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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第二章
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十三駅目 扉の魔法の解除

 ガラスペンなどが入った紙袋を持って大通りに戻ると、夕刻になっているせいか昼間よりもにぎわっていた。

 そんな中を早々に抜けて帰ってきた二人は夕食をとったあと、屋根裏の書斎に戻っていた。といっても本の整理はいったん休みで誠斗がこちらの世界の文字を読み書きできるように練習をしていた。


「ほら、せっかくいいペンを買ってやったんだ。使えなかったら損だろ? ほら、練習あるのみ。まずは、この文章を写して」

「えっと……なんて書いてあるの?」

「あなたが、さっき言った日記の内容よ。ほら、なんのためにペンを買ったのかわからなくなるわ」


 どうやら、マーガレットは誠斗が字の読み書きができないという状況にかなり困っていたらしく、それができるように日記を書くという提案をしたようだ。


 誠斗は自分が書いているのが本当に自分が日記に書こうとした内容なのかという疑問を持ちながらも誠斗は目の前に書いてある文字を写す。


 この世界で使われている文字は数字はおそらく誠斗が住んでいた世界と同様でいいのだろうが、それ以外の文字がまるで理解できない。

 文字はよくある小説みたいに自然と読めるようになるなどということもなく、目の前には日本語や英語とは全く違う言語が広がっている。


 誠斗はそれらを日記の内容を思い出しながらゆっくりと書き進めた。

 ただ書き写すだけでは意味がないということを説明されなくても理解していたからだ。


 それを書いている横でマーガレットは別の紙に何やら文字を連ねている。


 誠斗が四苦八苦しながら文字の書き写しを終えると、今度は先ほどまで書いていた紙を渡された。


「これは文字の練習用。ここから“あいうえお”の順番で並んでいるわ」


 そう言って彼女は一番右端の文字を指差す。

 そこから横一列に左方向に記されているのが、日本語でいう“あいうえお”にあたる文字なのだろう。


 誠斗はそれを受け取って黙々と文字を書き始める。

 その様子をマーガレットは優雅に紅茶を飲みながら眺めていて、それは夜中まで続いた。


 それをしながら、この世界の文字をちゃんと覚えられるまで時間がかかるかもしれないなとぼんやり考えていた。




 *




 次の日。

 日の出と同時に起こされた誠斗は重いまぶたをこすりながら起床する。


 この世界に来て一週間が経つが、いまだに日の出と同時に起きるということに体が慣れる気配がない。


 少しふらふらとした足取りで書斎机の方へ行くと、その上にはすでに朝食が用意されていて、マーガレットとアイリスは先に食事をとり始めていた。


「やっと来たか。まったく、シャキッと起きてすぐにこっちに来れないのか?」

「いやいや、そう簡単に生活習慣なんて改善できないよ。まぁどうせこれから冬になって日が短くなるんだからさ、少しぐらいゆっくりと寝かしてあげてもいいんじゃないの?」

「あのねぇ、そんなこと言ったら夏に起きられないでしょうが……」


 二人のそんな会話を聞きながら誠斗は書斎机の横に置かれているイスに座る。


「マコト、今日扉にかかっている魔法をいじるわ。朝食を食べたらすぐに準備に取り掛かるから頭に入れておいてちょうだい」

「わかった」

「おぉ! さっすがマーガレット! いやー外に買い物に行ったりしてて若干不安だったけど、二日目にして扉の魔法を解除してくれるとは! 仕事が早くて助かるよ!」


 アイリスが前に乗り出すようにしてマーガレットに迫る。

 マーガレットはそれを迷惑そうに押し戻しながら、例のごとく大量の砂糖が入った激甘紅茶に口をつける。


「ただ、そうはいっても完全な解除というわけにはいかないわ。書斎の整理で出てきた本をいろいろとみてみたんだけど、どうやっても“マミ・シャルロッテの血を引く人間しか開けない”という制限は外せそうにないわね。これに関しては、他よりも強力な魔法が使われているし、そもそもそれを発動させるための魔法陣がこの部屋にあるかどうかすら怪しいレベルだわ」

「どういうことだ?」

「……扉もそうだけど、この書斎の取扱説明書のようなモノがいくつか存在しているのよ。そもそも、この書斎自体、あまり本を整理して入れているわけじゃないみたいだから探すだけでも結構苦労したんだけどね。それには、扉を今の方法を使わずに開ける方法が記載されているわ。ただ、どうしても扉の開ける資格としてマミ・シャルロッテの血を引いたものが必要という制限を外す方法がないの。恐らく、彼女としてはここにある情報がシャルロッテ家の外に出るのがあまり好ましくないという考えがあるんだと思うわ。だから、魔力だったり血は必要なくなるかもしれないけれど、あなたが直接やらないと開けないといけないというのは変わらないというのを頭に入れておいてちょうだい」


 マーガレットの説明を真剣に聞いていたアイリスは少し間をおいてから納得したようにうなづいた。


「……まぁどちらにしてもすべてなしじゃ問題も発生するだろうしな……それでいいよ」

「ありがとう」


 その話が終わると、今度は誠斗も交えて雑談が始まる。

 対して特筆すべき内容の話はなく、穏やかな雰囲気で朝食は終わった。




 *




 アイリスが両手に修理記録を抱えて部屋を出ていくのを見送った後、マーガレットと誠斗はさっそく扉の魔法を解除するための準備に取り掛かっていた。


「えっと、その本をもうちょっと右に移して……そうそう。そのぐらい」


 誠斗は彼女の指示にしたがって、背表紙に桜の魔法陣が書かれている本を並べていく。

 それらを並べてみると、花びらの塗りつぶされている部分やその色が少しずつ違っているのが良くわかった。


「ほら、さっさとする。今度は……えっと、そこの赤い本ね。一番上の花びらだけが塗りつぶされている奴。それは、扉の前に持って行って」

「赤くて上が塗りつぶされている……これか」


 マーガレット曰く取扱説明書には書斎机の上の魔法陣が書かれた本を所定の位置に動かすことによってそれぞれの魔法を制御するという内容のことが書かれているらしく、約三十冊に及ぶ本を部屋のあちらこちらに置く必要があった。

 そのため、マーガレットが本を読みながら本の配置を指示し、誠斗がそれにならって本を置いていくという形で準備をしている。


「……最後に一番大きい本を書斎机においてちょうだい。そこから先は私がやるわ」


 その指示に従って誠斗が本を書斎机の上に置いたのを確認すると、マーガレットは本を閉じて立ち上がり書斎机の前に移動する。


「……これから、扉にかかわる魔法陣を起動するわ。ちょっと、離れて」


 誠斗は小さくうなづいて扉から一番遠い本棚の前に移動する。


 それを確認したマーガレットは書斎机の上の本の魔法陣に手を触れて目をつむった。


「“扉の認証は解除。そして、シャルロッテの血を引くものを選べ”」


 彼女の言葉と同時に花びらの魔法陣が次々と光始める。

 よく見れば、それぞれの魔法陣の花びらの一つ一つが塗りつぶされているところを起点に順番に点滅していることがわかる。


「すごい……」


 思わずそんな声が漏れてしまう。

 あの図書館風の部屋に飛ばされたときも同様の風景が見られたが、今目の前に広がるのはそれとは違う美しさを超えて神々しささえ感じられる風景だ。

 ちょうど、外から朝の鐘の音が聞こえてきているということもあってそういった雰囲気を余計に醸し出している。


「……あと少し……」


 そうつぶやく、マーガレットの額には汗がにじんでいる。

 彼女は書斎机の上の本の魔法陣の花びらを順々にさわっていく。


「木、水、火、金、木、土、水、金、土……これで……最後!」


 マーガレットが魔法陣の中心に手を動かすと、光は徐々に収まっていく。

 やがて、光が完全に収まると“ガチャ”という音が静かな空間の中に響いた。


「はぁ……何とか、成功したみたいね……」


 マーガレットはへなへなとイスに崩れ落ち誠斗がすぐにそばに駆け寄った。


「大丈夫?」

「……私を、誰だと思っているのよ。ただ、あいつが……仕掛けた魔法が少し面倒な動かし方だってだけで……これぐらいなら全然平気よ」

「そう? マーガレットがそういうならいいけど……」

「えぇ。何の問題もないわ。ただ、さすがに疲れたわ。ちょっと寝るから……変なことするんじゃないわよ」


 そういうと、彼女は書斎机に身を預け、スヤスヤと寝息を立て始める。

 誠斗は今朝自分が使っていた毛布を彼女にかけ、少し離れたところにあるイスに座る。


「そういえば、マーガレットが寝ているところって初めて見た気がする……」


 しばらく、マーガレットの寝顔を観察していた誠斗であったが、依頼が一段落して気が抜けたのか、はたまた日の出と同時に起きていたためか、いつの間にか誠斗もイスに座ったまま眠りについていた。

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