いつもの朝は
「おい!萎花!!てめぇ、俺の鞄どこに置きやがった!?」
どたどたと騒がしい音をたてながら、階段を降りてきた彩希。顔を出したと思ったら、家中に響くような、大きな声を出した。
「はぁ?そこの椅子の上だろ。僕に聞く前にちゃんと探せよ」
「あぁ!?んでそんな分かりにくいところに置くんだよ!!」
「それ、僕のせい?寝坊する彩希が悪ぃんだろ」
喉を痛めそうな程、大きな声でがなる彩希、耳に指を突っ込んでその声をうるさいとアピールする萎花。萎花の冷たい視線に、彩希のイライラは頂点に達したようだ。今にも堪忍袋の尾が切れそう、といったところか。だが、俺はすでに切れた。
「ね、もう好い加減にしようよ。学校遅れるよ~・・・」
俺の様子を見て、二人のいがみ合いを止めようとする、先程まで傍観者だった奏馬を押しのけ、俺は「てめぇら・・・」と低くうなる。奏馬が諦めて耳を塞ぐ。
「好い加減にしろ――――――――!!!!」
俺が怒鳴った瞬間、うるさかった店内が一瞬にして静まり返る。が、俺の怒りは治まらない。
「オラ!さっさと鞄持つ!忘れモンねぇな!?確認したら靴を履く!ハイ!靴を履いたらとっとと店を出ろ――――――!!!!」
忘れ物を確認させる暇も、ちゃんと靴を履く暇も与えずに家の玄関から、萎花、彩希、奏馬を外へ(追い)出した。
「行ってきます。今日、テストで一時ぐらいには帰れるから。それまで店、大変だけど頑張って」苦笑いをしながら、俺への激励の言葉を述べる奏馬。
「・・・まーす」一応声は出すも、前半部分が全く聞こえない彩希。
「・・・・・・・・・」無言。声が聞えないのは萎花。こいつはいつもそう。
「ん。サボんなよ。行ってらっしゃい」
扉に寄りかかり、三人を見送った。
俺は、三人の背中が少し遠くなるくらいまで見送ったあと、玄関を閉め、店の開店準備をするためにリビングを通り、店内へと向かった。
まずは店内の締め切ったカーテンをすべて開ける。それからテーブルを拭き、テーブルクロスを皺無くかける。そして店内に飾った花には枯れそうなものは新しいものに、まだ大丈夫と判断したものには、水を与えてやった。最後に細かい場所の埃掃除と、掃除機を掛けて一段落―――――。
・・・申し遅れたが俺の名は、風樹 創南。ついでにこの店は“HEAL CAFE”。俺はここのオーナーだ。
先ほどまでここにいた、五月蠅い三人はこのカフェで住み込みでアルバイトをしている。
三人とも家から通う高校が遠く、学校にも寮が備わってないため、ここから学校へ通っているというわけだ。
もともと一人暮らしだった俺には、この家は広すぎ、店の方との両立が大変だったため、案外助かっている。もうあの三人がここに住んで一年半になる。
さて、喋りながらだったが、準備は整った。
店の玄関に向かい、硝子の扉にかかった、札をcloseからopenに変える。
これから客が来るまでの時間、少し暇になる。
三人の紹介でもしよう。
まずは蜉撓 奏馬。住み込みの三人の中で一番のんびりしている。奏馬は、ここから、バスで5つ目にある公立高校の生徒。成績は上の中ほど。部活はバスケットボール部。運動神経も成績もなかなかというわけだ。奏馬は、週に一回、ここから二時間ほどの、海岸で漁をしている親の元へ帰り、手伝いをしている。親から貰ってきてくれる魚が旨い。
それから、憂野 萎花。こいつは一番謎が多い。あまり喋る事はないが、たまに口を開いたら、口が悪くて堪ったもんじゃない。まぁ、あいつの面白いところは、喜怒哀楽が眼でわかるところだ。眼は口ほどにものを言う、という諺があるくらいだから不可能ではないな。だが、容易に話しかけたら、つま先から背中まで、冷たい手でザーッと触られたような悪寒がする視線とオーラが飛んでくる。流石に、お客にそんな事は無いだろうと思うが、仕事のときは、奥の方を担当させている。
最後に、俺が一番手を焼いている、明安 彩希。こいつは明安財閥の三男。ちなみに明安財閥とは、ここら一体を仕切っている大企業で超セレブ。の出身の癖にこいつはどこにでもいそうな奴だ。そう思わせるのは毎日の寝坊。先ほどの喧嘩を毎日繰り広げ、ひとしきり騒がせてから、学校に行く。が、その学校に問題があると俺は思う。彩希が通う学校は、ここらじゃ超有名私立校で、入試に受かるのが困難どころか、入試問題を解くのが不可能といわれるほどのトップ高校。だが彩希は、その入試をいとも簡単に解き、5教科合計498。ちなみに1教科100点だったそうだ。この点数は、史上最強を誇っている。これなら、明安家としても、気分がいいだろう。と思うが、生憎こいつは家を出てきた。理由は詳しく聞いていないが、とにかく嫌いなそうだ。
・・・まぁ、こんなものだろう。
「ち――――す!元気してたか、創南!」
ガラガラと、硝子の扉にかかったベルを鳴らして、長身の男が入ってきた。男は随分と大きな、キャリーバッグを二つほど引き摺ってきた。
「・・・燵妃!」
新しい話を投稿しました!
ていうか、まだもう一方も終わってないのに、いいのかって話ですよね。
いや、いいんですよ。
それでは、戦うカフェテリア、存分にお楽しみいただけるよう、頑張ります!