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エボニー村にて

首都シュナイダーを早朝に出発してから時刻はもうお昼過ぎくらいだろうか?

私の乗る馬車は王都の街はずれの街道を走っていた。

流れる景色も見慣れた王都の街並みから、とうもろこし畑が一面に広がる

広大な田畑へと変わり、ひたすら東へ。

すれ違う馬車も減り、今では牛をのんびり引いてる麦わら帽子の農民くらいだ。


真っ青な空に大きな入道雲がゆっくりと形を変え漂っている。

田舎特有の熱された土と匂いと草花の咽返るような濃密な青臭い匂い。

近くの小川からはせせらぎが聞こえ、少し暑さを和らげてくれている。


そんな中、私はと言えば熱い車内で汗だくになりながらぐったりしていた。

馬車の移動は街中は道が整備されているからまだマシだが、田舎の街道は

結構揺れるから長時間乗っていればお尻が痛くなるし、

窓は小さく、開けていても風通しが悪い上に巻き上がる土埃で口の中が

若干じゃりじゃりするという辛い環境だった。


「大丈夫ですか?プラーニャ様」


「え、ええ・・・・平気よシェルビー、ありがとう」


馬車には一人、護衛騎士のシェルビーが同席してくれているのだが、具合悪そうな

私を気遣って大きな団扇でさっきから扇いでくれている。

そんな心配そうな顔で私を見つめる彼女は、汗一つかいていない。

普段どんな鍛え方をすれば、こんなに平然としていられるというのだろう?


「もう少しで最初の補給地点、エボニー村に着きます。それまでどうかご辛抱を」


シェルビーにそう言われ、私は力なく頷くと革製の水筒に口をつけ気力を奮い立たせた。

それからしばらくして、私のお腹の虫がぐぅと情けなく鳴いてきたくらいで

馬車の前を先行する小隊長が速度を下げ馬車の横に馬を付けると

シェルビーに指でクイクイと合図を出す。

私がシェルビーに今のは何の合図?と首を傾げて意思表示すると

「今のは村に着いたよという合図です」と彼女が教えてくれ、ほっと胸を撫でおろす。


お祖父様の話だとこの村で影武者と入れ替わる予定になっている。

一度東に向かってから北に向かう形になったのでかなりの大回りになってしまうが

公爵令嬢という地位を失った私に急ぎの用事もあるはずもないので問題ない。


「うっ・・さっきから思ってたけど一体何の臭いなのこれは?」


「ああ、エボニー村は牧畜が盛んなので堆肥や牧草、藁の臭いなどですね。

そのうち鼻が慣れてきますのでそれまでの我慢です。あっほら見えてきましたよ」


シェルビーに言われ窓から覗いてみると確かに遠くの方に数件の建物が見えてきた。

大きな畜舎に円筒形の建物、どうやらサイロと言って家畜の飼料を発酵させる

建物らしいがそういった建物が遠くから確認できた。

王都からほとんど離れた事の無い私にとってちょっと新鮮だった。


村に着くと道歩く村人達から少し物珍しそうに私達の乗る馬車を見ていた。

それはそうだ、こんな田舎では馬車が通るのは珍しいし護衛騎士が5人もいれば

悪目立ちして当然だろう。



それから馬車は村でも少しお洒落な外観の建物の前に止まった。シェルビーが

馬車を先に降りて周囲の安全を確認してから、私に手を伸ばしてくれる。

半日ぶりの外の空気は涼しく感じられて気持ちがいい。

どうやら村で唯一の宿屋に着いたらしく、目の前にはマホガニーの宿屋と

書かれた大きな看板のある漆喰の真っ白な壁に、入り口には鉢植えに色々な種類の

花が所狭しと置かれている。どれも手入れが行き届いていて気持ちがいい。


騎士達はツカツカと宿屋のドアを開けると、カランコロンと鈴の音する。

続いて私とシェルビーも遠慮がちにお店の中に入ると店内は誰もいなかった。

オーヴァンさんが店のカウンターにあったベルをチンチンと鳴らすと

「はーい!」と店の奥から元気よく声がしたので、そちらを見ていると奥から

人の良さそうな顔をしたちょっとふくよかな女性が出てきた。


「女将、昨日連絡を入れておいた騎士団のオーヴァンだ。早速で悪いんだが

まずは食事の用意と、冷たい水を持ってきてくれないか?」


「はいはい~騎士の皆さんね~お待ちしておりました~。準備出来てますよ。

今日はイヴェリア豚のステーキと夏野菜のパスタだよ。すぐ用意しますね」


シェルビーが店のイスを引いてくれたので、先に私が座らせて頂いた。

続けて騎士たちが、それぞれ別の席に私を取り囲むような配置で座る。

しっかり入口や宿全体が見える席に座るあたり、やはりプロなんだなと

こういうちょっとした事に関心する。


着席後に女将さんがすぐに冷たいお水と冷たく冷やしたタオルを渡してくれた。

タオルは女将さんの厚意で用意してくれたようだ。これで体を拭いていいと

言ってくれた。汗でべた付いていたので本当にありがたい。

冷たいお水でのどを潤すと生き返るようだ。

でも水分を補給したらとたんに汗が次から次へ噴き出してくる。

それを出されたタオルで首周りをササっと拭くと、また気持ちいい。


他の騎士たちは豪快にタオルで顔をゴシゴシしている。

私はまるで前世のごはん屋さんで顔を拭いている中年男性を思い出し

ついクスクスと笑ってしまうと、若い騎士は恥ずかしかったのか

顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。


ちょうどそのタイミングで女将さんと料理人の方が、キッチンから熱々の

料理を運んできて、思わずみんな歓声を上げる。

私はステーキは流石に多すぎるので遠慮したが、鉄板の上でジュージューと

焼けるお肉は香辛料独特の香りがして食欲をそそった。

夏野菜の冷製パスタも、トマトのような野菜にバジルのようなものが

かかっている。まさかこの料理人転生者では!?とも一瞬疑ったが

食べてみれば風味や食感が微妙に違うので、この世界独自の野菜らしい。


すぐ近くに農園があるせいか、新鮮な野菜はとても美味しく夢中になって

食べた。ちょっとはしたなかったかしらと周囲を伺ったが、私だけでなく

騎士さん達も大きな口で、美味しそうにお肉を頬張っていて私の事は全然気にして

無さそうでちょっとほっとした。


「シェルビー、例の件どうなっている?そろそろだと思うが」

「はい、ちょっと確認して参ります」


食事が済んで人心地ついた所でオーヴァンさんとシェルビーが目配せしている。

恐らく私の身代わりになって下さる方の事だろうか。

だとすればご挨拶とせめてお礼だけでもしておきたい。

いくら仕事とは言え危険な地へ行ってくれるのだ。礼は尽くしたい。


この時は確かにそう思っていたのだけれど

『1秒先の未来に何が起こるかなんて誰もわからない』

なんて事をその身をもって味わう事になるなんて、この時の私には知る由もなかった。

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