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ハガキ職人 

作者: 秦山

『今週のコーナーはこちら! “今ほにゃららしようと思ってたのに~”』


 毎週土曜日夜九時から放送される“マイノリティ白石のラジオ始めました”がイヤホンを通じて俺の鼓膜を揺らす。


 彼のお調子者のキャラクターが最も感じられるこのラジオ番組は、業界内でとても注目され、放送内で口にした話題が度々ネットニュースに上がる。


 最新式のラジオと対面しながら、俺の投稿……つまり“手長おやじ”の名が呼ばれるのを今夜も楽しみに待っている。


『このコーナーは、それ今言おうと思ってたんだよ! 今やろうとしてたんだよ! という何故かありがちだけど誰にも証明できない鬱憤をぶちまけてもらうコーナーです』


 そう、俺は所謂ハガキ職人だ。現代風に言えばメール職人だとも思う。その概要は、贔屓にしているラジオ番組に固定のラジオネームで面白ネタメールを送る、といったものだ。


 俺のラジオネームが読まれる度、パーソナリティの声色が変わったり、そのリアクションを楽しむのだ。


 優秀なハガキ職人はこれを経て構成作家に就いたりするなど、なかなか馬鹿にできない。


『つぎー、ラジオネーム“手長おやじ”。過ごしやすくなった秋の夜長に散歩にでも出かけようと、俺は薄手のコートを羽織って少し遠い自動販売機へ。ところが巡回中の警察官に職務質問されてしまい、免許証を持っていなかった俺はますます怪しまれてしまう。運良く解放されるものの、俺の背に、“おい、そのコート、絶対に前を開けるなよ、開けたら現行犯だからな”という警察官の余計な一言が。もう~居なくなった瞬間楽しもうと思ってたのに~』


「よっし、今回も採用された! これで採用率九十七%に上昇!」


 思わずガッツポーズをとる。


『ってやろうとしちゃダメ! そういう願望はなんとか別の方法で晴らしてね、お願いだから!』


 “マイノリティ白石のラジオ始めました”は、リスナーの投稿で支えられている古き良きラジオ番組だ。


 それ故、ライバル達も渾身の一作を毎週投稿している。俺はその激戦区で今回も勝利を収めたのだが、ここにはもう一人、俺と同様の勝率を持つ者が存在する。


『ラジオネーム“ずんぐりむっくり”。部下のOLに対し、“君、早くコピーとって来てよ”と催促する上司と、それを“今やろうと思ってたのに”と言わんばかりの態度でコピー機に向かうOL。そんなOLを見て、エロいな~、この仕事に就けて幸せだなぁと思いながら僕は今日もビルの窓ふきに精を出しています』


「ずんぐりむっくり! また読まれやがったな!」


『あー! わかるわぁ、俺もOLのエロさは頭一つ抜けてると思うね! ……あれ? ところでこれ何の話?』


 ラジオネーム“ずんぐりむっくり”。

 他者とは違う角度でパーソナリティを翻弄するその投稿は、悔しいが異彩を放っている。


 テーマを敢えて蔑ろにし、マイノリティ白石の泣き所である下ネタでしっかり落としてくるその手法。


 それ以外にも幾つもの技を持つずんぐりむっくりは、その手数の多さで幾多のラジオ番組に投稿を採用される猛者である。


「白石のラジオではほぼ互角なのに……こいつは他所でもその腕を評価されてる。くそぅ……」


 なんとか鼻を明かしたい、せめて白石のラジオ内だけでもいい! 奴が読まれたとしてもそれを上回るネタを!


『来週のコーナーは……お! これ久しぶりだねぇ、“あなたの周りにいる変な奴”! 携帯を使えないお母さん、いつも鼻毛が出ているお父さん、女子からは嫌われてるけど、同性から絶大な人気を誇る男子などなど、なんでも構いませんので、あなたの周りにいる変な奴を教えてください! メールアドレスはwww.……』


 こ、これは……!


 変な奴という括りではあるが、もはやその可能性は無限大! 職人の真価が問われる!


 俺は早速ノートとペンを取り出し、アイデアを絞り出し始めた。




 翌日もその翌日も、あーでもないこーでもないと、書いては消しの繰り返しだった。


 身近なのは友人だろう……ドライブに誘ってきたのに車がない……いやありきたりだ! 禁煙を何度も成功させている友人……禁煙を何度もって成功じゃないじゃんとツッコませ……いや、探せばそんなネタくらいどこかにある!


 そうだ、白石は自分が笑うだけでなく、ツッコミをしたがる傾向がある。つまりボケとツッコミ、二つが合わさって初めて作品は完成する。 


 白石がどんな男なのかもっと知る必要がある! そう思い立ち、インターネットでマイノリティ白石を検索して、片っ端から情報を収集していった。

 

 今期のドラマで他の俳優と友情出演していること、大田区のパレードに奇抜な格好をして参加していること、ブログ上で今日の出来事を報告しながら夢オチにしていること、沢山の情報が得られた結果、白石のツッコミの傾向が見えた。


 思わず白石がツッコミたくなる変な奴、そんな像をなんとか文章化した俺は、翌日、携帯電話に清書を行い、いつものメールアドレスへメールを送り届けたのであった。




『さ、今週も始まりました、“マイノリティ白石のラジオ始めました”! さて、アイドリングトークで場を温めなきゃいけない俺の宿命! そうだなぁ……そうだ! 昨日、俺うなぎ食いに行ったのよ。で、昔はうなぎ屋の二階は、今で言うラブホみたいになってたんだってさって! 美味いうなぎって出来上がりに時間がかかるから、出来上がりまでそこでしっぽりやるんだってさ』


 白石のラジオが始まった。


 今週のテーマ、“あなたの周りにいる変な奴”。俺の投稿作品は白石のツッコミが合わさって初めて完成する。


『では、コーナー行きましょう! “あなたの周りにいる変な奴”! このコーナーは携帯を使えないお母さん、いつも鼻毛が出ているお父さん、女子からは嫌われてるけど、同性から絶大な人気を誇る男子などなど、なんでも構いませんので、あなたの周りにいる変な奴を教えてください! というものです! では、ラジオネーム……へぇ一番目って珍しいね“手長おやじ”』


「トップバッター!?」


 思わず耳を疑う、俺が先陣を切れると判断された!? これは良い傾向かもしれない。


『俺の周りにいる変な奴を聞いてください。俺は仮性の包茎なのですが、ちっとも変だと思いません、だってダビデを見てください、彼だって全世界に自分の包茎を堂々と見せつけてるじゃありませんか、それに包皮はペニスを守る大切な役割を持った部位です、剥けてる方が奇形なんじゃありませんか? なんと俺を笑うその友人は童貞です、変だと思いませんか? っと』


 定番の下ネタで責めてやったぜ! 白石、懇親のツッコミ頼む!


『まぁ僕はズル剥けてる上に童貞でもないんで、二人共変だと思いますけどね。包茎の手長おやじ、頑張って!』


「激励じゃねぇんだよ! 欲しいのはツッコミなんだよ! 包茎かよ! ってツッコむんだよ!」


 ダメだ、全然面白くない! 作品にすらならなかった……。マイノリティ白石に任せたばかりに!


『次! ラジオネーム“ずんぐりむっくり”』


「はっ、ずんぐりむっくり!」


 来た! こうなったらコイツもスベろ! どうせ宇宙人と交信できる蕎麦屋の店主が俺ですとか、周りにいる奴と見せかけて自分のことを言うに決まっている!


『先日、ニュースを見ていたら、どっかのパレードの模様が映し出され、バカみたいな服装でアホ面の男がはしゃいでいました、こいつ変だと思います……って俺だよ! パレードではしゃいでたアホ面の男は俺だよ!』


「お前かよ!」


 はっ!


「ツッコまれてるぅぅ!!」


 しかも完成した作品にツッコんじまった……。 


「完璧じゃねぇか……」


 


連載小説の宣伝であることは否定しない。

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