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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第三章
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十六駅目 森で待っていたのは……

 マーガレットの家に帰ると、まるで用事があるとわかっていたかのようにマノンが家の前で待ち構えていた。


「……話はアイリスさんから聞きました。カノン様が待っているのでついてきてください」

「準備が早いのね」

「えぇまぁ。数日前に“あるお方”から、面白い情報が入りまして……」

「それで準備しているときにアイリスから何かしらの形で連絡があったと?」

「はい」


 マーガレットは大きくため息をつく。

 誠斗はその意味をつかめないでいた。


「かつて、亜人追放令を出した一族の子孫が水面下で亜人とつながりがあるなんて、なんていう皮肉かしらね?」

「皮肉……確かにそうかもしれません。ただ、アイリスさんはそのことについて知りませんし、我々妖精……いや、亜人はかつてのような共生を望んでいます。特に“かつての時代”を生きていた者は」

「そう」


 静かにしかしハッキリと自分の意志を告げるマノンと無関心な様子でそれを聞くマーガレット。

 両者とも声を荒げることなく静かな口調での対話であるがその間には確かに温度差を感じた。


「まぁいいわ。一つ聞かせてもらっても言い?」

「……何かしら?」

「その面白い情報とやらはどこから仕入れたのかしら? 少なくとも私たちは森の中で蒸気機関車(あれ)の話はしていないし、あなたたちも森からでることはかなわないでしょ?」

「……確かな筋とだけ言っておくわ。もっとも、最初は内部から漏れたみたいだけど」


 マノンの言葉に誠斗は大きくため息をつく。


「なるほど、情報が漏れていたということね。所詮、人の口に戸は立てられないわけかしら」

「じゃないの? まぁ職人に対してはともかく、アイリスさんがちゃんと屋敷の人間を統率できていないのもある意味問題かもしれないわね」

「……どうやら、森から出ていないとは思えないほど広い情報網を持ってるみたいね」

「それはもちろん。いつか亜人の権威が再興した時に世の中の流れから置いて行かれないようにしなければいけませんので」


 二人の表情は穏やかでパッと見ただけでは二人が仲良く見えるかもしれない。

 ただ、なんというか穏やかな表情とは裏腹に二人の言葉にはどこかとげがあって、一色触発の雰囲気を感じるのはなぜだろうか?


 下手に口を挟んで巻き込まれたくないので誠斗はこの場に置いて空気であることを心がける。


 森の木にとまる鳥を観察する誠斗の横で二人の会話は進行していった。


「……ちょっと! マコト聞いてるの?」


 しかし、誠斗の意識はそんなマノンの言葉で引き戻された。


「えっ? えっと、なんだっけ?」

「はぁだーかーらー! そろそろ行かないと行けないって言ってるでしょう? カノン様を始めたくさんの人たちを待たせているんだから」

「えっ? そんなにたくさん待っているの?」

「そうそう。あれ? 説明しなかったっけ? ってしてるわけないか。一応、今回はことがことだからね。この森の中に住む妖精たちを集めて“妖精議会”を開こうっていう話になったの。それで、あなたはその場において妖精たちと蒸気機関車っていう奴を小さくしたの……だっけ? まぁいいや。それを走らせることについていろいろと話し合ってもらうから。まぁ議会って言っても妖精の議会だし、人間の議会みたいに厳粛なもんでもないからそんなに気を張らなくてもいいわよ」


 軽く言ってのけるマノンに対してマーガレットは眉をひそめる。


「それ、わざわざ妖精議会を開くほどのことかしら? あんたたちのトップさえ納得すればいいでしょうに」

「……そうは言いたいんだけどね。さすがにほら、森の中に手を加えるとなるとほかの妖精たちにも事実を周知する必要があるでしょ? そう考えると、周りへの周知も兼ねて議会の方がいいのよ。まぁ出席率が低いことは否めないけれど、来ないなら来ないで自己責任だし、決定に対してあとから文句を言うやつなんていないわ」

「妖精ってお気楽でいいわね」

「それが理由じゃないんだけど……まぁいいわ」


 マノンはどこか諦めた様子だ。

 彼女は、誠斗の手を持つと早々にその場を立ち去ろうとする。


「……ほんと、妖精っていうのは何を考えているのかわからないわね」


 マーガレットのそんな言葉を背にマノンと誠斗は森の奥へと入って行った。




 *




 森の中を進むと、以前謎の声が聞こえたあたりまでやってくる。

 しかし、マノンはその場所を通過してさらに奥……大木の根元へと向かっていく。


「妖精議会ってどこでやるの?」

「それはセントラルエリアの中央部……願いの木のすぐ根本で開かれるわ。妖精すべてと言っても妖精自体の数が少ないから仮に全員参加しても100人よりちょっと多いぐらいかしら?」

「そうなの?」

「えぇ。別に私たちは他の生物と違って繁殖しないし、基本的に不死だから数は少ないのよ。まぁ数は忘れちゃったけれど」

「そうなんだ……」


 こういう風に話をしていると、確かにマーガレットが指摘する通り彼女たちはかなり気楽なのかもしれない。

 そんなことを思いながら誠斗はマノンの後ろについていく。


「おい。マノンじゃねーか」


 声のした方を振り向いてみると、木の上に一人の妖精が腰かけていた。

 彼女は手に持ったリンゴのような果実をかじりながらこちらを見下ろしている。


「久しぶりですね。シャノン様」

「そうだな。ざっと、100年ぶりぐらいか? にしてもなんだ。お前と一緒にいるってことはそこの奴が今回の証人か?」

「えぇ。それにしてもあなたがここにいるということは妖精議会に出席なさるんですか?」

「あぁ当然さ。何せ、シルクちゃんからの情報だと今回はなかなか面白い議題が挙がるらしいじゃん! 議会を開会すること自体50年ぶりなんだからさ、参加しなきゃ損だっての!」


 シャノンと呼ばれていた妖精は不敵な笑みを浮かべて果実をかじる。


 その様子を見ながら、誠斗は横にいるマノンに話しかけた。


「ねぇ。議会が50年ぶりって本当?」

「えぇ。昔は年に数回は開かれていたんだけど、最近は特に議題もなかったから。だから、マーガレットは大事だって思っているのかもしれないわね」

「そういうものなの?」

「そーいうものなの。そう考えると、みんな面白がって参加するかもね。みんな、面白いこと大好きだし、シャノン様の様子からしてずいぶんと知れ渡っているみたいだし。あぁそれと、先ほどシャノン様が出した“シルク”という名前は他言無用で……聞かなかったことにしてください」


 マノンがため息混じりにつぶやいた。

 おそらく、そのシルクという人物が妖精と関わっていると他に知れるとまずいということなのだろう。


「うん。わかった」


 誠斗の返事を聞くと、マノンはどこかホッとした様子で胸をなでおろした。


 その一連の流れをシャノンは楽しげに見下ろしている。


「まぁあれだ。議会にはリャノンも参加するって言ってたし、面白いことになるかもな」

「げっリェノン様まで来るんですか!」


 マノンは誠斗と話すためにやや下を向けていた顔を何かにはじかれたように上げる。

 その様子を見て、シャノンはこれまた楽しそうな笑みを浮かべた。


「おいおい。いくらなんでも“げっ”は失礼だろ……本人に聞かれたらどうなるか……」

「はっすいません!」


 今度は先ほどとは逆できれいに九十度近く頭を下げる。

 そんなマノンの目の前にシャノンは降りてゆっくりと歩み寄る。


「いやいやだいじょーぶだって、いくら私でも言いふらしたりはしないよ……その代わり、ちょっとあとで頼まれてくれてもいいかい?」

「はい?」

「いやいや、無茶なことじゃないから……なっ? いいだろ?」


 シャノンはがっちりとマノンと肩を組み耳元で語りかける。

 マノンが助けを乞うような目をこちらに向けてくるがとりあえずは見ないふりをしておいた方がいいだろう。


「なぁマノン頼むよ……ちょっと面白い情報を手に入れてな」

「シャノン様の面白い情報というのはたいてい碌でもない気がするのですが?」

「そういうなって、ほら……私のお願いを聞くのとリェノンの雷を喰らうのどっちがいい? ほら、リャノンの場合雷の妖精だろ? だったらさ、比喩じゃなくて本物の雷が降ってくるぜ? これは間違いない。そうやって何度も黒こげにされてきたんだからさ」


 二人の表情は見えないが言葉だけでもマノンがどんどんと追い詰められていくのが良くわかる。というよりもリャノンなる人物は妖精たちにそんなに恐れられているのだろうか?

 だが、どちらにしてもその容姿のせいで見た目は“先生に言わないで上げるからさ、お願い聞いてよ”ぐらいに見えてしまう。まちがいなく、彼女たちは誠斗よりも年上なのでそういった次元の話ではないのかもしれないが……


 その後、マノンの必死の抵抗もむなしく後日、シャノンのお願いを聞くという方向で合意したようだ。


 怒っているのか、マノンが大量の涙をためた目でこちらをにらんできたが、先ほどの会話同様にその幼い容姿のせいで迫力がない。


「えっと……ごめん」

「ごめんで済めば兵隊はいりません!」


 彼女はそう言い放って誠斗の胸板をポカポカとたたき始めた。

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