第12話「覚悟の口づけ」
奪還作戦から数日。王城の警備体制は、要塞レベルにまで引き上げられた。
もちろん、俺を守るために。
俺はと言えば、テオドールの執務室にある隠し部屋(豪華すぎる軟禁部屋とも言う)で、書類仕事を手伝っていた。
三人の王子は、交互に、あるいは三人揃って、俺の様子を見に来る。
「ルシアン、紅茶だ」
テオドールが自らカップを運んできた。
「ありがとうございます。……殿下、少し過保護すぎませんか?」
「足りないくらいだ。鎖で繋いでいないだけ感謝しろ」
彼は俺の向かいに座り、じっと俺を見つめる。
その視線には、以前のような「便利な道具」を見る色はなく、焦がれるような熱が宿っていた。
「……なぁ、ルシアン」
部屋に入ってきたレオナルドが、俺の隣にドカッと座る。
「お前さ、本当のとこ、俺たちのことどう思ってんだ? やっぱ、面倒か?」
意外な質問だった。
ウィリアムも入ってきて、扉を閉めた。彼も答えを待っているようだ。
俺はペンを置き、彼らの顔を見回した。
最強のアルファたち。誰もが畏怖し、崇拝する存在。
それが今、一人のベータの顔色を伺っている。
「面倒ですね」
俺は正直に答えた。
彼らの表情が凍りつく。
「手はかかるし、フェロモンはうるさいし、部屋は散らかすし、独占欲は強いし。執事としては、これ以上ないほど厄介な主です」
しかし、と俺は続けた。
「ですが、嫌いではありませんよ」
三人の目が大きく見開かれる。
「あなた方が私を必要としてくれるように、私も……あなた方の世話を焼くのが、生き甲斐になっているようですから」
前世の記憶があるせいか、彼らが不器用な子供のように見えてしまう。放っておけないのだ。
「……聞いたか、兄上」
レオナルドがにやりと笑った。
「聞いた。嫌いではない、と言ったな」
テオドールが立ち上がり、テーブル越しに俺の顎を持ち上げた。
「ならば、覚悟を決めろ、ルシアン」
彼は顔を寄せ、俺の唇に、そっと自分の唇を重ねた。
フェロモンのない、ただの温かい感触。
ベータの俺には電撃は走らない。でも、心臓がトクン、と跳ねたのは事実だ。
「これは契約の更新だ。死ぬまで……いや、死んでも離さん」
テオドールが離れると、今度はレオナルドが反対側から頬にキスをした。
「俺もだ。お前は俺のモンでもあるんだからな」
最後にウィリアムが、俺の手の甲にうやうやしく口づけを落とす。
「私も、君の魂まで拘束させていただきますよ」
三方向からの求愛行動。
これはもはや執事の契約を超えている。
彼らは俺を、伴侶として、あるいはそれ以上の存在として、共有し、愛し抜くことを誓ったのだ。
俺は赤くなる顔を隠すこともできず、小さくため息をついた。
「……承知いたしました。皆様が私に飽きるまで、お供しますよ」
飽きることなど永遠になさそうな瞳に見つめられながら、俺は彼らの誓いを受け入れた。




