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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

英雄不在 ―自警団と山賊―

昨晩ふと思い立って作成しました。

書き上がったのは先ほどです。

よろしくお願いします。

 その話を聞いて、俺は激昂した。

 

 そんなふざけた話はない。

 そして、俺をなだめようと話しかけてくる男のその余裕ぶった態度は、俺をさらに苛つかせた。


「わかるだろ?今打って出ないと、おそらくこの町は冬を越せない。今が最後のチャンスなんだ。」


「そんなことわかるもんか!!これから収穫もあるってのに、男手が減ったらそれこそ冬が越せるもんか!!」


 俺たちが直面している問題は単純だ。

 冬前の収穫期にこの町の近くに山賊団が住みついたというのだ。


 この町は首都から遠く、隣国との境にあるが険しい山々のせいで、隣国との交流はない。

 つまり、辺境の寂びれた町ということだ。

 辺境にしては人口も多く、農作も盛んであるが、隣町までは馬車でも十日はかかるため、隣町までわざわざ売りに行くということもない。

 町で手に入らないものは稀に来る行商人から購入しているが、この懇意にしている行商人もそろそろ店を持つということで、悩みの種となっている。

 話が逸れたが、それはともかく、これといった特産物のないこの町は自国との関わりも少なく、納税官も数年おきにしかやってこない。

 そして、今回問題になるのは、その程度の町に騎士団など駐留していないということだ。

 通常であれば、俺たち自警団が町の治安を守っている。

 この町出身の騎士が引退して自警団の顧問をしているため、自警団員は騎士団とまではいかないまでもそれなりに腕は立つと自負している。

 現に今までも無法者がやってきたときは、捕えて報奨金をもらっていた。


 しかし、しかしだ。


「最初に野菜を盗まれたときは、見張りを増やしてどうにか再犯は防いだ。しかし、これから収穫が始まれば、見張りをしながら収穫なんてできやしない。最悪の場合、収穫したものをすべて持って行かれることもあり得る。そうなったら冬を越すことはできない。それに山賊の正確な数はわからないが、多くても百人はいないだろう。せいぜい五十人程度だ。奴らの住処も突き止めることができたんだ。俺たちで打って出るんだ。」


 副団長であるこいつがそんなことを言いだすなんて思いもしなかった。


「いったい何を考えているんだ!!仮に山賊が百人はいないとして、俺たちは自警団は五十人もいないんだぞ!?一人で二人も三人も相手にするつもりか!?どれだけ被害が出ると思う!?それに、万が一失敗したら、武器を持ったこともない男や女子供だけになるんだぞ!!奴らが入れないように柵を作って入口に見張りを立たせる。決まったことだろうが!!」


 俺は、今更話を混ぜ返しやがった副団長に怒鳴り散らす。

 しかし、副団長は平然としており、その上副団長の後ろに立っている男どもは俺を臆病者とでもいうように反抗的な目を向けてくる。


 元々自警団の団長である俺に反抗的な目を向けてくる団員は少なくなかった。普段はそうでもないが、俺が町長の息子であるという理由で団長になり、団長になるはずだった男が副団長にしかなれなかった。年はあまり変わらないが、剣の腕もこの町では副団長が一番で俺が次だ。奴を慕う者は俺が団長では面白くないらしい。

 そして、俺の慎重さは俺と同年代かそれより下の奴らには臆病者に見えるようだ。


 腸が煮えくり返るが、大きく息を吐き、元騎士である自警団の顧問に尋ねる。


「先生はいかがお考えですか。確かに、この前方針を決めたときには奴らの住処はわかっていなかった。しかし、奴らの住処と思われる場所に、本当にいるかどうかもわからないのだし、罠を仕掛けている可能性もあります。これほど大きな山賊団では、さすがに騎士団も動くでしょう。」


「団長の言うことはもっともだ。しかし、最後の騎士団については同意しかねる。ここには情報があまり入ってこないので推測になるが、奴らは恐らく、騎士団に討伐された残党だろう。残党で百人弱としても、当初はその倍以上いたはずだ。騎士団も連戦のために、冬を前に山に入る選択はしないだろう。わしの伝手で騎士団にこの町の警備を依頼したが、間に合うかどうかは保証しかねる。」


 それに、と顧問は続ける。


「団長、副団長双方の意見はそれぞれ筋が通っているように思えるが、一番よくないことはそれぞれが勝手に動くことだ。守りを固めるのなら一丸となって、打って出るなら皆できちんと態勢を整えることだ。どちらにせよ犠牲は避けられないだろう。」


 顧問の玉虫色の発言に憤りを覚えるが、顧問の視線の先には副団長を支持する若者がいた。

なるほど、ここで俺が止めても、副団長とそれを支持する者が独断で出ていくと最悪の結果しか生まないというわけだ。


「わかりました。では、副団長と志願者で討伐隊を結成し、残りの者で警備と収穫に当たる!!警備は最小限にし、収穫作業ができない老人に兜を身に着けてもらい、目立つところに立ってもらう!!討伐隊は三十人程度とし、あとの者は残って警備だ!!ただし、志願者が二十五人を切った場合は討伐隊の結成はなしとする!!」


 俺の指示に副団長は満足そうに頷き、志願者を募る。

 結果、忌々しくも副団長の下に二十八名の志願者が集まり、二十九名の討伐隊ができた。

 討伐隊の出発は二日後に決まった。

 俺は、討伐隊の準備を副団長に任せ、残る者と見張りの配置や収穫順の確認、そして老人たちへ協力を依頼し、手の空いた者には柵の修繕、強化を指示した。

 指示が終わると一度すべての自警団員を集め、万が一のことを考えて遺書を書かせた。

 血気盛んな若者はそんなものは不要だとのたまったが、副団長の口添えもあり、大人しく従った。しかし、遺書を書くと不安になったのだろう。討伐隊同士で顔色を窺い始めた。

 これはまずいと、討伐隊に待ったを掛けようとしたところ、副団長が立ち上がった。


「討伐隊に参加するこの町を愛する者たちよ!!普段の訓練を思い出せ!!春の無法者の捕縛を思い出せ!!そうだ、俺たちがこの町を守ってきた!!山賊がなんだ!!無法者の数が増えただけだ!!俺たちなら出来る!!共にこの町を守ろう!!」


 俺は副団長の演説を苦々しく聞いていたが、町に残る団員が下を向いているのを見て、立ち上がる。


「栄光ある自警団員よ。俺たちはこれまで町の平和を守ってきた。今回の敵は今までにない規模かもしれない。討伐隊については、俺はもうなにも言うまい。志願してくれた皆が無事に戻ってきてくれることを祈る!!そして、この町に残る我らにも重要な使命がある!!討伐隊から逃げ出した奴らがこの町を襲ってくるかもしれない!!戦えるものは少ない!!討伐隊が安心して戻って来れるよう最善を尽くそう!!」


 そう言って右手を挙げる。

 賛同の声と共に皆が立ち上がる。

 俺は副団長と握手をするともう一度右手を突き上げた。

 その頃には下を向く者はもういなかった。

 

 討伐隊の出発日まで、俺はあまり休む暇もなく討伐隊の準備、町の警備計画、山賊の警戒、収穫の準備を行った。

 出発の日の早朝、日の出と同時に数時間の仮眠から目覚めた俺は見送りに向かう。

 村の入り口には討伐隊とその家族が既に集まっていた。

騎士団ではないため、揃いの装備などないが、各々が持ち寄った装備や俺が家の蔵から引っ張り出してきた槍などを持っている。

 奴らはここから歩いて半日の山の中腹に潜んでいるということだ。

 奴らの元に着くのは昼前になるだろうが、発見されるのは遅い方がいい。

 日の出とともに出発することになっていた。

 俺は副団長のところに向かう。


「準備は抜かりないか。」


「あぁ、問題ないよ。遅くても二日後には戻るつもりだ。留守は頼んだ。」


 副団長は号令をかけると討伐隊を率いて行く。

 俺は討伐隊の姿が見えなくなるまで見送った。



 それが彼らの無事であった最後の姿となった。



 町長である父が収穫の指示を出し、それに合わせて俺が指示を出し、事前に取り決めた見張りの計画を元に臨機応変に対応していく。

 老人たちの起用も大きな問題なく進めていったが、一部の高齢にも関わらず血気盛んな老人には閉口させられた。

 収穫には女子供も多く参加しているが、男は討伐隊やら見張りやらで数が少なく、収穫は予定よりも遅れたが、順調に進んでいった。

 見張りも鹿を山賊と間違えて騒ぎになりかけたことがあったが、偶々俺が近くにいたため、すぐに鎮静化することができた。


 そうして、三日経った。


 当初の計画では、出発した初日の昼ごろに討伐隊が山賊の住処に突入、場合によっては様子見を行い、日没前に突入することとなっていた。

 そして、山賊の捕縛やけが人の手当てなどを行い、山賊の住処の捜索を行う予定であり、住処の規模によって時間は変わるが三日もあれば戻ってくることができると考えていた。

 また、山賊の数も実際は五十人もいないだろうというのが団員たちの考えであり、三日分の食糧を用意させた俺に対し、心配のしすぎだという声も上がった。

 だが、三日経っても討伐隊は戻ってこなかった。


 俺は見張りを除いた団員を集め、今後の対応について話し合った。

 柵の強化は終えているが、このまま討伐隊が戻らず、見張りを続けるとなると収穫が間に合わない恐れがある。

 また、団員も皆も心身ともに疲れ切っており、このまま行けばそれこそ壊滅的な被害が出かねなかった。

 やはり、偵察に行くという案が出された。

 偵察を行い、討伐隊が負傷者多数で動けないようならばさらに救援を行い、山賊が生き残っているようであれば、その後の対応を検討しなければならない。

 状況がわからなければ、問題解決のしようもない。しかし、町に残った団員の数は少なく、偵察に行くのが一人きりとなると、志願者はでなかった。

 とりあえず、もう一日様子を見ることにして解散した。


 俺は家に帰ると久しぶりに十分な休息を取った。

 偵察に行くとなると、俺しかいないだろう。

 団長である俺が行くべきではないのはわかるが、残った団員で俺より剣の腕が立つものはおらず、団員達が怯えているのはわかっていた。


 深夜、出発の準備をしていると妻がやってきた。

 妻は俺を抱きしめ、「子供が出来たようです」と言った。

 途端に偵察に行くのが怖くなったが、必ず成功させなければならない。

 俺は妻を優しく抱き返し、「必ず帰ってくる」と繰り返した。


 俺は深夜であるが顧問の家に向かった。

 顧問はまだ起きており、これから偵察に出ることを伝え、後のことを頼んだ。

 顧問は自分の体力の衰えを悔いていたが、いない間のことは任せろと請け負った。


 深夜に出立したのは、もし山賊が生き残っているならば、前回と同じ時刻は特に警戒されているかもしれないという単純な理由からだ。

 山の入り口で夜明けを待ち、日の出と共に山に入る。

 鉈で道を切り開かなくてもいいようなけもの道を選んで、警戒しながら進む。山歩きは慣れているが、やはり精神的な影響か徐々に疲れが溜まり、息が荒くなっていった。

 生き物の気配を感じて動きを止める。

 思わずぞっとする。

 鹿が罠に掛かっていた。

 もしかするとこの罠は対人用のものだったのかもしれない。

 この鹿がいなければ俺が罠に掛かっていたかもしれないと思うと肝が冷えた。

 鹿はまだ生きていたが、両足が折れていてもう助からないのがわかった。

 俺は鹿が苦しまないように一息で命を絶った。

 もし帰り道、無事に帰ることができたら、この鹿を持って帰ろう。

 この先になにがあるのかわからないが、今すぐにでも帰りたかった。

 俺は今まで以上に慎重に足を進めた。


 山賊の住処までに罠はいくつもあった。

 気を付けていたおかげかすべて避けることはできたが、罠についた血痕は俺の心に影を落とした。

 山賊の住処は、木材で作った小屋と洞窟であり、いたるところに大量の血痕が付着していた。

 見張りはいない。

 光らないように刀身を黒く塗った剣を抜く。

 小屋の様子を覗き見るとそこには誰もいなかった。

 灯りも持たずに洞窟を進む。

 自分の足音が気になる。

 洞窟は薄暗く、それなりの長さがあるようであった。

 何かが聞こえたような気がして足を止め、耳を澄ます。

 人の声が聞こえた。

 討伐隊か、山賊か。

 うるさいくらいに高鳴る心臓の音を聞きながら、慎重に一本道を進んでいく。

 やがて灯りが見えた。その先は少し広くなっているようだ。

 耳を澄ます。

 複数人の声が聞こえるが、聞き覚えのない声に戦慄する。


 討伐隊は負けたのだ!!


 しかし、自分の目で確認もしないまま、帰ることなんてできやしない。

勇気を振り絞り、足を進める。


 そこには、数人の男たちが一人の男を囲んでいた。


 囲まれた男は嗚咽を漏らしながら、穴を掘っている。

 目を凝らすとその脇にはなにかの山・・・いや、死体の山があった。


「おい新入り!!とっとと掘りやがれ!!お前に裏切られて死んだこいつの分の墓もな!!」


 そう言って、大柄の山賊が傍らに一つ置いた死体の頭を掴み、品のない声で笑う。


 その死体は、副団長のものであった。


 震える手を必死に抑えながら、新入りと呼ばれた男を見ると、そいつは町で遺書なんか必要ないと言い放った自警団の若者だった。

 もう俺は驚くことすらできなかった。あまりに色々なことがあったからだろう。ただ、目の前の現実を正確に認識しようとする。


 目の前には、元団員一人と六人の山賊。

 皆、酒のようなものを持って飲んでいるが、武器は身に着けているようだ。

 とても俺の手に負える状況でない。

 それにここにいる山賊で全員とは限らない。


 元団員が膝をついた。

 討伐隊の皆がそこにいるとしたらそれだけで二十八人、それにそれよりも多い山賊の死体の墓を一人に掘らせているのだ。元団員はこいつらの怒りの矛先となっているのだろう。

 裏切り者に同情の余地はないが。

 山賊どもは元団員を罵ったり、石を投げつけたりしている。

 六人の山賊のうち、大柄な山賊は斧を脇に立てかけ、残りは剣を身に着けたり、床に置いたりしている。

間合いを測る。

 飛び出して六・・・いや、七歩か。遠いな。

 いや、俺は何を考えてるんだ。

 妻の顔が頭に浮かぶ。

 山賊六人と裏切り者一人、七人ならば残った団員で全員攻めれば、確実に倒せるだろう。

 だから今は・・・。

 ふと、山賊の男が持つ副団長の死体と目が合った気がした。

 そんなもの幻想だ。

 でも、こいつは失敗したが村を救おうとした。

 成功すれば英雄であったろう。

 だがこいつは英雄になれなかった。

 俺はなんだ。結局、わが身可愛さで町に残ったのか。

 本当に臆病者だったのか。

 生まれてくるわが子になんて言い訳をして生きていくのだろうか。

 俺のせいで子が、妻が死んでしまったら、俺は自分を許せるのだろうか。

 臆病者でいい。


 ただし、今だけは覚悟を決めよう。


 俺は飛び出すとまずのこちらを振り返ろうとした男の首に向かって一閃し、その男が崩れ落ちるよりも早く、返す剣で隣にいた男の首を凪いだ。


――後五人。


 首からまだ鮮血を噴出している男を蹴ると、向こう側にいる男を巻き込んで倒れる。

 次に近くにいた剣を抜こうとしている男の鞘を踏み、胸に突きを放つ。


――後四人。


 俺に向かって斬りかかってきた男を、剣から手を放すことで何とか躱し、先ほど首を斬った男の剣を拾い上げ、抜き様に斬りつける。

 男の右腕を深く切り裂き、男は剣を落とす。右手を抑えながら蹲る男の剣を左手で拾い上げ、先ほど蹴倒した男に向かって投げる。

 運良く剣は男の胸に刺さりそのまま壁に倒れこむ。


――後三人。


 大きく息を吐いて、周りを見回す。

 元団員は呆然としたまま動いていない。

 腕を斬った男はあふれ出る血を必死に抑えている。

 そして残った大柄の男は斧を持って立ち上がるところだった。


「なんだ貴様は。まったく、騎士団の真似事なんかしやがって!!それでこの様だ!!最初に来た奴らはそこで死んでるぜ?腕の立った男も俺の甘言に乗ったそこの甘ちゃんに刺されてお陀仏だ。お前で最後か?いいだろう。お前を殺して、町の奴らも皆殺しにしてやるよ!!」


 俺は血走った目を向けてくる山賊を無視して、自分の剣を男の亡骸から引き抜き、持っていた山賊の剣を投げ捨て、副団長を殺したという男に向かって言った。


「お前はまだ自警団員か?それともただの裏切り者か?」


 自分でも驚くくらい冷たい声が出た。

 男は、俯いていたが、スコップを持って、「うぉぉぉぉ」と山賊に殴り掛かった。

 山賊は鼻を鳴らして斧を振りかぶり、スコップを両断しながら男を斬り裂いた。

 その間に俺が何もしなかったわけがない。

 山賊が斧を振り下ろすと同時に斬りつける。

 山賊は斧から左手を離して剣を受け止めようとする。

 剣は山賊の左手を斬り裂くが二の腕の途中で止まり、山賊は斧を右手で持ち上げる。

 剣を離してしゃがんで斧を躱すと共に、スコップの破片を拾い上げ、山賊の首に突き刺した。

 山賊はそれでも斧を振り回していたが、三振りもすると動きが鈍くなり、膝をついたところを落ちていた剣でとどめを刺した。


――後一人。


 その前にまだ息のある団員の元に向かう。


「だん・・ちょう・・すみ・・ませ・・・ん・・・おれ・・・」


「よくやった。お前の勇姿は俺が見届けた。」


 そう言うと団員はほっとしたような顔で息を引き取った。

 そして、最後の一人の元に向かう。

 男は何か喚いていたが、俺はその胸に剣を突き刺した。

 その男が動かなくなるのを見ながら、山に残した鹿のことを思い出していた。


 討伐隊と山賊の亡骸を調べる。やはり生きた者はおらず、討伐隊は二十九人、山賊は四十三人だった。

 洞窟を奥まで調べたが、ほかに山賊はいなかった。

 急に視界がぼやけて膝をついた。

 自分の身体を調べると返り血でよくわからなかったが、腕から流血していた。

 戦闘で躱し損ねていたのだろう。

 急いで止血し、干し肉を噛む。

 これからのことを考えると憂鬱だ。

 しかし、帰らねばなるまい。


 帰り道に鹿が罠に掛かっていた場所に出た。

 そこに鹿の姿はなかった。

 不思議に思ったが、鹿も仲間の弔いをすることがあるかもしれない。なんて馬鹿なことを考える。

 俺は皆の亡骸を引き取りに来る人選を考えながら山から下りた。


 町に帰ると血だらけの俺に大騒ぎだった。

 おおまかな話を伝えると、顧問にすぐに着替えるように言われ、返り血を浴びた皮鎧を脱ぐ。

 早く家に帰りたかった。

 だが、団長としてやらねばならないことがある。

 討伐隊の遺族に謝罪と感謝を伝える。

 中には俺も行けば全滅しなかったのではないかと言われることもあった。泣き崩れる家族もあった。父親が死んだことのわからない子供の目が怖かった。副団長の妻には俺を臆病者と詰られた。

 俺は英雄ではない。今でもあの時の自分の指揮について考えることがある。

 剣の腕も副団長には及ばなかったし、俺は指揮を間違えたのかもしれない。

 しかし、そんなものは結果から判断できたことだ。

 だが、もう間違えるつもりはない。


 亡骸を引き取りに行くという俺の話に収穫を優先するように異論を唱える者もいたが、遺族の意向もあり、二日かけて埋葬まで行うことができた。

 洞窟の惨状を見て、俺を臆病者という者はいなくなった。

これは後になってわかる話だが、収穫は例年通りとまでは行かなかったが、皮肉にも人口が減ったため、餓死者は出なかった。


 この町に起きた事件はこうして終わった。

 若い男手が減り、悩みの種は増えたが、俺には子供が生まれた。

 身の丈にできることをする。それが人より凄いのが英雄なのだろう。

 別に英雄になんてならなくてもいい。

 ただ、自分の子には、自分のできることを精いっぱいできる子になってほしい。

 そんなことを願っている。

書き始めたのはいいのですが、設定なく始めたため、時間が掛かりました。

英雄の活躍の裏を描きたかったのですが、あまりに『俺』が慎重すぎたため、副団長が犠牲になりました。

もっとうまく描けるように頑張りたいと思います。


また、ほかの話もまとまったら投稿します。

よろしくお願いします。

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