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1.この物語の始まり方「彼の主観」

 今日も最悪の一日が始まる。毎日が最悪だ。何もする気が起きないし何もしない。朝起きて飯を食い夜寝る。そんな日常生活が俺を待っている。体が衰えていくのがわかる。筋肉が落ち、骨と皮だけになろうとしている。惜しくはない。その体で守るものなんてどこにもないからだ。一緒にいたい人なんていない。

 彼女はこの世界にいない。

 「…なんて、ばっかでー」

 気取ってみたいだけ。


 まあ、真実だけどさ。


 腹が減るから飯を食う。飯がないから家を出て、飯を食ったら眠くなって、公園で寝たら家にいる意味がわからなくなってしまったから公園にいる。公園のベンチに座ったまま動かない俺を、道行く人がちらちらと、しかしじろじろと見ながら歩き去っていった。あまりいい気分じゃない。

 近くに「コンビニ」があるので飯には困らない。どういうわけか金はたくさんある。今日も腹が減ったから「コンビニ」に入った。魔法のようなガラスのドアが自分のために開くとき、俺は王様になったような気が、少しする。

 食品のある棚は、覚えた。包装だけではよくわからないが、場所で大体分類されているので覚えれば失敗することはあまりない。いくら食べてもうまいのかまずいのかよくわからない弁当を選んで、会計へ向かう。人が何人か並んでいた。素直に倣うと、隣のレジが空いてそちらへ並べと呼ばれた。

 「いらっしゃいませえ」

 その声。

 小銭を出す手が止まった。

 「弁当、温めますかー?」

 呆然として、でも聞かれたことには反射的に頷いていた。

 うつむいたまま、全神経を尖らせる。彼女がレジを離れ、筐体に弁当を入れるのを、目の端でとらえている。

 「398円です」

 小銭はたくさんあったが、わざと500円玉を出した。

 「102円のお釣りです少々お待ちください」

 句読点を感じさせないやる気のない声と、差し出された手。硬貨を受け取って、俺はまだ顔をあげられない。あと少し、視線をあげれば、せめて名札を見ることが出来るのに。そのひとがカウンターに作るかすかな影だけを見つめている。

 「お待たせしましたどうもありがとうございましたー」

 コンビニの袋と食べ物を受け取って、俺は店を出た。俺が知ったことは、その手と、声だけだった。


 でも、見つけてしまった。

 見つけたこの場所に意味を感じた。

 今すぐ走り出したい気分だ。


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