の中であの妖精に合掌する。


「まったく……これだから妖精どもは」


 そういった彼女は、こちらを向いて先ほどとは違う人懐っこい笑みを浮かべる。


「ごめんなさいね。あの子たちの教育はまた後日させてもらうわ。それはそうと、理解してないみたいだからこの森についても説明するわね」

「えっえーとお願いします」

「えっと、まずここはスュードコンティナン帝国の南にある私の私有地よ。そう私有地」


 私有地というところを強調している。

 二度言ったのだから大切なことなのだろう。


「それでまぁ地元じゃ迷いの森なんて言われているみたいだけど、この森に正式な名称はないわ。強いていうなら魔法使いマーガレットの私有地」

「私有地ね……この森全部?」


 ちゃんと覚えてはいないが、落下する過程で見たこの森はかなり広大だったはずだ。

 森の周りにいくつかの街があり、“森を避けるように”道が引かれていたような気がしないでもない。


「全部よ。この森は全部私の庭」


 彼女はあっさりと返事をする。


「最初はね。この家のあたりだけだったのよ。それで、侵入者対策にトラップを仕込んでおいたの。ただ、周りの村の人たちから明確な境界線がほしいって言われたのよ。そんなもの、私の家の周りを回るように適当に道でも作ればいいじゃないって答えたら、なにを考えたのか森を囲むように道路を作っちゃって、まぁ近隣の村長や領主も私の土地だって正式に認めちゃうものだから、今となってはこの森自体が私の土地ってわけ」


 彼女はソファーに座り、小さくため息をつく。


「もっとも、そのおかげでこの森を丸々私の実験場として使えるわけだけどな。して、こんな話を聞いて君はどうするつもりだい? “本来ならこの世界にいないはずの異世界人”ヤマムラマコト君? まぁもっともどういった選択をしてくれても私としては構わないよ。君がここを出ていきたいのなら森の外まで送るし、ここに残りたいというのなら多少の労働はしてもらうが問題はない。選ぶのは君だ。と言っても少しでも冷静に考えられるのなら、どれが正解かぐらい理解できるよね?」


 マーガレットと目の前とその反対側に紅茶が用意され、座るように促される。

 誠斗は一口紅茶を口に含み心を落ち着かせると、目の前で紅茶に砂糖を入れているマーガレットの方をまっすぐと見た。


「少し情報が足りない。まず、条件にある労働というのは具体的にどんなものだ?」

「……ありていに私の手伝い。薬草の採取や魔法薬の販売なんかをやってもらうわ。報酬は……そうね。あなたが町へ薬草や魔法薬を売りに行ったときに場合に応じて一割から五割というのはどうかしら?」

「場合に応じてというのは?」

「そうね。魔法薬を例に挙げれば私が材料の調達から調合まですべてをやった魔法薬を売りに行った場合は売り上げの一割。あなたが材料の調達から調合まですべての工程にかかわった場合は五割。どの程度かかわったかによって振り分けるわ。仮にあなたがすべての工程を一人でできたのなら売り上げはあなたが一人ですべてを持っていくのもありというのはどうかしら?」

「つまり、ボクの取り分が十割の可能性もあると?」


 誠斗が尋ねると、マーガレットは砂糖を入れる手を止めこちらを見る。


「えぇ。あなたにできればね。それに仮に売り上げがゼロだったらあなたの報酬もゼロだからちゃんと頭に入れておきなさい。これぐらいかしら? ほかに質問は?」


 マーガレットが角砂糖を紅茶に一つ入れる。


「そうだね。あなたが提示したもう一つの選択肢について……仮にボクがこの家を放り出されたとしよう。どの程度生き延びられると思う?」

「……そうね。この世界のルールも知らない上に魔法もからっきしとくれば町を出た瞬間に盗賊なり何なりに襲われてアウト。町に引きこもったとしても働き口を見つけられる可能性は低いでしょね」

「盗賊は納得させてもらうとして、働き口が見つからないというのは?」

「そのままの意味。この世界では魔法が使えて当たり前。ただ、あのバカ妖精の見立てだととてもじゃないけれど、あなたが魔法を使えるようには思えないということ。そして、珍妙な服装とあなたのポケットから転がってきた“これ”を見る限りあなたはこの世界の人間ではなく、ここの常識を知らないということになる」


 そう言いながら、マーガレットは誠斗のスマホを机の上に置いた。

 そして、さらに砂糖を紅茶に投下する。


「この二点から考えて、雇ってもらえる以前にどんな仕事があるかも理解できずにどうしていいかもわからない。そんな予測ぐらい簡単に立つわよ。それで? どうする気?」


 要するにだ。彼女はどうせ外に行っても生き残れないのだから、ここでおとなしくしていろと言外に行っているわけである。

 彼女の目的はなんとなくではあるが予想がつく。


 異世界の知識または魔法薬の製作における助手の確保。


 これは彼女にとってかなりのメリットのはずだ。


 それは同時に誠斗のこの世界におけるとりあえずの生活の安定を意味する。


 マーガレットが砂糖十数個を入れた激甘紅茶をかきまぜはじめたとき、誠斗はゆっくりと口を開いた。


「……ボクの答えは……」

 読んでいただきありがとうございます。


 思ったよりも早くかけましたので早めの投稿となりました。


 これからもよろしくお願いします。

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