白昼夢
※今回はかなり短いです。
翌朝、目覚める前のことである。
自分は、不思議な夢を見た。
何もない白い室内の中に、ドス黒い靄をどうにか丸めて宙に浮かした何かを目の前に、とらえどころのないローブ姿の中性的な顔立ちの人物、胡散臭いサングラスと黄色いスーツが特徴の長髪の男、天使の羽を生やした女執事、数人のメイド、女医、女バーテンダー、女教師、虎柄のビキニ姿の猫獣人……その他もろもろのいろんな種族の女の人たちが、何かを言い合っていた。
会話の中身はまるで分らない。日本語ではないのだろう。
ただ、ニュアンスは何故か通じて、中性的な人物が持ちかけたなんらかの条件に応じるスーツの男に対し、女執事を筆頭にスーツの男との距離が近い場所にいる女たちが眉にしわを寄せるのを気にすることなく猛烈に反対している様子なのは伝わった。
結局は、ドス黒い靄に対して何の対処方法もないことをスーツの男から諭されるようになだめられ、女の人たちが一斉に涙を浮かべ始めた。
スーツの男はひとりひとりにキスとハグを交わし、最期の別れのような行動をとっていた。
そして、中性的な人物に提示された条件に対し、了承の合図を送った。
中性的な人物が頷くや、何かしらの呪言を唱え始めた。
スーツの男の存在が徐々に希薄になり、呪言の完成とともにスーツの男の姿は完全に消え、同時にドス黒い靄も霧散し、霧が晴れたあとには、中性的な人物すら姿を消し、女たちが残された。
女たちは消えた男の名を叫ぼうとするが声にならず、記憶すらあやふやになりつつある状態に困惑している風であった。
次の映像が流れた。
50人近くいた女たちの半数の姿が見えなくなっていた。さっきの映像から察するに、スーツの男のことを完全に忘れ、離れていったとみる。その代わり、消えていった女の数と同じ数の様々な銃器が存在していた。
記憶もスーツの男の名も忘れたものの、なおも残る女たちは、会議室のような場所で、作戦会議を練っていた。
彼女たちは、彼のことを「ナナシ」と呼んでいた。他の言葉は相変わらずわからなかったが、「ナナシ」という言葉だけははっきりと聞き取れた。
次の映像。
周囲から、「ソーコ様」と呼ばれる女教師が、人身御供を思わせる巨大な人柱のような機械の中に自ずから取り込まれ、失われた記憶の吸い出しを試みる実験を始めた。
アイシャの言葉を借りるなら、彼女がアイシャたちオートマータの始祖・聡子なのだろう。
長い長い時間をかけて、吸い出しの努力は実った。
だが、聡子はスーツの男と中性的な人物との約束を破る行いのペナルティとして、存在を抹消された。ただし、スーツの男とは違い、名前と記憶は失われなかった。
未だに諦めない、他の女たちへの中性的な人物からの警告と思われる。
聡子の遺した、バラバラだが9文字の力を持つ文字こそがスーツの男の名前だった。
だが、ここで問題が起こった。残された女たちには読めないどころか、文字の力は感じられても、視認することすらできなくなった。
絶望も悲しみも振り払い、女たちは考えた。スーツの男が別れの際に残した言葉だったからだ。
名前も記憶もなくしても、長い時間をとめどなく交わした何気ない言葉だけは残っていた。
だから残った女たちは、共通して憶えていた言葉『考えに考え、悩み抜いた答えを尊重し、道を拓け』に従い、自分たちでスーツの男の復活を求めることを諦めた。
代わりに、力を持つ9文字を、正しき名に変換してくれる未来の人々に託した。
とはいえ、ただバトンタッチでは9文字が人の目に触れる機会が出てくるか怪しいものがある。
そこで、女たちは”9文字が人の目に触れる機会はどういう状況があり得るか”に考えを巡らせた。そのための役割分担を取り決め、いつか来るであろうその日まで、人類を見守る立場に回った。
―
ムヤムヤとまどろみながら、起きだした後のことだ。
スパコーンッ! と連続してハリセンで頭を叩かれた。
いきなりなことにビビって、急速に目が覚めた。
「な、何なんだ、いきなり」
「秘密」
「なんじゃそりゃあ」
彼女たちは口を割る様子がなかった。
朝から理不尽に振り回された。
その後、マーラ様と取り巻きの5人嬢に促され、ラドンの部屋の一室を借りて、風呂に入った。
湯船につかり、朝風呂の有難みをしみじみ味わう。
ふと頭の中に、何かもやもやとしたのが浮かび上がってきたが、思い出せなかった。
まぁ、夢とは、そういうモノだ。
※あと残り2話で完結にするつもりでしたが、この夢のお告げ部分と次の文章との間に一定期間が開くので、話の区切りづけに切り分けました。
※ある作品のバッドエンドっぽい終りに見える気がしますが、気のせいです。