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アントンの反撃、フンバの最期、ハルカの企み

 光の収束とともに、突如姿を現したメイド姿の機械少女アイシャに一同は再びポカーンをやらかした。

 せっかく呆けているのだから、目覚めの一撃をアイシャに頼んだ。

 アイシャの腕がすぐさま2倍ほど伸びるや、手首がカクンと折れ、砲門が姿を現した。そして、凄まじい噴煙とともにミサイルが不動明王に着弾した。

 自身も炎に包まれている不動明王だが、ミサイルの熱量と爆発威力はそれ以上のようで、真っ赤な素肌が今度は赤い目はそのままに真っ黒な身体になっていた。

 ちっとも動く様子が見られないので、黒焦げになるまで燃え尽き、死んだのかな? と推測を立ててみた。


「ワシハマダマダタタカエルゾ」


>不動明王からマハカーラへとチェンジしました。


 残念なことにまだ生きていた。

 ただ、ランクアップしたわけではないので、強さはそのままで別の存在になったという理解でいいのだろうか?

 ともかく見た目の変化は、マッチョ成分が減って、かわりにたくさんのしなやかによく伸びる腕が生えてきた。そして、ご丁寧なことにも一つ一つの腕が剣を所持しており、マハカーラの剣撃をフォローするかのように一切の反撃のスキを与えない怒涛の剣津波がこちらを狙ってきた。


「アイシャ、時間稼ぎを頼めるか」

「了解であります」


 返事とともにバックステップをとるアイシャの両腕が、またもシステマテックに変化する。

 まるで『トランスフォーーーーゥム』とばかりに、両腕からミニガンが、機動性を上げるためか背中の方はジェットパックが出現して、空を駆け抜けつつ、あらゆる角度からミニガンの弾を浴びせ始めた。


「コシャクナ!」


 無数の弾丸に対し、腕という腕が剣を振りまわし、弾丸の侵入を阻止している。

 正直、身動きの取れない今がチャンスのような気がするが、自分には攻撃手段がない。

 そこで、ハルカの出番である。

 計画としては、ハルカにもキスをして、何かしらの力に目覚めてもらい状況を立て直す!

 うん、イケるイケる!


 というわけで、ヘンな警戒心を抱かせないように、スマイリーを忘れずにハルカの元へ駆け寄った。


 バシンッ!


 ハルカの凄まじい平手打ちという、望まぬ歓迎を受けた。


「何で?」


 ハルカは何も答えず、顔をそむけている。

 レミが、呆然とする自分に追い打ちをかけるかのようにバカにしてきた。


「いやらしいことを考えた罰よ」


 レミにバカにされている間、自分が一つも言い返してこなかったので、ハルカは、黙っているだけでは伝わらないと考えたのか、返事をしてきた。


「ごめん、ハルカ。アイシャと同じようにキスをしたら、ハルカも強くなって、この戦いがようやく終わるんじゃないのか? って虫のいいことを考えていた。本当にごめん」


 手遅れかもしれないけれど、土下座をして謝罪の意を示しておこうと思った。

 レミが「べーべー」うるさかったし、何もしてこないことにつけ上がって、頭に蹴りをかましてきたが、無視してひたすら土下座の姿勢を崩さずにいた。

 レミはレミで、全く反抗しない自分に対し、完全に舐め腐り、今度は後頭部に足をのせグリグリやり始めた。


「子供にこんなことまでされて悔しくないの?」

「今のハルカにこいつは信頼を置いているんだ。自分が手を振るえば、君は止めに入る。そうだろう?」

「そう……ね。確かに私はアントンに対して怒っている。だったら、聞き分けよく懐いてくるレミの方をかばおうとするわね」

「だからこの悔しさは、ハルカが自分を許してくれるその時までは胸の奥にしまい込んでおくことにした」

「確認だけど、もし私が赦したら、レミはどうするつもり?」

「痛みを伴う折檻よりは、好きでもない男からの精神的苦痛がハンパじゃないキスの味でも憶えさせようかな、と考えている」

「ちょっと、正気? こんなに小さいうちからキスの味なんて覚えたら立ち直れないわよ」

「だよね。最悪、自分を喜ばせるためだけに動く操り人形になるよね」

「アイシャはそうなの?」

「いや、アイシャはキスに興味があった。人を好きになる心があったから、自分が背中を押した。そうしたら、メイド服姿のガイノイドに変化した」

「…………私も、あんな風に変われるのかしら?」

「ハルカが自分のことをどう思っているかだよ。自分はハルカが好きだ」

「私はね、アントンがそう言ってくれるのがうれしい半面、心のどこかで疑っているの。アントンが私に優しく接してくれるのは、あの時、私がアントンの友達になろうと手を差し伸べたことに恩義を感じているからこその義務として接してきているんじゃないの?って」

「なるほど」

「だから、心のどこかに息苦しさを感じているんだったら、もう無理しなくてもいいんだよ。アイシャが人型になったのも何かの縁だもの。選択肢は一つじゃないんだよ」

「じゃ、自分は奇跡のキスの可能性に信じて、一つのお願いをハルカに施したい」

「お願いの内容を聞いていい?」

「ハルカが本当の女の子になりますように。そして、今以上に自分のキスを受け入れてくれますように」

「願い事、2つじゃない」

「自分がハルカに対してのためらいというのは確かにあったよ。見た目のハルカは好みなのに、中身のアレがどうにも、君が成長するにつれてアレも大きくなった。アレさえなければ、自分は今すぐ押し倒したいぐらいの欲望を今までずっと押し隠していた。だから、本当の女の子になるチャンスが奇跡のキスにあるのなら、自分はそれに賭けたい」


 異世界だからか、現実世界ではお互い言えずにいたことがすんなり言えた。

 ハルカは別れを切り出し、自分は欲望をさらけ出した。

 ここでハルカがそれでも別れると言うのなら、諦めるしかないだろう。

 自分としては可能性にかけてからでも遅くはないと思うのだが。

 だが、これは自分の一人よがり、エゴだ。

 別れは悲しいが、自分には現実世界へと戻るという目的がある。

 これだけは譲れない。


「アントンは何かお願いがあるの? 私以外で」


 ハルカがそう聞いてきたので、考えを巡らせる。

 どう考えても、あのクソ仁王が壊したと言っていた愛銃たちのことしか思いつかなかった。


「そうだなぁ。壊された愛銃コレクションをもう一度この手で握りしめて、アイツに反撃したい」

「アントンはいくつになっても男の子だね」

「ちょ、男の子って歳でも「あむっ。あむあむあむ……」」


 ハルカの得意技。不意打ちキッスが炸裂した。

 ハチ公前のお返しだろうか。終始、リードされっぱなしで脳髄がとろけそうな&意識が落ちそうになるも、目的を思い出し、抗った。

 その結果、ハルカに対しても光の壁が発動し、自分のハルカに対する願いが成就した。

 ハルカもまた自分に対する願いをかなえてくれた。

 宙に向かって手をかざし、「P90!」と宣言すると、半透明な状態のP90が実際に出現し、手を触れるや瞬く間に物質化した。

 試しにマハカーラの足元を狙って撃つと、ハンドガンにはない高威力がマハカーラの脚を傷付けた。


SPASスパス!」


 自分はそう宣言し、セミオートマチックの散弾銃を出現させるや、今度はマハカーラに超接近した。

 足元狙いに見せかけて、発砲を上向きにして全弾発射させた。

 10メートルもある怪物の足元の上には、キャンタマがあった。

 男のキャンタマはある種、鍛えようのない部分の一つなので、哀れ、マハカーラのキャンタマは散弾銃の強み『近距離であるほど高威力』に逆らえず、玉を失った。

 フンバは今までにない大ダメージを負い、その場にうずくまった。

 気持ちは分かる。

 だが、そろそろフィナーレといこう。


「アイシャ、プランAだ!」

「了解であります」


 かつてない絶大な痛みから、フンバの集中力が途切れたのだろう、マハカーラ形態が強制的に解除された。

 仁王の姿でもない元の人間形態に戻りつつあるフンバを見やりつつ自分は、ジェットパック状態で向かってくるアイシャの背中に飛び乗り、距離を稼ぐや、必殺の武器・対物ライフルを召喚した。

 アイシャがミニガンでフンバの身動きを阻止している間に、弱点の目に対して、念願の超弩級高威力ショットをぶっ放した。

 フンバの頭がぶっ飛び、レンガの壁にめり込んだ。

 残された胴体は、仁王立ち……とはいかず、派手な音を立ててぶっ倒れた。


 脳内でどこかのゲームのファンファーレを再生しつつ、かつてない達成感から思わず雄叫びを上げた。

 そして、こみ上がる高揚感をあまり味わうことなく意識を吹っ飛ばした。





<視点変更:ハルカ>



「低レベルのクセに、身に余る攻撃力を得るからそうなるんじゃ」


 首が壁にめり込んだままのフミバさんは、高熱にうなされるアントンの症状を言い当てました。

 フミバさんは人間状態に戻っていましたが、かろうじて生きていました。本人も不思議がっています。これには理由がありますので、後述します。


「バリスタ所属:Aランク、蠱惑のハルカよ。今までの実績を捨て、治癒魔法を得るという選択肢はこのことを予見した上かな?」


 頭と胴体がちぎれているのになぜしゃべれるのか?

 よくよく考えるとありえないのですが、ここはファンタジー。

 理屈抜きで物事を捉えないと頭がパンクするからね、とアントンが言ってましたので、そう思い込むことにして、フンバさんとの会話を続けます。


「いいえ。でも、私は小さいころからアントンを知ってます。アントンは努力家だけれど、持っている才能と職場で求められているスキルがかみ合わず成績は低いままでした。私は組織の中でアントン以上の訓練の鬼を知りません。それ故にいくつもの怪我を負い、隠し通して無理していたせいで、アントンの身体は年齢以上にボロボロなんです。

 だから、アントンの気持ちが本物で、私が本当に女の子になれたら、異世界での私は治癒魔法でアントンの身体がこれ以上悪化しないようサポートしよう――――そう決意してました」

「そうか」


 フミバさんは自分に何かを言い聞かせるようにしばらく目を閉じました。

 ですが、私が質問をすると、目を見開き、耳を傾けました。


「フミバさん、あなたはどうしてこのような力を得たのですか?」

「今から約20年前のことじゃ。ワシらカタパルト所属の戦闘部隊は上野の西郷像からここ異世界に跳ばされた。

 ワシらには任務があってな、同じ時期に跳ばされたであろうバリスタ所属の戦闘部隊にすべて打ち勝ち、彼らの持つケースの中の持ち物とスマホを奪い取るよう命令された」

「スマホも戦利品なのですか?」

「うむ。元の世界に戻るためには、彼らのスマホが全部そろっているという条件があった。上層部からくどいほど念を入れさせられたからのぅ」


 カタパルト側のハッキリとした目的に私は驚きを隠せませんでした。


「ふむう。その表情からして、バリスタ陣営は何も教えておらぬと見えた」

「ええ、私たちに寄越されたメールは『異世界』へと旅立つ方法だけでしたから」

「そうじゃったか。ワシはてっきりお主たちがスマホとケースを取り返しに襲撃という手段をとったのじゃろうとばかり思っておった」

「鬼神の姿をとって襲撃してきたのはそのためだったのですね」

「ああ。じゃが不思議なことに、ワシは首をはねられたにもかかわらず、何故か未だに生きておるのぅ」

「それは、アントンが万年Dクラスなのと関係があります」

「聞かせてもらおうか」

「アントンの不思議な才能といい例えましょうか。彼は、標的を打ち据えることは出来ても、殺すことは出来ないのです。いいえ、標的が何故か奇跡的に生還するケースがままありました」

「そうじゃのぅ。普通、対物ライフルで撃たれたら、頭なんぞ木っ端微塵じゃ」


 本当のところは、バリスタという組織だけに伝わる『ナナシの呪い』というのに、アントンがかかったからです。

 ちなみに『ナナシの呪い』というのは、バリスタでの言い伝えにのみ知られる暗殺者ナナシが、あるきっかけがもとで『人が殺せなくなる』呪いを受け、暗殺稼業を止めざるをえなかった……という逸話からきています。

 あとで知ったことですが、基本的に不運がつきまとう人物にこの呪いはかかる傾向が強く、アントンをついでに”拾った”ことにしている(組織の)長は、実はアントンの不幸体質を熟知していたうえで組織に加入させたのではないか? と、私は見ています。

 何故なら『ナナシの呪い』は、組織に必ず一人はかかるようになっている呪いで、長の思惑通り、アントンが呪いにかかったおかげで、バリスタは不出来知らずの優秀な暗殺者を世に送り、一躍有名になり、繁栄しました。

 これが普通の組織なら、アントンはとうの昔に組織を追放されているはずです。にもかかわらず、30ン年も彼を雇い続けました。その意味を考えるとこの仮説しか考えられず、今回のフンバさんの今の状態を見て、仮説が確信に変わりました。

 そうなると、自然と次の疑問が湧いてきます。

『組織は何故、アントンを今回の招集に組み入れたのか?』です。


 ふと我に返ると、フンバさんが力を得たお話を長々と大冒険のように語っていました。正直、男の武勇伝には興味がないので、時折、適当に相づちを打って対応しました。


 ただ、フミバさんのお話で気になったことがひとつ。


※蟲毒のフミカと出会った。

 フミバさんは、ここ『選択の都市タルワール』にて、フミカこと『蟲毒のフミカ』と出会い、女男だった私にしつこく交際を迫ったブラキャップ変態こと、フンバイクサを産み、どこかへと旅立ったそうです。


「蟲毒のフミカ。カタパルト所属のAランク暗殺者。得意分野は毒」

「そういえば、お主は何かとフミカと比較されとったのぅ」

「ええ、私の戦い方は色気に油断した隙を狙った一撃必殺。フミカは、猛毒を塗ったナイフによる正真正銘の一撃必殺です」

「それもあるが、ワシらはもっぱら美貌の方が話のタネじゃったよ」


 男の人って2人以上集ったら、仕事の話以外では、エロとギャンブルの話しかしませんものね。


「フミカがワシのもとを去らなかったら……と云うのは、最早たらればじゃが、せっかく出会った仲間がある日忽然と姿をくらますとなぁ、もうどうでも良くなるんじゃよ」


 元冒険者としてタルワールで生涯を終えようと考えていたフンバさんでしたが、フミカの失踪が原因で自暴自棄になり、入り浸るようになっていた暗黒街で当時のトップを殺害、恐怖による支配で歓楽街をも制圧し、欲望の赴くままに好き勝手に生きたのだそうです。

 それが、現在のフンバさんの街の人たちによる悪評でした。


 一通り話し終えて、スッキリとしたのでしょう。

 私に対して真顔に戻ると、視線をアントンに向けました。


「アントンじゃったか? レベル8にもかかわらず、連係プレーでワシを倒した成果は評価せねばならんな」

「何をなさるおつもりですか?」

「ワシのこのくたばりぞこないの体力で良ければ融通しよう。そして、ワシはこの世界から立ち去ろう。ああ、そうじゃった。ワシの私物で良ければ、好きなモノを部屋から持ち去るがよい。旅先で手に入れたワシの仲間のスマホもある。お節介かもしれんが、お前さんたちは決してワシのようになるなよ?」


 と光の塊と化したフミバさんは、アントンの身体全体からゆっくりと吸収されていきました。

 私たちには冒険者カードがありません。

 なので、アントンがどの程度、フミバさんの恩恵を得たのか知りようがなかったのですが、ただ一つ、はっきりとわかることがありました。

 さっきまで高熱で唸っていたアントンの呼吸が落ち着いていました。

 アントンの体力が底上げされたのだと思います。

 正直、治癒魔法もまだ初期のモノしか使えないはずの私にとって、アントンの容態が安定したのは普通にうれしかったです。


 私が拘束されていた2階のキングサイズのベッドがある部屋は、あれだけの戦闘を繰り広げた割には不思議と目立った損傷が見当たりませんでした。

 ここまで運んでくれたアイシャにお礼を言い、私は魔力が枯渇するまでアントンの身体に治癒魔法をかけ続けました。

 魔力が枯渇したら、そのままアントンの隣で眠りにつくことにしました。

 衣服を脱ぎ捨て、彼の望んだ姿をワザと密着させて。

 明日の朝の彼の表情が見ものですね。

2014/07/15 正気に戻ったので、大幅改稿。

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