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経理課の男 —— 減損講義

前書き(町田視点)


品質保証の仕事をしていると、いろいろな「不良」に出会います。


設備の不具合。

設計ミス。

作業ミス。


でも、ときどき思うんです。


人間も、だいたい同じ構造なんじゃないかって。


原因は一つじゃなくて、

いくつかの要因が重なって、

ある日、表面に出てくる。


今回の会議も、最初は

ただの「毛根問題」のはずでした。


ところが途中から、

品質保証課と経理課、

そして妙に光っている人まで現れて、

だいぶ話がややこしくなってきました。


まあでも。


現場って、だいたいこんなものです。


それでは、

「減損」と「改善」がぶつかった会議の様子を、

少しだけお見せします。


会議室のドアが開いた。


「失礼します」


その声は、やけに澄んでいた。


そして次の瞬間、

なぜか廊下の光が会議室に流れ込んだ。


誰も言葉にしないが、社員の間ではよく知られている。


彼が現れると、なぜか空間が明るくなる。


背が高い。


肩幅が広い。


姿勢は無駄なく真っ直ぐ。


肌は異様なほど整っている。


そして何より


笑顔が、さわやかすぎる。


作った笑顔ではない。

呼吸と同じくらい自然に出る。


女子社員たちは廊下で彼とすれ違うと、

なぜか姿勢を正してしまう。


社内では密かにこう呼ばれていた。


「輝きの君」


経理課の 佐伯 である。



彼の後ろには、若手の女子社員が数人ついてきていた。


まるで自然現象のようだった。


誰かが「経理の研修がある」と聞くと、

なぜか人が集まる。


それが佐伯の講義だった。


「すみません」


佐伯は穏やかに頭を下げた。


「この会議室、今日の午後から

経理研修で使う予定なんですが」


町田

「研修?」


「はい」


その笑顔は、テレビに出ても通用するレベルだった。


正直に言えば、


アイドルでもここまで整っている人は少ない。


普段冷静な町田でさえ、

ほんの少しだけ頬が赤くなった。


田辺が小声で言う。


「……光量」


町田

「何?」


「この人来ると

蛍光灯の明るさ上がるんですよ」



佐伯はホワイトボードを見た。


そこには


毛根特性要因図


が描かれている。


そして


剛田の頭を見た。


一瞬だけ、表情が止まった。


しかしすぐに、いつもの爽やかな笑顔に戻る。



佐伯は笑った。


「なるほど」


「これは……」


「ちょうどいい題材ですね」


町田

「題材?」


佐伯は女子社員たちの方を向いた。


「皆さん」


「会計では、資産価値が下がったとき」


「減損処理を行います」


女子社員がうなずく。


佐伯の講義は、分かりやすい。


そして声が落ち着いている。


聞いていると

自然と納得してしまう。


これが彼のカリスマ性だった。



佐伯はホワイトボードを指した。


そして


剛田の頭を見た。


「例えば」


「設備が老朽化して」


「将来キャッシュフローが見込めない場合」


「企業はどうするでしょう?」


女子社員

「減損です」


「その通り」


佐伯は微笑んだ。


「つまり」


「価値が回復しない資産は」


「早めに損失計上する」


そして


剛田の頭をもう一度見た。


「これは」


「非常に分かりやすい例ですね」


女子社員たちが

くすっと笑った。



会議室が静まり返った。


田辺

「……」


町田

「……」


剛田は腕を組んだまま動かない。



佐伯は講義を続けた。


「見込みのない資産を

無理に維持すると」


「企業は疲弊します」


「だから」


「勇気を持って」


価値をゼロにする判断


が必要です」


女子社員がまた笑う。



そのとき


町田が口を開いた。


「なるほど」


「減損ですか」


佐伯

「はい」


町田

「面白いですね」


佐伯

「そうでしょう?」


町田は静かに言った。


「ただ」


「品質の世界では」


「少し違います」


佐伯

「違う?」


町田は剛田を指した。


「この人」


「減損済みなんです」


佐伯

「……」


町田

「もう認識してます」


「だから今」


改善活動


してるんですよ。



一瞬


佐伯の笑顔が止まった。


ほんの一瞬だった。


しかし空気が変わる。



佐伯は剛田を見た。


その視線は

先ほどより鋭かった。


「改善」


「ですか」


町田

「はい」


田辺が小声でつぶやいた。


「なんか」


「会議が」


「怖い方向に進んできましたね」

後書き(町田視点)


品質の世界では、

「問題を隠すこと」は一番やってはいけないことです。


まず現状を認める。

そして原因を探る。

そのうえで、改善する。


それだけの話なんですが、

これが意外と難しい。


特に――

人間が対象になると。


ちなみに今回の会議、

まだ決着はついていません。


経理課の輝きの君は相変わらず輝いていますし、

剛田課長は相変わらず改善を続けています。


そして私はというと、


とりあえず

田辺くんの前髪を定期的に観察する係

になりました。


もしよろしければ、

今回の会議についてのご感想なども聞かせてください。


現場の検査員として、

とても参考になりますので。

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