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これはきっと、恋じゃない ーある日、異世界の聖女が召喚されて。ー  作者: はなぶさ


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プロローグ

異世界からの聖女召喚が成功したと聞かされたとき、私は礼拝堂で祈りを捧げている最中だった。

膝を折り、頭を垂れ、ただひたすらに祝詞を唱えて、この国の安寧を願っていたのだ。

しかし、この耳はなぜか、聖女が召喚されたのだということを取り零すことなく正確に聞き取る。

誰が口にしたのかも分からないのに否応なしに聞かされることになったその言葉に、心が勝手に反応した。

邪念が祈りの妨げになることを知ってはいても、耳を塞ぐことができない。


どうやら皇宮が聖女召喚を成功させたらしいよ、という声が耳の奥に何度も響く。第一皇子殿下も大した者だと誰かが僅かに声を張り上げて褒め称え、他の誰かがそれを諌める。

聖女候補が祈りを捧げている最中ではないかと。

しかし、それにもやはり他の誰かが反論した。

もはや聖女候補の祈りなどどうでも良いのだと。


辛らつな物言いだとは思ったが、それもそうだと頭のどこかでは納得している。顔では冷静を装い、何も聞こえていない振りをしていたけれど、動揺しているのが自分でもよく分かった。意図せずとも勝手に唇から零れていく祝詞に耳を澄ませながら、大丈夫、大丈夫とただ只管に唱え続ける。

そうしていなければ、その場に蹲ってしまいそうだった。

怖くてどうしようもなくて、握り締めた両手は小刻みに震え続ける。

今にも頽れそうになるのに、懸命に踏みとどまった。


―――――聖女召喚。


それはさながら、静謐な湖に無造作に投げ込まれた小石のようで。石が落ちたところに作り出された波紋はゆっくりと広がり、漣となって足元をさらっていく。砂礫を連れていくそれは、今まさしくこの地面を崩そうとしていた。

聖女としての素養があるからと教会に引き取られてから早十数年。

未だに聖女候補としての修行を積む身ではあるが、己の祈りもだいぶ様になってきたのではないかと思い始めた矢先のことだった。

私には何一つ知らされず。聖女召喚の準備がなされていることさえ分からなかった。

聖女候補であるというのに。全くの無関係とは言えない立場であるにも関わらず、蚊帳の外に置かれる虚しさをどう表現すれば良いか分からない。

長い長い祈りを終えて顔を上げてみれば、誰一人としてこちらを見ていないことに気づく。

もはや誰も、私には興味がないのだ。

聖女召喚の噂話に興じているのだろう。

ある人は驚きを隠せずに、またある人は眉を顰めて。しかし、大抵の人が頬を紅潮させて興奮していた。この国はとうとう成し遂げたのだと。

聖女召喚というのはそれほどの出来事だった。


だから。

ああ、私もお払い箱か。そう思ったのを覚えている。

そして、そう思った瞬間、指先がパキンとひび割れた。



























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