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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第三章
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十五駅目 アイリスの頼みごと

 アイリスの部屋につくなり、マーガレットはさっそくソファに腰かけて紅茶と大量の砂糖を要求する。

 ただ、そんなことはすでに想定済みだったのか、紅茶はすぐに出てくる。


「それで一体全体どういうつもり? 私たちまだ、依頼の報酬すら受け取ってないんだけど」


 マーガレットは紅茶に砂糖を入れながら問いかける。


「あぁ大丈夫。それも払うさ。それに見ようによっちゃ、頼みごとで渡すもの自体も報酬の一部になるかもな」

「どういうこと?」


 アイリスの言葉にマーガレットは眉をひそめるが、彼女はそんなこと気にしないといわんばかりに紅茶を飲んでいる。


「まぁそんなに焦るな。ちゃんと報酬は用意してあるよ」

「……なら、いいけど。もっとも領主さまたるあんたが報酬を踏み倒さるとも思えないしね」

「そりゃそうだ」


 マーガレットは紅茶に砂糖を入れ続け、アイリスは自嘲的な笑みを浮かべて紅茶に口をつける。

 そんな二人に挟まれるような形になっている誠斗は静かに紅茶の味を楽しんでいた。


「そうだな。まずは払うものを払っちゃった方がいいかもな。うん」


 そういうと、アイリスはそばに控えていたメイドに合図をする。

 メイドは頭を下げると、部屋の奥にある机の上に置かれていた黒い箱を持ってくる。


「ありがとう。下がっていいよ」

「かしこまりました」


 箱を置いたメイドは再び深々と頭を下げて下がっていく。

 それを確認したアイリスはゆっくりとその箱を開ける。


「さて、まずは報酬だけど、合計で12000ルル用意させてもらった。一人6000ルルの計算ね」

「12000ルル? いくらなんでも多すぎじゃないの?」

「外部から専門の魔法使いを雇っていたらこの程度じゃすまないよ。むしろ安いぐらいだ。ご丁寧にいろいろとあの部屋の魔法の使い方についても書いてくれたみたいだしな」


 誠斗はこの世界の物価について詳しくはないが、マーガレットの反応からしてそれなりの金額なのだろう。

 マーガレットは“二人分の”報酬を懐に収めると、激甘紅茶に口をつける。


「それで? マコト君に頼みたいとっていうのは何?」

「まったく、本当にせっかちだな……ちょっと待ってろ」


 そういうと、アイリスは立ち上がり足早に部屋から出て行ってしまう。


 それを見届けたマーガレットは紅茶のカップを机に置いた。


「そうそう。誠斗。アイリスの奴が言っている頼みごとのことだけど。嫌だったら断りなさい」

「えっ?」


 記憶が正しければ今のところ彼女の頼みごとの内容は聞いていないはずだ。

 マーガレットは小さくため息を吐いてから説明する。


「……あんまりこういうこと言いたくないんだけど、あの子こっちが断らないと次はこれその次はこれってどんどんどんどん言ってくるのよ。だから、どこかのタイミングでこれ以上はできませんって言わないと調子に乗って色々頼まれることになるわよ。もちろん、頼まれた内容が自分に有益だったり、やりたいって思えることだったら断然やってもらって構わないけど、どちらにしてもある程度のところで止めないと後からえらい目に合っても知らないわよ」

「……わかった。気を付けるよ」


 彼女の言いぐさからして過去に何かあったのかもしれない。


 そんなことを考えながら誠斗は程よく冷めた紅茶に口をつける。


「待たせたね」


 ちょうど、その話が終わったタイミングで何やら大きな荷物を抱えたアイリスが姿を現す。


「それは?」

「まぁまぁまずは見ろって」


 アイリスは机の上のモノをどかして箱を中央に置く。

 厳重に閉じられているその箱を丁寧にあけると、そこからは何かの部品と思われるモノが姿を見せる。


「なにこれ?」

「例の蒸気機関車の部品をまんま小さくしたモノだ。それで、頼みたいことっていうのはこれを使って小さい蒸気機関車を製作してほしいわけだ。とりあえず、説明書通りに組み立ててもらえばいいから」

「……はい?」


 とりあえず、目の前のモノ何かは理解できた。

 しかし、それをどうすればいいというのだろうか?


「はぁその顔まったく理解してないな……いいか? そもそもだ。仮に蒸気機関車に客車なり貨車をつなげて走らせるとしよう。ただ、この世界でマコトがもといた世界とまったくおんなじようにやれるか?」

「そういえば……」


 言われてみればそうだ。

 そもそも、誠斗には鉄道の運行に関する知識など皆無でせめて乗客は駅で乗り降りしていて、時間通りに動き、信号が青で進み、赤なら止まるというぐらいのことしか知らない。

 その程度の知識で安全に鉄道を動かせるかと聞かれれば否だ。


「あの修理記録には線路とかいう専用の道についても記述があったから、それはおいおいシャルロの森までもっていくよ。とりあえず、私としては将来のことを考えていろいろと実験をしてほしいわけだ。欲を言えば、この世界の毛色に合うように改造してみたいしな」

「なるほどね……」

「そう! だから、蒸気機関車が実際に走っている姿を知っているマコトに頼みたいっていうわけだよ。数がほしいならいくらで用意するし、改造したいならしてもらっても構わない。あぁそうそう。ここまでやったんなら組み立ててほしいっていうのはなしだ。マコトが組み立てることに意味があるんだからな」


 アイリスは自信ありげにそういうものだから、誠斗は思わずうなづいてしまう。

 マーガレットの方を見ると彼女もまた、どこか納得したような表情を浮かべていた。


「それで? やってくれるのかい?」


 やらなくてもいいんだよ? と言外に言われている気がする。

 誠斗は数秒空を仰ぎ考えをまとめてから口を開く。


「いいよ。やるよ。線路とかもちゃんと用意してくれるんでしょ?」

「まぁそうだな。あとは、森の中に線路を引くための下準備をしてもらわないといけないな」

「下準備?」

「そう。主に妖精との交渉と線路を引くための整地。説明を見る限り、デコボコの場所にひいていいものでもなさそうだしな。妖精の方は……言わなくてもわかるでしょ?」


 アイリスは横目で誠斗の表情を観察する。


「まぁもっとも、“表向きには”シャルロ領の領主と妖精の間に交友なんてないからね。線路云々はこっちでやるにしてもそればっかりはどうにもならないんだよね。だからと言って、マーガレットに行ってもらったところでマーガレットとカノンちゃんは昔からそりが合わないからね。交渉の結果がどうなるかなんて火を見るよりも明らかだ」

「まぁそれもそうね。でも、あのバカ妖精どもがそう簡単に森に手を加えさせてくれるかしら?」

「さぁな。それはマコトの交渉次第だ。まぁ森の中がダメなら人の目に触れる危険性があるが、シャルロッテ家の私有地ででもやることにするよ」


 最初からそこでやればいいのではないか? という疑問は口にしてはならないのだろうか?

 先ほどは多少考えたとはいえ、その場の勢いで返事をしてしまった感が否めず、マーガレットもあきれたような表情を浮かべていた。


「まぁあれだ。そういうわけだから、実際に動かすとしてこんな問題があるんじゃないかとか、マーガレットと話し合ってこういう改造を施せばいいとか存分に話し合ってもらってもいいから。それじゃ、頼むよ。そうだ。それと、それの組み立てだけどなるべく早い方がいいな。何もやらないまま本物が先に出来たら意味がないし」


 そう言うと、アイリスはホクホクした笑顔を浮かべて部屋から出て行った。

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