監査 ——「町田さんの抜き打ち検査」
改善活動において重要な工程の一つに、監査があります。
自分だけで問題を見ていると、
どうしても都合の良い解釈が入り込みます。
だからこそ、第三者の視点が必要になります。
品質の世界では、これを
客観的確認
と呼びます。
ときにその指摘は、
少々耳に痛いものになるかもしれません。
しかし本当の改善は、
そこから始まります。
それでは今回は、
剛田課長の頭頂部工程に対して実施された
町田監査員による抜き打ち検査
の様子を見ていきましょう。
剛田は、信頼の置ける後輩、町田を会議室に呼び出した。
手には「現状把握チェックシート」が握られている。
「町田くん、すまない。私の**『頭頂部工程』**について、現地現物で監査してほしい」
町田はコーヒーを一口すすり、
剛田の頭を360度ゆっくりと一周した。
その目は、不良品を見逃さない
ベテラン検査員のそれだった。
「……課長、これ。**『現場』**が想像以上に荒れてますね」
「……やはりか」
「はい。データで見るより、現物の
**インパクト(視覚的不適合)**が強いです」
町田は腕を組み、剛田の頭をじっと観察した。
「まず、この**『移送ライン(バーコード)』**ですけど……」
町田は手鏡で、剛田の後頭部を映し出した。
「ここ、起点が完全に露出してます。設計ミスですね」
「後ろから見ると、髪を連れて行かれた跡地が
ほぼ更地になっています」
町田は淡々と続けた。
「優しい言い方をすれば
『未開の地』」
「正直に言えば
**『不毛の地』**です」
剛田のペンが震える。
チェックシートに
設計上の欠陥:後頭部の更地化
と書き込まれた。
町田はさらに指摘を続けた。
「あと、この3本のアンテナですが……」
「さっきから微風で揺れてますよね」
「これ、**歩留まり(残存率)**を上げようとして
無理に長さを稼いでいますよね?」
「素材(髪)の強度が足りないのに長さを出すから
構造的に不安定なんです」
町田は静かに微笑んだ。
そして、最後の一言を放った。
「課長、この3本……」
「頑張って生きている感じがあって健気ですが」
「客観的に見ると」
『断末魔の叫び』
に見えます。
剛田は無言でチェックシートを握りしめた。
町田は肩をすくめた。
「ウケる、を通り越して
ちょっと拝みたくなりますね」
「拝む……?」
「はい」
「絶滅危惧種の最後の生き残りを見守るような
慈悲の心です」
町田はコーヒーを飲みながら続けた。
「ミサキちゃんが『Wi-Fi』って言ったのは
彼女なりの優しさですよ」
「現実を直視させないための
デジタルな比喩です」
⸻
【剛田式・現状把握:町田監査報告】
町田さんの毒……もとい
鋭い監査指摘により、
以下の現場の真実が判明しました。
町田はチェックシートを机に置き、淡々と読み上げた。
「それでは監査結果を報告しますね、課長」
「お願いします」
町田は指を一本立てた。
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不適合①
設計上の問題(頭頂部工程)
「まず、頭頂部の生産ラインそのものが停止状態です」
「稼働率、ほぼゼロですね」
「……」
「工場で言えば、設備が撤去された跡地です」
「優しく言えば“空き区画”。
正直に言えば、もう工場じゃないです」
剛田のペンが震えた。
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不適合②
無理な工程移送
町田は後頭部を指差した。
「次にこの移送ラインです」
「後頭部から前方に髪を輸送していますが……」
「輸送量が足りていません」
「現場で言うと」
「軽トラ三台分の資材で、高速道路を作ろうとしている状態です」
「……」
「しかも起点が完全に見えてます」
「これはもう“ライン”というより」
町田は少し考えた。
「細い橋ですね」
「台風が来たら終わるやつです」
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不適合③
残存資源の過度利用(アンテナ三本)
町田は3本の毛を指差した。
「この3本ですが」
「かなり頑張っていますね」
「ええ……」
「ただ、品質保証的には」
「英雄的努力に依存した工程は長続きしません」
「……」
「現場ではこれを」
『属人化』
と言います。
町田は少し笑った。
「この3本、健気なんですよ」
「でも客観的に見ると」
「断末魔のサインですね」
剛田は静かにうなずいた。
⸻
町田はコーヒーを一口飲んだ。
「ちなみにミサキちゃんの“Wi-Fi”発言ですけど」
「はい」
「たぶんあれ」
「悪意じゃないです」
「……」
「女性って、困ったとき」
「ちょっと優しい嘘を言うんです」
「“可愛いですね”とか
“似合ってますね”とか」
町田は肩をすくめた。
「でも今回は」
「電波受信装置でした」
「優しい嘘の方向がちょっと未来的でしたね」
⸻
剛田は深くうなずいた。
「つまり……」
「はい」
町田はチェックシートを閉じた。
「今回の問題は」
努力不足ではありません
「工程の問題です」
剛田は静かに言った。
「……毛根工程の構造的不良」
町田は頷いた。
「はい」
「しかも」
「かなり初期工程の問題です」
「つまり」
「つまり?」
町田は穏やかに言った。
「改善難易度」
「Sランクですね」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
品質管理の世界では、
監査の指摘は貴重な改善のヒントになります。
今回の町田監査について、
皆さまはどのように感じられたでしょうか。
もしよろしければ、
•町田さんの指摘は妥当だったのか
•まだ別の不適合があるのか
•あるいは別の改善案があるのか
ぜひ感想で教えていただけると嬉しいです。
現場の率直な意見ほど、
価値のあるデータはありません。




