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異世界鉄道株式会社  作者: 白波
第十二章
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七十九駅目 シャルロの宿にて

 エルフ商会の本部を訪れた日の夜。

 宿屋に帰った後もマーガレットは不機嫌そうな表情を隠そうとはしていなかった。


 原因は言わずもがな。エルフ商会で水色の少女と名乗る人物と二人きりにして放っておいたからである。


 なぜ、マーガレットが彼女の事をそこまで嫌っているのか知らないが、ここまで不機嫌になるあたり、相当な理由なのだろう。


「あの……マーガレット?」

「謝っても無駄よ。言い訳は聞きたくないわ」

「いや、そういわれてもね……」


 今、マーガレットが座っているのは二つとってある部屋のうちの一つ。

 誠斗が寝泊りするために用意してもらった一人用の個室のベッドの上だ。


 一人用と銘打つだけあって、部屋においてあるモノは人一人がやっと眠れるような小さなベッドと小さな机、いすが一脚といった具合である。

 これに加えて、ノノンとマーガレットが泊まるためにもう一つ部屋がとってあるのだが、そちらの部屋にはちゃんとベッドが二つあり、いすも二脚用意されている。


 何を言いたいのかといえば、マーガレットが体育座りでベッドを占拠しているのでいつまでたっても誠斗は眠りにつくことができないのだ。なお、ノノンは二人部屋の方で既に布団にくるまって熟睡している。


「あのさ……いつまでそこにいるの?」

「……私の勝手でしょ? あなたが寝るなら一度どくわよ。その代り、マコトがベッドに寝転がったらその上に座るけど」


 そんなことをされて眠れるわけがない。

 いくら子供ほどの背格好だからといって、一晩中上に座られていたら腹部なりなんなりが圧迫されてまったく眠れる気配がしない。

 だが、おそらく睡眠をあまり必要としないマーガレットに対して誠斗は夜にはちゃんと眠らないとそのうち倒れてしまうただの人間だ。


 いっそのこと、ノノンの横で寝てしまおうかとも思ったが、それでは何も変わらない気がする。


「あの……マーガレット?」

「……はぁもういいわよ。とりあえず、どいてあげるわ。でも、次からはあいつと会ったときに二人きりにしないでよね」


 どうやら、気が済んだらしく彼女はふてくされながらもベッドから降りて、机の上のおいてあった自身が泊まる部屋の鍵をもってから扉を開けて部屋から出ていく。


 その姿を誠斗は呆然と眺めていたが、これ以上考えても仕方ないのでベッドに潜り眠ることにした。

 先ほどまでマーガレットが座っていたせいか、少しだけ人のぬくもりを感じるベッドの中で誠斗は静かに眠りについた。




 *




 翌朝。

 誠斗は窓から差し込む朝日で目を覚ました。


 体をゆっくり起こして腹部から足元へと視線を動かしていく。

 どうやら、マーガレットは自室で寝ているようだ。


 そう考えながらベッドから降りようとすると、ベッドの横に備え付けられている椅子に座り、優雅に紅茶をたしなんでいる水色の少女の姿が視線に入った。

 いや、彼女が持っている物体は紅茶と呼称してもいいものなのだろうか? 彼女が持つカップからはそこからあふれるほどの量の砂糖が見え隠れしていて、相当な量の砂糖を投入していることがうかがえる。


 この世界の住民は大量の砂糖かないと、紅茶を飲めないのだろうかとも思ってしまうが、今のところこれほどの砂糖をいれているのは目の前の少女とマーガレットぐらいしか見ないので、その二人が異常なのかもしれない。


「あら、起きましたね」


 呆然とその姿を見つめる誠斗に対して水色の少女は小さく笑みを浮かべながら砂糖が大量に盛ってあるカップを机の上においた。

 どうして、こんなところに彼女がいるのだろうか? そんな疑問が誠斗の頭の中をよぎる。彼女はエルフ商会にいたはずだ。


「ふふっ驚いていますか? 朝、起きたら美少女が横にいる。こんな展開いかがでしょうか?」

「こんな展開も何もどうやって入ってきたのさ?」

「それは企業秘密というやつです。少々宿屋の主人の懐からこの部屋の合鍵を拝借しました。こんなところでいかがでしょうか?」

「つまり、鍵を盗んだと」

「拝借しただけです」


 あくまで水色の少女は鍵を盗んだことを認めたがらない様だ。


 さらに追及しようとする誠斗だが、水色の少女は人差し指をぴんと立てて誠斗の目の前に持ってくる。


「一応、教えておきますとマーガレットもノノンとかいう大妖精がカギをかけたせいで部屋の中に入れずに私と同じ方法で部屋に入っていますよ。こんな反論はいかがでしょうか?」


 そんな彼女の一言で誠斗は一瞬、言葉に詰まる。

 そして、すぐにマーガレットがカギを持っていたという記憶に思い当たり、反論しようとするがその頃にはすでに遅く水色の少女はすでに次の話に移っていた。


「……というわけでして、あなたに聞きたい話があるんですよ」

「どういうわけさ。いや、そうじゃなくて!」

「まぁ私が聞きたいことというのはそこまで難しいことではなくてですね。あなたの真意を知りたいのですよ。こんな提案いかがでしょうか?」

「真意?」


 唐突に真意を聞きたいとだけ言われても理解できるはずがない。

 彼女が何のことについて知りたがっているのだろうか? そんな思いから思わず聞き返してしまった誠斗だが、それに対して水色の少女からの返答はない。

 彼女はただただニコニコとほほ笑んでいるだけだ。


「真意ってなんの真意を話せばいいの?」


 誠斗は改めて、もう一度彼女に尋ねてみる。


「聞きたいですか?」

「聞かなきゃ答えようがない気がするからね」

「そうですか。だったら答えなくてもいいですよ。こんな回答はいかがでしょうか?」


 本気で訳が分からない。

 彼女の意図はどこにあるのだろうか? それ以前に何がしたいのだろうか?


 誠斗がどれだけ思考を巡らせようともその答えは出そうにない。


「して、そういうわけでして……改めて質問をしましょう。あなたの真意は何ですか? いえ、はっきりと言いましょうか。あなたは以前、上位議会のサフラン議長代理に対して、人間と亜人の共存は可能だと答えたと聞いています。その真意について。つまり、本当にそんなことが可能かということを聞いているのです。結論から言えば、私は不可能だと考えています。どういうわけか、サフラン議長代理やカレン書記官は不可能ではないなどと考えているようですが……こんなところでいかがでしょうか?」

「えっと、つまり人間と亜人の共存は可能かってこと?」

「平たくいえばそうなります。この質問の答えはいかがでしょうか?」


 なぜ、みんな揃いも揃ってそんなことを聞くのだろうか?

 その質問になんの意味があるか理解できないが、誠斗は今までと変わらない答えを提示する。


「真意もなにも、ボクは亜人と人間は共存できると思ってるよ。確かにボクは本来、この世界の住民じゃないから実情はよくわからないけれど、ボクは自身をもって不可能じゃないといえると思う」

「そう。だったら、なんで亜人追放令なんてものができたのだと思いますか? それについての記録は残っていませんが、その答えはある程度推測が可能です」

「推測というと?」

「まぁ単純ですよ。十六翼評議会議長のマミ・シャルロッテ様かそのうえの最上位議会が何かしらの理由から共存は無理だと判断した可能性です。こんな推理はいかがでしょうか?」


 水色の少女は自信ありげに持論を述べて、誠斗の姿を射る。

 その様子はまるで自身が一番正しいから異論は認めないと、体現しているようだ。


「まぁそうかもしれないけれど……」

「そうとしかありえません。それとも、これは亜人の方から仕掛けたとでも? さすがにそれはありえないと思いますよ」


 彼女はにっこりとそう告げると、いすから立ち上がり紅茶のカップを手に持った。


「そういうわけでして、私はここで失礼します」


 水色の少女はそういったのを最後に忽然と姿を消す。


 声をかける間もなく、彼女が消えてしまった後、誠斗は呆然と彼女がいたあたりを眺めていたのだが、はっと我に返り、ベッドから降りてマーガレットたちがいる部屋へと向かった。

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