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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第三章
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十四駅目 蒸気機関車の修理

 マミ・シャルロッテの秘密書斎の整理を始めてから約三日。

 山積みになっていた本もきれいに片付き、依頼を完遂したマーガレットと誠斗は蒸気機関車を修理している庭を訪れていた。

 依頼の報告も兼ねて修理状況を見るためだ。


「どんな状況ですか?」


 誠斗はアイリスの姿を見かけるなりさっそく声をかける。

 その声でようやく誠斗たちの存在に気付いたアイリスは二人の下へ駆け寄ってきた。


「よっ来たのか。まぁ状況だろ? 状況は……まぁよくはないな。いろいろと調べてみたんだが、いかんせん未知の技術が多すぎる。まったく、あの方はどうやってこんなものを修理したんだろうね」

「さぁね。修理記録にその辺ちゃんと書いてあるんじゃないの?」


 マーガレットはさも当然のように言ってのけるが、アイリスはまいったといわんばかりにゆっくりと首を振る。


「いや、さっぱりだ。そもそも、彼女がちゃんと修理記録を作ろうっていうつもりでこれを書いたのか怪しいレベルさ。おそらく、修理中に気づいたことをメモしていったっていうのが真相かもな。そうすると、あの書斎にあったっていうのも十分理解できるしな」

「そう。まぁある程度予想はついていたわ。でも、まったく、手を付けられないわけでもないでしょう?」

「あぁそりゃそうさ。出来る限りやるようにはしている……ただ、少々妙なことがあってな」

「妙なこと?」

「あぁそうだ。確か、この辺に……あった。ほい」


 アイリスがポケットから取り出したものを軽く放る。

 情景反射的にそれを受け取った誠斗は手の中に収まったものを見て、これ以上ないぐらいに目を丸くした。

 誠斗の手元に今あるのは本にはさむしおりぐらいの細長い布だ。


 しかし、誠斗の目は赤いその布のデザインに奪われた。


「これって……」

「あぁ修理記録に挟まっていた。赤地に金で刺しゅうされた片翼の翼。どういった経緯か知らないが、こいつの修理には十六翼議会(厄介な連中)が関わっていたらしいな。あの方が直接奴らと関わりがあったのか、はたまた修理関係者に紛れていたのかわからないけれど……なんで修理記録なんかにはさんであるんだかね。というよりもなんだ? 十六翼議会のこと知っているのか?」

「えっと……」

「私が教えたのよ。ちょっと、事情があってね……あまり深く突っ込まないでくれると助かるんだけど。それよりも修理状況をこの目で確かめたいんだけど」

「そうか……まぁいいよ」


 どう説明しようか迷った誠斗であったが、マーガレットの助け舟により何とか切り抜ける。


「それじゃ、今から行くよ。まぁよっぽどかないと思うけれど事故にだけは気を付けろよ」

「わかってる」


 アイリスの後ろについて誠斗とマーガレットは天幕の中に入っていく。


「ほう……これは……」

「なかなか大規模だろ? 結構、苦労したんだぜ。これだけの数の鍛冶職人を集めるの」

「だろうな。いいのか? こんなことして」

「あぁ問題ない問題ない。むしろ、みんな興味を持って集まってくれたよ」

「そうか」


 二人のそんな会話を聞きながら天幕をくぐると、そこには数十人の鍛冶職人が機関車の部品一つ一つを分解して修理をしている光景が広がっていた。

 職人たちは修理記録を写したものだと思われる紙を片手にそれぞれ仕事に取り掛かっていた。


「あぁアイリス様! お疲れ様です!」

「お疲れ様です!」


 職人の一人がアイリスの存在に気づいてあいさつをすると、残りの職人たちもそれに倣うように声を合わせる。


「おう。ご苦労様。今日は客人が見学に来ている。くれぐれも事故だけはないように」

「わかってるよ! まぁもっとも客人の有り無しにかかわらねーけどな!」


 一人の職人が声を張り上げ、皆がそれに同調する雰囲気を見せる。

 実によく統率がとれている。


 誠斗は心の底からそう思った。


 実際、彼らはアイリスを信頼し、アイリスも彼らを信頼しているのだろう。


 なんとなくではあるが、そんな雰囲気が伝わってくる。


「さて、それじゃちゃっちゃと修理を終わらせるよ!」

「おー!」

「よし! 作業再開だ!」

「おうっ!」


 職人たちとの会話を終えたアイリスはクルリとこちらを振り返り、ばつの悪そうな顔を作る。


「悪いな」

「いやいや、別に気にしないよ」

「そうか。まぁどちらにしても修理状況の説明に移らせてもらおうか……」


 そういうと、アイリスは先ほど片翼の翼が刺しゅうされた布を取り出したのと反対側のポケットから丁寧に折りたたまれている紙を取り出した。

 その紙はおそらく、職人たちが持っている修理記録の写しなのだろうが、見た感じ一部が黒塗りされているように見えた。


「マーガレット……あの紙って」


 誠斗はマーガレットのそばによって耳打ちする。


「……おそらく、オリジナルの本から念写したんだろうな。並大抵の魔法じゃ念写した内容を改ざんできないっていうのが利点だ。して、それを踏まえたうえで考えると、あの黒塗りは原本からそうなっていたとみて間違いない。まぁ黒塗りにしたのがマミかアイリスかを見極めるのは無理だろうな」

「そういうものなの?」

「まぁな。確か、アイリスは念写の魔法が使えたはずだからな。あの本を修理段階に応じて何枚か念写して、それを職人たちに写させたうえで使っているはずだ。まぁ中身を確認していなかった以上、どこが黒塗りになっているか今頃見ることはできないが、少なくとも修理の段階、またはメモの一部を黒塗りにするとは考えづらい。おそらくはあまり人には見られたくない情報だったっていう可能性が高いかもな」


 大体、理解できた気がする。

 マーガレットははっきりと言及していないが、恐らく文書を黒塗りにしたのは執筆者であるマミ本人だろう。

 マミが修理記録を一通り書いた後で人に見られてはまずい情報を黒塗りにしたというのが一番わかりやすくて納得できる真相だ。


「やっと準備ができた。それじゃ、さっそく今現在でわかったことについて説明するよ」


 いつの間にか多数の紙を持っていたアイリスが誠斗たちの前に出る。


「まず、この蒸気機関車の形式……まぁ製造番号か型番の可能性もあるが、こいつによると“C12265”と書いてあるプレートがかかっていた。他にも多数の文字やなんかが見受けられるが解読は不能。恐らく、誠斗の世界の言語だろうな。これに関しては修理が完了する段階で解読してもらうとするよ。そんでもって、修理の状況というとすべての部品を取り出して、個別に修理している段階だ。と言っても部品が存外多くて分解するだけでも手を焼いているけどな。そもそも、見たこともない部品や仕組みが多すぎて完全に手探りの状態だ。本当によく一人で修理をしたよ。あの方は」

「なるほどね……」

「あぁそうだ。一つマコトに頼みたいことがある」


 スッと紙から顔を上げたアイリスが誠斗のすぐそばまで近づいてその手を取る。


「ぜひとも、お願いしたい。まぁここで話す話でもないし、私の部屋まで来てくれ。もちろん、マーガレットもな」

「えぇ。呼ばれなくても行くつもりでいたわ」


 マーガレットの言葉にアイリスは予想通りだといわんばかりの苦笑を浮かべる。


「そんなことだろうと思ったよ。ついてきてくれ」


 そう言って、アイリスは踵を返し、誠斗のそばを抜けて屋敷の方へと歩き出す。


 その背中を追うように誠斗とマーガレットも屋敷の方へと向かっていった。

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