魔女の森の噂
エボニー村を出てから何時間くらい経過しただろう?
あれから馬車はビッグフォレスト街道という少し大きな街道に出て道も舗装された
ものに変わっていた。ようやく私のお尻の心配をしなくて済むという訳だ。
周りの景色も牧歌的な田園風景は姿を消し、ただただ雄大な大自然の山々の景色
が車窓から流れていく。それでも都会に住んでいた私からすると飽きない風景だ。
途中何回か馬を水分補給の為、その辺の沢で休ませたりしながらも北へ。
やがて日が暮れてきて遠くに見える山々の青々とした木々も山吹色に染まる頃、
先行している若手騎士達が私達の馬車を運転する御者に手を振り何か合図をするのが
見える。
馬車の前を先行して走る騎士は三名で小隊長のオーヴァンさんと若い騎士が
二名、浅黒い肌の少し筋肉質な女性騎士が一人かなり先を走り斥候役、
オーヴァンさんと赤髪の男性騎士(確かルパードさんと言ったか)二名で哨戒行動と
何か問題があった時の遊撃と連携指示を担当しているとシェルビーに教えてもらった。
後ろを走っているのは壮年のベテラン騎士が少し離れてついて来ている。
勿論彼らが乗っているのは馬車ではなく、スタミナのありそうな軍馬を巧みに
駆っている。
「プラーニャ様、本日はこの辺で野営をするみたいですね」
「わかったわ」
前を走る先行隊が街道を逸れ、草原を少し下っていく。
私達の馬車も一緒に下っていくが、やっぱり街道よりちょっと揺れるわね。
しばらく獣道のような道なき道を進んでいると、少し開けた場所に着いた。
どうやらここは知る人ぞ知る穴場の野営ポイントなのだそうだ。
確かに穴場と言うだけあって適度に木々に囲まれ涼しく、周辺の木々からは
小鳥たちの囀りが聞こえてくる。近くには綺麗な小川が流れているから
飲み水の確保となんなら水浴びなんかも出来そうね。
騎士団の皆さんは、馬から降りると馬達を水辺近くの木に繋ぎさっそくテントの
設営に取り掛かる。
私も手伝わせて欲しいと申し出たのだが、丁重にお断りされてしまった。
確かにこれまで貴族社会で生きてきた私にとって、こういうは慣れていない
と思われても仕方ないのだろうが、実は前世では結構ソロキャンプとかが
趣味だったので出来ないことは無いのだが、話がややこしくなっても困るので
大人しくそこらの手ごろな切り株に座り傍観していた。
テントの設営が終わるころには辺りはトップリと暗くなり、満天の星空の下
焚き火を囲んで食事が作られていく。
今日の食事は焼き魚に兎肉のシチューとの事で、シェルビーと若い騎士達が
手際よく準備してくれる。
食材は馬を川で水を飲ませている間に、騎士団の皆さんが手分けして釣りと
狩りをそれぞれ分担して確保してきたものだ。
てっきり簡素な糧食かと思っていたのでこれはありがたい。
「プラーニャ様、どうぞ。貴族の食事に比べればお口に合わないかもですが」
「ありがとう!暖かい食事を頂けるだけでありがたいわ」
シェルビーが私に焼き魚と、シチューを取り分けてくれる。
確かに貴族の食事に比べれば、手の込んだ料理では無いがこうやって野外で
食べる食事はとても美味しく感じるものだ。
私は細い枝に刺さった塩焼きにした焼き魚をありがたく頂くと
予想通りとっても美味しくて思わず目を見開いて「美味しい!」と声を漏らした。
皆一瞬驚いた顔をしたが、顔を見合わせすぐに笑いだした。
「お口にあった様で何よりです!ふふふ熱いので気を付けてくださいね」
「本当に美味しいわ!素材の味が生きているってこういう事をいうのね!いくらでも
食べれてしまいそう!」
「糧食だと味気ないものですから、基本騎士の演習などでは食材は現地調達して
いるのです。ただ今日は運よく食材を調達できましたが、さすがに毎日とは
参りません。質素な食事になる日も出てくるでしょうからご容赦を」
「勿論です。私は罪人ですから食事を用意して頂けるだけでありがたいわ」
「あ、いえそのような意味では・・・・」
オーヴァンさんが申し訳なさそうな顔になる。
嫌味と受け取られてしまったろうか?でも本当の事だから仕方がない。
私は重罪人なのだから本来処刑されていてもおかしくない立場なのだ。
それくらいは弁えているつもりだと言いたかったのだが、オーヴァンさんの
恐縮しきった顔をみると、少しの後悔が胸を過る。
私は声に出せない分、心の中でごめんなさいと謝罪した。
「ゴホン、明日は魔女の森の横を通る予定です。危険な土地なので各自気を付けて
進みましょう。」
少し暗い雰囲気になってしまったが、オーヴァンさんが話題を変えようとしたのか
そんな事を口にする。魔女の森・・・か。
確かゲームでも出てきたっけ。結構強いモンスターが出るマップだったはずだ。
だがそれ以上に厄介なのは・・・。
「魔女の森・・・ですか?農道を抜けてビッグフォレスト街道に出た時から
からちょっと気になっていたんです。当初の予定では東から大きく迂回して
アララキ街道にでる予定でしたよね?大丈夫でしょうか?」
シェルビーが若干不安げな表情でオーヴァンさんに質問を投げかける。
そうか今通って来た道は本来のルートとは違うのね。
ルート変更をしたという事はやはりさっきのエボニー村の件が影響しているのかしら?
「ああ、充分に警戒する必要はある。だが横切るだけなら特に問題ないだろう。
俺は遠征で何度かこの街道を利用したことがあるが、霧が濃いだけで特に何も
起こらなかったしな」
「魔女の森って昔話でちょっとだけ聞いた事があります。別名”迷いの森”でしたっけ?
そこに氷壁の悪魔と呼ばれた恐ろしい魔女がいてひとたび迷いの森に足を踏み入れた者
は誰も帰ってこなかった・・・とか」
「ええ、確かにそのような伝承があるにはありますが、どれも眉唾ものの古いおとぎ話
みたいなもので私の知る限り実際にそういった失踪事件や魔女に遭遇したという話は
騎士団内でも聞いた事がありません」
魔女の森・・・確かにゲームでは必ず通るのよね。
・・・・あれ?でも何で魔女の森に態々入る事になったんだっけ?
うーーん。。何だろう?頭が霞がかったように内容が鮮明に思い出せない。。
おかしいな・・・あんなに大好きで何度もやったゲームなのに。
何か大事な事を忘れている気がするのよね。
私はその後もテントの中で毛布に包まりながら魔女の森について一生懸命思い出して
みたがどうしても思い出せず、何なら頭痛までしてきたので考えるのを止めて眠る事にした。




