番外編「ある日の休日ローテーション」
それは、「ルシアン協定」における「空白の二時間」に起きた事件だった。
日曜日の午後、テオドールとレオナルドとウィリアムの予定が奇跡的にバッティングせず、全員がフリーになった時間帯。
本来なら俺も休息を取るはずだったのだが。
「ルシアン! 猫だ! 猫が迷い込んだ!」
レオナルドが子猫を両手で抱えて俺の部屋に飛び込んできた。
全身真っ黒の、小さな黒猫だ。
「可愛らしいですね。どこから?」
「中庭だ。こいつ、俺の殺気にも動じねぇんだ。お前に似てる」
猫扱いされるのは心外だが、子猫に罪はない。
俺が猫を撫でていると、テオドールが入ってきた。
「何をしている……猫か。ふん、私は動物など興味ないが」
そう言いながら、彼は猫じゃらし(どこから出した?)を構えている。やる気満々だ。
さらにウィリアムも登場する。
「猫の生態観察ですか。興味深い。データを取りましょう」
結果、狭い俺の部屋で、王子三人による「子猫接待選手権」が開催されることになった。
テオドールは必死に猫じゃらしを振り、レオナルドは高い高いをし、ウィリアムは高級な餌を並べる。
しかし、子猫はプイと顔を背け、俺の膝の上に登って丸くなってしまった。
「……負けた」
テオドールが膝をつく。
「なんでだよ! 俺の方が強ぇのに!」
レオナルドが吠える。
「やはりルシアンの『鎮静効果』は動物にも有効か……」
ウィリアムがメモを取る。
三人の王子が、一匹の猫(と俺)に嫉妬している図は、なんとも滑稽で、平和だった。
俺は膝上の温かい重みと、目の前の騒がしい大型犬たちを見比べ、くすりと笑った。
「皆様、猫相手に本気にならないでください。お茶が入りましたよ」
休日くらい、こんな騒ぎも悪くない。
そう思える程度には、俺も彼らに毒されているのかもしれなかった。




