冒険者ギルドにて
意識がとんだのが何時ごろなのか、そもそもあのバトルはどのぐらいの時間やってたのか、そういった細かいところは全く分かっていないが、とりあえず、朝に目が覚めた。
起きたら背中にシリコン以上に柔らかい感触が、そして以前までは貞操の危機すら覚えていたある部分がお尻に当たってこないのを確認して、かつてない安堵感に包まれた。
クルリと寝返りを打ち、眠りの底にいるハルカの唇をこっそりと頂いた。
昨日よりも一層柔らかくなった肌の感触に、性変換すら可能にした奇跡のキスに感謝した。
バタンッ。
扉のしまる音が聞こえたので、とっさにハルカとの朝の挨拶を打ち切って、うっすらと汗を浮かべながら、音のした方へと顔を向けた。
アイシャが外から帰ってきていて、ところどころ返り血と思しき赤い斑点がメイド服を汚していた。
視線が合ったからか、
「おはようございます、アントン様」
との挨拶のあと、スカートの端を少し持ち上げて、何かしらの礼儀作法を行うアイシャ。
「アイシャ、外では何が起きているのか、報告願えるか」
「かしこまりました。
いま現在、フンバの後釜についた息子の戦による外敵せん滅作戦が実行中であります。
アントン様が目覚めるまでの間に、127人の構成員による襲撃がありましたが、いずれも目立った損傷もなく無事撃退に成功しているであります」
127人の殺害。両腕から展開されたミニガンの威力を前に、近距離武器攻撃しか手段がないのであれば、納得しうる話である。時々魔法攻撃を行おうとする者がいたらしいが、詠唱中の硬直状態を狙えば、一方的に始末できるため、魔法使いは今のところそこまで脅威ではないらしい。
唯一、天井裏から襲撃されたときに、超至近距離からサブマシンガンをぶっ放して、返り血をいくつか浴びたぐらいだそうな。
(じーーーーっ)
報告に対して、相づちを打っているとアイシャの方から視線を感じた。
「アイシャ、朝の挨拶をしよう」
「キスでありますか?」
「これからは毎日やるよ」
「望むところであります」
やべー。かわいいメイドさんが瞳を閉じて、こちらの出方を待っているよ。
よーし、俺は男だ。遠慮なく、ぶちゅっとやるよ、ぶちゅっとな。
昨日も感じたが、改めてゆっくりと味わう唇の感触は人間の唇と同じだった。
と自分の体内から気力のようなモノが抜ける感覚が起き、ふわふわとしたものがアイシャに吸収されていく。
「アイシャ、今のは?」
「はい、アントン様のエネルギーの一部を頂き、消費した弾薬の補給・各種機能のオールメンテナンス・損傷部位の修理を行っています」
疑問に対し得られた答え。アイシャ、何気に言うがいろいろ凄すぎる。
「いいえ、ナナシ様の元にお仕えしている聡子様と比べればまだまだであります」
「ナナシ様? また出てきたな、その名前」
「はい。ナナシ様は、私たちのように心を持った機械人に居場所と活躍の機会を与えてくれた恩人とされています」
「どんな人?」
「閲覧制限により、詳しくは存じ上げませんが、訳ありの女の人と銃器をこよなく愛した人という情報が残っています」
訳あり……といえば、ハルカか。中身が男だったのを無理やり女に変換させたからな。ビバ、奇跡のキス。
銃器をこよなく愛した……って、自分も銃器が好きだな。
「そのナナシと自分、話が合いそうだな」
「私もそう思います」
「うーーーー」
話の途中、誰かがうめくので声の方に視線を動かした。
獣人のレミが、寝ぼけまなこのまま、不機嫌そうだ。
「しっこしたい。トイレどこ?」
「こちらでございます」
すぐさまアイシャが案内し、トイレのドアを開け、レミに入るよう勧めていた。
「何これ? 使い方がわからないよ」
異世界のトイレ事情に興味があったので、自分もトイレに駆けつけた。
結論から言うと、現実世界での水洗トイレが完全な状態でそこにあった。
なので、まず、自分が使い方を実践した。
ズボンを下ろした時に、そういえばドアが開いたままで女の子が2人、自分の所作をじーっと凝視していることを思い出したが、構わず用を足した。
ボタンを軽く押して、水が黄色くなった水たまりをあっさりと流しつくしてくれる様を説明したが、獣人には理解が追い付かなかったようだ。
なので、透明な水たまりが再び補充されたのを見計らって、レミのパンツを剥いで、便座に座らせた。
「その状態だったら、問題なくシャーしていいんだ。シャーシャーシャー」
何故か恥ずかしそうにモジモジしているだけで一向に用を足さない様子に少しイラッときていたら、
「アーーンーートーーン、何してるの?」
とハルカが笑顔でやってきた。気のせいか、わずかに黒いオーラのようなモノが見えた気がした。
気にせず、一部始終を伝えると、左右にバシンバシンと力のこもった平手打ちを浴びた。
あまりの痛さにのけ反っていると、その間にハルカがレミにトイレの作法を教えていた。
「アントン様はデリカシーを学ばれることをおススメします」
アイシャのとどめに力なくうなだれるしかない、ある朝のひとコマだった。
―
いつまでもここに留まっていても空腹は満たされない。
よって、この建物から出て、ご飯を食べに行き、念願の冒険者ギルドへといく予定を立てた。
とはいえ、この部屋から廊下に出ると、ちょっとしたスプラッタな光景を拝まなくてはいけなくなる。
朝飯を食べようと暗黒街から抜けようとしているのに、朝飯が受けつけなくなるのもアレだ。いや、自分とハルカとアイシャは仕事柄、問題ないが、レミはまだ幼い。
目を閉じてもらってサッサと移動するということで結論をつけたが、試しにドアを少し開けるだけで、ほんのわずかながらむせかえりそうになる死臭には閉口した。
「強力な風を起こす扇風機が欲しいところだな。あと、サ〇デー」
「扇風機なら、これが」
アイシャがいつものようにサーチすると、用具入れから扇風機が出てきた。
一般家庭用レベルなので、強風のボタンを押してもたかが知れている。
「無いよりはマシ、というレベルか」
「強力にする方法が一つだけあります」
自分のボヤキにアイシャが助け舟を出す。して、その方法は?
「アントン様のキスです」
「扇風機に対して、キスをしろ、と?」
「イエッサー」
マジっすか! しかし、ほかに方法もないことだし、ダメもとでやってみた。
なるべく強力そうなイメージということで、飛行機のジェットエンジンみたいなのを想像しながらキスをすると、少し光ったあと、扇風機がガシャンガシャンと音を立ててごつい仕様に生まれ変わった。
やたらとごついのに、そこは元扇風機。
両手で普通に運べるのには笑ってしまったが。
「で、電力は?」
そういえば、このジェット扇風機(命名)、変身の過程でプラグを失った。
「触って下さい。できれば、優しく。女の子に触れるかのように」
つまり、エロく触れろ! と。
違ったかもしれないが、自分の頭はそう翻訳した。そして、即実行だ。
さわさわさわわ~~~~と、ジェット扇風機を優しく撫でてみた。
ファンが途端に『ふぁ? ふわわわぁん』と刺激に対して、廻りはじめることで応えてきた。
今度はピアノで演奏をするかのようにリズムをとって、全身をマッサージしてみる。
ファンの勢いが増し、やがて台風の暴風域内を思わせるすさまじい風力が発生し、遺体・血だまり・損傷部位を奥の廊下へと津波のように無理やり押し流していった。
「「「!!!???」」」
奥の方で出方を伺っていたのだろう。
対抗勢力が、暴風津波によって運ばれた夥しい量の赤黒い塊に飲み込まれるようにして向こう側の奥の壁にまで流された。そこで終わりではなく、壁によって生まれた逆流が壁にぶつかったエネルギーを利用して元の場所に戻ろうとするも、このジェット扇風機の風力がそれを許さず、結果、逃げ場がなくぐるぐると波が回転を始めた。
かろうじて、並と天井のわずかな隙の酸素で生き延びていた者は、ただ一人、血を見て元気になるあの変態以外は皆、渦の中へと引き込まれ、仲間入りを果たした。
「ありえない話であります」
この時点でも充分に非現実すぎるが、アイシャによると、かの変態がこの血の渦から徐々に離れているという。つまり、川の流れに逆らうかのように血の海の中を泳いで距離を詰めているのだ。
「最大出力だ!」
そんな変態の相手なんて真っ平御免だと思った自分は、ジェット扇風機を甘噛みした。
触られる以上の思わぬ未知の刺激に彼女の勢いはさらに増し、とうとう向こう側の壁が抜けた。
変態は「ア~レ~」と気の抜けた声とともに向こう側へと落ちていった。
アイシャの情報によると、すぐそこに海が広がっているらしく、夥しい血の量と少なくない悪党どもの遺体から、大量の鮫を招くのは想像に難くない。
自分は、変態の冥福を祈っておいた。
その後のジェット扇風機は、急に勢いを失ったが、しばらくのあいだは弱風とともにサ〇デーの匂いをまき散らし、やがて眠りにつくかのように、羽の動きを止めた。
食堂へと向かうまでの道程だが、何故かハルカとアイシャの視線が痛く、レミにいたっては気味悪がられた。トイレでのレッスンのときは珍しく顔を赤らめていたのに、今は視線すらマトモに合わせようともしない。げに女心は理解できない。
―
「申し上げにくいのですが、アントン様のレベルがこれ以上上がる可能性は限りなく低いです」
食事を済ませた後、冒険者ギルドへと向かった。
受付のお姉さんにギルドカードを発行してもらうための手続きをしている最中のことだった。
手のひらから個人情報を読み取る装置に自分が手を触れるや、お姉さんは難しい顔を作った。その後、そう言い切った。
「つまり?」
「アントン様のレベルは8で限界を迎え、今後どんな経験を積まれてもレベルが上がることはないでしょう」
「本当かね?」
「ギルド職員の誇りにかけて」
ここの世界の冒険者はギルドに加入すると、冒険者カードを発行してもらえる。
カードには本人の個人情報と他に『レベル』が存在する。
レベルとは、本人の経験を通した成長を数値化した目安のようなもので、『数値が高い≠凄い』とは一概には言えないものの、ある一定のレベル以上でないと信用が足りず扱えないものが、この世界には存在する。
例えば、この世界の冒険者にとって、身近なところだと武器や防具が該当する。
レベルが10に到達した時点で、それまで見習い冒険者だった者は、ようやく独り立ちを許される。そして、彼彼女たちはレベル10に達するまでの間にじっくりと溜めていた所持金を握りしめ、念願の武器防具を揃え、思い思いの個性を磨いていくのだ。
話を戻そう。
自分はレベルが8が限界でこれ以上の成長は望めないそうだ。ということは、この世界に留まる限り、永遠に初心者状態であり、使用にレベル制限が付くモノは一切の利用が不可能ということになる。
具体的な話になると、下級武器&防具の売買受付(レベル10)、冒険者による馬車の利用(レベル10)、冒険者へのペット騎乗動物の貸与(レベル15)、船の利用(レベル20)、中級武器&防具の売買受付(レベル25)、中級薬剤&猛毒の使用許可(レベル25)~~と、何をするにもレベルを求められる仕様である。
受付のお姉さんは、冒険者になることを諦めるよう勧めた。今なら、仮認定扱いで『キャンセル』という選択肢を採ったとしても社会的ペナルティーを負わずに済む、とも。
タダの一般人として存在するなら公共施設への利用制限レベルは必要なく、お金がやたらとかかるだけですから……とまぁ、親切なんだか余計なお世話なんだか。
「だが、断る」
冒険者のお姉さんは耳を疑った。予想だにしない返答だったようだ。
自分がその親切をはねのけてまでして冒険者を選択したのは、もちろん、理由がある。
冒険者たちがパーティを組むと、どんなに離れた場所にいようとも、リーダーがパーティ解除を行わない限り、自動的にGPS機能が働くという謎仕様をアイシャから聞いている。
そして文言から想像できるように、自分がパーティリーダーを務めることになっている。
「おっさん、何事も諦めが必要だぜぇ」
「アントンと呼べ」
「ああん、初心者風情が生意気言ってんじゃねぇよ」
自分と受付のお姉さんのやり取りをそばで見聞きしていた若い(チャラいとも言う)男が、横槍を入れてきた。
自分の襟首をつかむや、ニヤニヤしながらこちらを見据えている。
手っ取り早く云えば、脅しているつもりなのだろう。
チャラ男相手に、いちいち会話のやり取りをするのも面倒なので、素早く背後に回り込んで、肩の関節を抜き、足を引っかけて押し倒し、体重を乗っけて、ひざ頭の半月板を割っておいた。
何故、そんなことをしたかと?
パッと見て、肩当てと膝当てをしていないから、としか答えようがない。
すると今度は、いつのまにか女が駆け寄ってきて、痛がる男の負傷箇所にうすぼんやりとした光を当て始めた。
男の顔から痛みが引きつつあったので、すかさず女を蹴飛ばした。狙い先は顔。サッカーボールキックというやつだ。思いのほか女の身体は軽く、女がきりもみ状態でギルド職員のカウンター内に飛んでいった。
一方、男が非難に満ちた顔つきから恐怖の眼差しを向けた。何のことはない。振り上げた脚を振りおろしただけだ。男の自慢の顔が幾分か歪み、白目をむき、力なく倒れた。ついでに、漏らしはじめていた。
にわかに周囲が騒然となった。
自分に対する怒りが向けられている。集中しているとも言う。
映画で云うところの、コロッセオのグラディエーターみたいだ。
奴らが腹を立てた理由は察している。
自分が回復役の女を問答無用で蹴り飛ばしたことについて、だろう。しかし、よく考えて欲しいのだが、自分は男が回復するのを待つ必要があるのだろうか?
例えば、我々現実世界側で話をするが、ドンパチをやることになった。
自分がドジを踏んで、相手の弾が腕を貫通した。
自分には医療キットがあった。
自分はそれを使った。その場で。周囲に弾除けになるようなものは何一つない。
相手から、サブマシンガンの弾をしこたま喰らった。
治療中は動くことができないのだ。ただの的である。
自分はケガをする前よりも大きなケガを負った。死ぬかもしれない……。
というより、100%死ぬだろう。
それが嫌なら弾除けになるような分厚い壁を盾にして、仲間の援護射撃が行われている間にサッサと治療を行うべきだ。
いちいち言わなくても分かるとは思うだろうが、説明する。
このチャラ男はこの場から退散するか、女の方が男を説得するなりして死合いの場から退散させるべきだった。
そして、入念な治療に当たるべきだった。その間、チャラ男に仲間がいるのなら、かわりに自分の相手を担当するべきではなかろうか?
それすらもせず、目の前で平然と回復を行うのであれば、蹴られて死んでも文句を言われる筋合いはない。
「どうだろうか?」
一部始終を説明して理解を得るつもりでいたが、
「フザくんな、クズ野郎」
「ここはギルド内なんだぞ。テメェのルールで試合すんなよ、タコ」
「お前みたいなモブ顔風情がオレ等に勝とうなんざ、100年早いんだよ」
などと文句しか言わない。
「待て、3番目。勝負に顔の美醜は関係ないだろう?」
自分の中で一番ヘンテコなことを言った奴を指さし、説明を求めた。
指差した奴は、さっきノしたやつよりもさらにケバケバしく、一瞬、闘技場の闘牛士かと勘違いした。アレは暴れ牛がいるから様になっているが、ここにいるヤツは、自分から見てもイタイ服装に酔いしれたバカにしか思えない。
「それがあるのさ。武器や防具の中には本人の魅力の数値が一定以上ないと使用不可のアイテムがあるんだよ。そして、そういう条件の厳しいアイテムに限って、手に入れたときの武器防具についている付属効果が大変魅力的なのさ。まさに、魅力ある僕ら専用の武器防具なのさ」
「うわ、下らねぇ」
「ふぅむ。初心者はこれだから……おっと、訂正。ずっと初心者のままの君には防具も武器も更新できないというのに、口ばかりは達者だね。
その減らず口、先輩冒険者が身をもって教えてやろうじゃないか」
「そうだぜ、そうだぜ。俺たちゃ親切な先輩方が、生意気なクソ中年に世の中のルールってやつをたっぷり教えてやるぜ」
何だかんだ言いながら、奴らは抜刀してきた。
その数、ざっと20名。
扇状に横に広がっているので、ウージーを召喚し、弾切れを起こすまでの間、横薙ぎするようにしこたま撃ってみた。
ウージーは命中精度こそ問題はあるが、近距離への高速射撃による圧倒的な火力は申し分なく、鉄製防具までの冒険者たちが何もできずに大量失血で倒れていった。
ちなみに魅力がどうたらこうたら言っていた奴は試しに顔に弾が集中的に当たるように撃ち込んでおいた。
ご自慢のイケメンフェイスがへちゃむくれになったことにより、魅力値が大幅ダウンしたのだろう。武器と防具が勝手に外れ、宙に浮いている。
その光景を見て、容姿に自信のある何人かが、武器と防具に自分をアピールしていた。
バカみたいな光景だったので、おひねり代わりにさく裂手榴弾を投げ込んでおいた。
そして、一目散に壁のあるところ目指して逃げた。
レミがボーっとしていたので、反発されるの覚悟で引っ張っておく。掴んだところが悪かったのか、腕を咬まれた。
数秒後にドカンッ! と半端ない炸裂音とともに多数の冒険者が床の上をのたうち回っていた。
さくせんは、だいせいこうだっ!
ただ、相変わらずというか、自分の攻撃はいつも相手を決定的に仕留めることができないでいる。手とか足がちぎれて、激しい出血をしているにもかかわらず、意識がはっきりしており、阿鼻叫喚タイムだ。
まぁ、楽に死ねない分、いつ終わるともしれない痛みを味わわせているわけで、これはこれでいい気味かな、と。
「え?」
彼らご自慢のクセのある武器&防具が、ハルカを射止めたらしい。
光の速さでハルカに接近するや、瞬く間にハルカの所有物になることを認めるようなアナウンスが聞こえてきた。
男のときとは違い、見た目の魅力ではなく、中身の魅力を認めたような言い方だった。ということは……
「ハルカの顔が腫れても装備品は外れなくなった、ということか」
「うわぁあぁぁ、おぅれがぁ、どうんんなぁおもぉぉいで……」
さっきまで魅力がどうこう言っていた連中が、永久に手に入らなくなったことを知って、途端に号泣し始めた。どっかの元議員か、お前らは。
そして、ハルカ、お前の装備姿はまるで……
「リオのカーニバル? まるで孔雀のクィーン」
「これ以上、言わないで!」
さっきまでの男の姿が派手派手しい闘牛士ルックだったからなぁ。
女が装備すると、そう来たか。実際の孔雀のメスは地味なんだが、『元男』の醸す妙味にでも反応したのか?
くぅぅ、こやつ(武器&防具)、出来る!
おっと、バカはこの辺にしておいて、ハルカをフォローしよう。
「あるゲームの『バトルレオタード』を思い出したわ。アレはカッコ良かった」
「本当?」
「ハルカ相手に嘘はつかない。君はキレイなんだから、自信を持って」
恥ずかしがって、胸元を隠すかのように縮こまるハルカに、自分は優しく抱擁して、背中をさすった。
「お取り込み中、すいませんけどの一刀両断へヴぉら」
戦いの最中だというのを忘れていたので、浪人っぽい武士による居合斬り攻撃を喰らいそうになった。そうならなかったのは、割り込んできたアイシャがサブマシンガンですかさず片付け、浪人は絶命した。
とうとう、一人目の犠牲者が出たか。
ちなみに自分の攻撃で人が死ぬことはないが、アイシャやハルカは別だ。
後方でグレートソードを上段構えで待機していた黒塗りの重装甲騎士っぽいのが、「チッ」と舌打ちしたのが聞こえた。
浪人と彼との間にどういう作戦があったのかは知らないが、浪人が死んだことにより、計画が狂ったようだ。
「プランBだ」
「ラジャ―」
と重装甲騎士が隠していた何かを目の前に初公開させる。
前回のネクラマンダーとは一味違った、何らかの魔法使いっぽいのが、自分らに対し、何かをかけてきた。
自分は瞬く間に何かにかかって意識が朦朧とし始めた。
ハルカは、一瞬、顔をしかめたが気合で振り切り、アイシャに至っては、無情にもお返しとばかりにマシンガン掃射を行った。
魔法使い、重装甲騎士の機転で盾になってもらわなければ、死んでいただろう。
「何なんだよー、アイツら」
「我々の常識が効かぬと見える。面妖な奴らよ」
「だけど、あの中で男が一番、魔法に弱いのナ」
「レベル8だからな。魔法耐性など毛の生えたレベルだろう。だが、攻撃力はそこそこにあるぞ」
漏れても構わないと言わんばかりの会話内容から、自分らの討伐方法を思いついたのであろう。
「マズったな。確かに低レベルというのはそれだけ、様々なステータス値が絶望的か。特に相手が実力のある魔法使いだと『魔法耐性』の無さが致命的か」
「大丈夫であります。わたくしが高威力兵器で黒いのの相手をします。アントン様は前回のように距離を詰めてください」
「じゃ、私がアントンに『もしも』がないよう、おまじないをかけるね」
こちら側の姉さんズもなかなかに頼もしい。
両者一歩も互いに引かず。
ギルド内に再び重たい空気が張り付き始めそうになったその時だった。
「ハイハイ、皆さん、そこまで。
皆さんの実力はよ――く理解しましたから、ここまでにしましょう」
のんびりとした声が、自分らの間に堂々と割って入った。
振り向くと、甲冑騎士と魔法使いが慌てながらも畏まっている。
「こんにちは。初心者さん。
私はタルワール支部ギルド長、シュナイダーだ。
ウチの冒険者たちが迷惑をかけたようだね。僕の立場に免じて、今回は大人の対応をお願いしてもらってもいいかな?」
甘いマスクのイケメンが、自分に対し、にこやかな対応で握手を求めてきた。
正直、分が悪かったとこだ。
意地を張ったところで、先程のよく分からない魔法をもう一度貰ったら、今度は意識を保っていられるか怪しい。
なので、素直に握手に応じて、ギルド長の部屋へと案内された。
2014/07/18 読み直し大幅改稿。ギルドのお姉さん、生きてます。
2014/07/20 読み直しやや改稿。読みやすさを工夫。