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エピローグ「フェロモンのない世界で」

 数年後。

 オルヴァンス王国は、かつてない繁栄を迎えていた。

 国王の座にはテオドールが就き、レオナルドは将軍として軍を統率し、ウィリアムは宰相として国政を支えている。

 兄弟仲は良好で、かつてのようなフェロモン合戦による城の損壊も激減した。


 その理由を知る者は少ないが、城で働く者たちは知っている。

 国王の執務室の隣に、特別な部屋があることを。

 そこには「筆頭執事」と呼ばれる男がいて、王と弟たちが日に何度もそこを訪れることを。


「ルシアン、疲れた。充電だ」

 国王テオドールが、威厳あるマントを脱ぎ捨ててソファに倒れ込む。

「はいはい。お疲れ様です」

 俺は慣れた手つきで彼に紅茶を出し、頭をマッサージする。

 少し白髪が混じり始めた彼の髪を梳くと、彼は猫のように目を細めた。

「……お前がいれば、私は最強の王でいられる」

「それは光栄です。ですが、書類は溜めないでくださいね」


 俺は変わらない。

 フェロモンも感じないし、特別な魔法も使えない。

 ただ、この国の心臓部である彼らを、整え、癒やし、送り出す。

 それが俺の仕事であり、誇りだ。


 窓の外には、平和な王都の風景が広がっている。

 この平穏な景色の一部を、俺が支えているのだとしたら。

 転生した甲斐もあったというものだ。


「さて、次はレオナルド様の鍛錬の視察、その次はウィリアム様の論文校正ですね」

 俺はスケジュール帳を確認し、懐中時計を見る。

 忙しい日々は終わらない。

 だが、不思議と悪くない気分だった。

 俺はジャケットの襟を正し、愛すべき主たちが待つ喧騒の中へと、足を踏み出した。


 フェロモンの嵐の中でも、俺の周りだけは、いつだって静かで、温かい。

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