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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第二章
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十駅目 人間と亜人の歴史

「して、早速始めるわよ」


 あれからいったん帰って軽く準備を整えた後、二人はすぐに屋根裏の秘密書斎に戻ってきていた。


 管理者のアイリス曰く開閉に非常に体力を使うからとりあえず、まずは簡単に開くようにしてほしいといっていた。そのため、二人は一番最初に扉の仕組みを調べ始めた。

 あの扉には三つの仕掛けが施されているらしく、それらをどの程度解除できるかがカギになるらしい。


「全く……この程度の術式の操作で疲れるなんていよいよ人類が魔法を使えなくなる日が近いかもね」


 扉を閉じていた魔法の分析をしながらマーガレットがため息をつく。


「そういうものなのか?」

「そういうものなのよ。今から数百年前の亜人追放令を巡る騒動が落ち着いてから長らく戦争なんてなかったからね。要するにあれよ。世代を超えるにしたがってだんだんと人類が魔法の素質を失っているのよ」


 マーガレットは、さも当たり前のようにそう言い放つ。

 恐らく、長らくの平和の中で人類の遺伝子から徐々に魔法に関するものが失われているということなのだろう。

 そう考える一方で誠斗の中にもう一つの疑問が生まれる。


「そういえば、亜人追放令ってなに?」


 直接、この単語で聞いているわけではないがツリーハウスでマノンとマーガレットが会話しているときもそのようなことを言っていた。

 マーガレットは小さくため息をつくと書斎のイスに腰掛けた。


「そうね。簡単に言うと、この世界は人間のものなのだから、亜人はいてはならない存在だ。なんて言うところかしら? まぁどちらにしても、この書斎を整理するにあたり知らなくてならないことだから、それ関連のモノが出てきたら話そうと思っていたんだけど、どうせなら今から話すことにするわ。この書斎の主たるマミ・シャルロッテという人物のことも含めてね。して、どう考えても話は長くなるでしょうから座って頂戴」


 マーガレットに促され、誠斗はイスに座る。

 それを確認した彼女は手に持っていた本を書斎机の上に戻してゆっくりと語り始めた。


「そもそも、前提条件としてこの世界には私たち人間のほかに亜人と呼ばれる種族がいる。代表的なのを挙げていくと大妖精、妖精、吸血鬼、人魚、エルフ、小人、ドワーフ、獣人、魔族あたりになるかしら。今は彼らは世界の各所に隠れ住んでいて、滅多にその姿を見ることはできないけれど、かつては世界のどこででもその見かけることができた」

「見かけることができた?」


 なんだか引っ掛かるものいいだ。


 マーガレットはゆっくりと立ち上がり魔法を使って手元に本を出す。


「そう。当時は人間を元首とする多数の国家が乱立し、国同士の争いは絶えなかった。このせいで歴史もっとも、平和から程遠かった時代なんて言われているけれど、その一方で人間や亜人を交えた人類がもっとも共生できていた時代とも言われているわ。人間が頭脳を使い、ドワーフが道具を作る。エルフが魔法で後方から攻撃し、空いた穴をドワーフが作った武器を持った獣人の部隊が責め立てる。人魚は敵将をまどわして作戦を聞きだし、吸血鬼が夜に忍び寄って暗殺する……多くの種族がこうして協力をしていた。皮肉なことに世界規模の戦争が人間と亜人の結束を確かなものにしていたのよ。もっとも、妖精や魔族を始め当時からすでに独自の国家を築いていた排他的な種族が存在していたのも事実だけどね」


 マーガレットの手元にあった本が徐々に光を帯びはじめた。


「そして、事の始まりは今から数百年前。ある国家が人間の国を統一し、亜人が支配する国に目を付けたことに始まるわ」


 彼女がそういったのを合図にするように光は一気に書斎を包み込む。

 驚いて周りを見回してみれば、部屋の壁に浮き出た桜の花を模した魔法陣に次々と光を灯していくのが見えた。


「実質的に統一国を支配していたある集団は魔族の国を魔族領。妖精の国を約束された地と呼び、すべての土地は人間のためにあるべきだという考えを示した」


 部屋の中が白い光で満たされる。

 しかし、マーガレットはそのことに気を留める様子もなく語り続ける。


「それがのちに亜人追放令につながる魔族戦争と亜人差別の始まり……」


 マーガレットはそこで言葉を切った。

 誠斗が周りを見回してみると、先ほどの書斎と比べて風景はガラリと変わっている。三階建てぐらいの高さの天井まで届くのではないかというぐらい高い書棚が並び、前後を見てみても向こうの壁は見えなくて、そちらの方へ進んでいけば闇の中に吸い込まれていくのではないかという錯覚すら覚えた。


 当の仕掛け人であるマーガレットは表情一つ変えることなく口を開く。


「さすがにアイリス相手とはいえ依頼に関係のない話をする時間分まで報酬をもらったら忍びないから、魔法で時間の流れが違うところに移動しただけよ。もっとも、この魔法の下準備自体もともとこの部屋に仕組まれていたみたいだから、こういったことも想定していたのかしらね。ちょっと待ってくれるかしら」

「えっ?」


 立ち上がったマーガレットは別の本を召還してそれを開く。


「空間定義。時間を停止、空間を縮小。机を現世へこの世界にあるべき机を代わりに配置」


 それを合図に一気に空間が変化し始める。

 高かった天井は低くなり、壁はすぐ近くに見えるぐらいまで迫って来る。目の前にあった書斎机は白いクロスがかけられたテーブルに変わった。


 どこからか現れたメイドたちが紅茶を淹れて菓子を用意する。


 それを見届けたマーガレットは再び席に着いた。


「待たせたわね。さっそくだけど続きから話をするわ」


 そういうとともにマーガレットは紅茶に砂糖を入れ始める。


「もっとも魔族領をめぐる戦争は開始から約百年後、一人の勇者が魔王を討つことによりあっさりと完結するわ。ただ、問題はそこからだった」

「そこから? あとは妖精の国をせめて終わりじゃないの?」


 誠斗の疑問に答えるようにマーガレットはゆっくりと首を振る。


「そう。それでは終わらなかった。統一国を支配していたとされる集団は魔族領を統一国に編入した一年後に亜人追放令を発令したのよ。それは、すべての亜人に対して都市や町への居住を禁止するという内容のものだった。当初は亜人狩りを行うとされていたそうよ。もっとも、それに対して市民の激しい抗議があったらしく、緩和されたなんて言われているけどね。それも織り込み済みだったらなんて考えたくもないけれど……気になることと言えば、亜人の追放が一段落した頃には妖精は国を放棄して姿を消していたなんてことが起こっていたのよね。そのせいか、誰かが裏で妖精とつながっていて、妖精が逃げるための時間稼ぎだったなんていうことを言い出す人も当時はいたわ。まぁその課程がどうであれ、魔族戦争まで協力関係にあった亜人を人間が切り捨てたという事実に変化はないわ」


 彼女はそういうと、もう一つ砂糖を入れる。


「そして、亜人たちは自らの地位の回復を狙って一斉蜂起した。それが亜人戦争と呼ばれる戦い」


 マーガレットはティスプーンを手に取りゆっくりと紅茶をかきまぜはじめる。


「完全に行方をくらませた妖精たちと魔族戦争で負けたばかりの魔族を除くほとんどの人類が関わることになるこの戦争は、最終的に人間の勝利で終わったわ。そして、その結果が人間と亜人の対立をさらに決定的にしていくことになる……質問はあるかしら?」


 一通り語り終えたマーガレットは大量の砂糖が入った甘い紅茶に口をつける。


「……だったら聞くけれど、統一国を裏から動かしていたある集団って?」


 誠斗が聞くと、マーガレットは小さくため息をつく。


「やっぱりそう来るのね」

「何か問題があるのか?」

「いえ、そんなことはないわ」


 そういうと、マーガレットは立ち上がり書棚から一冊の本を引っ張り出し、それを開いた。


「そもそも、彼らの存在を知る者はごく少数。ただ、その存在を知る人間は現在も存続していると口をそろえるわ。十六人で構成される彼らは“十六翼議会”を名乗り、統一国崩壊後もなお各国へ強い影響力を残しているとされているの。実際は分からないけどね。まぁそれはともかくとして、私が専門職の魔法使いとして活動し始めた当時……亜人追放令が出る少し前ぐらいの時点で私はその構成員の一人と関わりがあった」

「えっ?」


 マーガレットの思わぬ言葉に誠斗は動揺を隠せないでいた。

 紅茶を口につけたマーガレットは少し間をおいてから口を開く。


「……その人物こそ十六翼議会の構成員の一人にして、単なる鍛冶屋を貴族の家にまで押し上げた天才。シャルロ地方初代領主マミ・シャルロッテその人よ」

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