森の奥の魔女エスメラルダ
「これって・・・家?こんな危険な森になんで家があるの?誰か住んでいるの?」
私達はあれから数時間かけてこの場所に辿り着いた。
もちろんオーディンの嗅覚を頼りに。
湖の畔に佇む太い丸太で組み上げられた一軒のお家。
こんな深い森の中に似つかわしくないくらいに手入れが行き届いていて
まるでキャンプ場とかにあるお洒落なロッジとかログハウスみたいだ。
木で出来た階段に屋根付きの玄関があって、階段の途中に色とりどりの花が
咲いているプランターが数多く置いてあって家主のセンスの良さが伺える。
オーディンはその階段の前でお座りしながら私の方をじっと見る。
ここにシェルビーがいるのかしら?
だとしたら攫われてきた?まさか中にいるのは山賊とか?
けど山賊の根城というには少々似つかわしくないだろう。
少なくともここに住むような人は細やかな気遣いが出来て、植物を愛でるのが
大好きな優しい人。そんなイメージだ。
うーん、オーディンを信じれば彼女はここにいるんだろうけどどうしようか?
とりあえずノックしてみて家主に直接聞いてみるもの手だけど・・・。
家の様子を窺っていると家の横にある木に馬が繋がれているのが見えた。
「あれって・・・オーヴァンさんの馬!!・・・てことはやっぱり・・・?」
鞍は外されているみたいだけど、黒鹿毛の毛並みに額には特徴的な大流星があり
何より鬣が綺麗に編み込まれている。
うん、オーヴァンさんの愛馬と見て間違いないだろう。
(ってことはやっぱりシェルビーがここにいる可能性はかなり高いわね)
そのとき玄関の方からガチャリと扉を開ける音がして身構える。
出てきたのは14歳くらいの小柄な黒髪の少女だった。
少女は真っ黒なワンピースに長いブーツという出で立ちで、優しそうな眼もとに
透き通るような琥珀色の瞳は見る者を不思議と引き付けるような蠱惑的な
魅力があるまさしく美少女だった。
「あら?こんな森の奥にお客様とは珍しいね。それにその狼は・・・ふむ」
「あの・・・私はプラーニャと申します。その・・実は人を探していまして
ここにシェルビー・・いえ髪の短い軽鎧を着た女性騎士をご存じありませんか?」
「ああ、何だあの子の知り合いだったのかい。その子だったら今私の家の
ベッドで静養しているよ。たまたま見つけてね、重症だったから家に連れ帰って
保護してたのさ」
良かった。どうやらシェルビーは無事だったみたい。
それにしても随分と大人びた雰囲気の少女だ。
でも何だかこの子どこかで見たような気がしてならない。どこだっただろう・・・?
うーん・・・思い出せないな。
私がそう事を考えながら立っていると彼女は階段から降りてきて私の眼をじっと
覗き込みながら首を傾げる。
「ふーむ・・・・その狼もそうだが・・・お主、実に興味深いな。面白い」
「・・・・?」
「何をしておる?会っていくんじゃろ?あの嬢ちゃんに」
「あっはい。お願いします!」
シェルビーさんを嬢ちゃんか・・・・。
彼女は随分と話し方まで大人びた・・・というよりずいぶん年齢を感じさせる
話し方をする子だ。見た目は若いのに不釣り合いね。
あっそう言えば名前を聞いていなかったわ。
私は先に玄関に向かって行った彼女を慌てて追いかけて玄関から中に入らせてもらう。
「お邪魔致します」
おお、何だか安らぐような良い香りがほんのりする。
彼女のイメージ通りというかインテリアのセンスが良く好感が持てる。
ビンテージ感のある家具に小瓶にたくさん詰められた花びらの小物など
女性であれば誰しも目を輝かせてしまうような一品ばかりだ。
公爵邸も高級な調度品などあって品がある物が多いが、それとは別のベクトルに
ある上品さが漂う部屋になっている。
「お嬢様!ご無事でしたか!」
「シェルビー!良かった。貴方が突然いなくなって随分心配したのよ」
シェルビーは奥の部屋のベッドに寝かされていて私は思わず駆け寄った。
顔色はかなり血色が良くなっていてもう命に別状はないだろう事がわかる。
いなくなったときは本当に心配したし正直心細かったけど、こうして生きていて
くれたて本当に良かった。
「申し訳ございませんプラーニャ様。本来貴方をお守りすべき立場の私が
気を失ったばかりにとんだご迷惑を・・・」
「気にしないで。貴方のお陰で今私は五体満足無事でいられているのだもの」
シェルビーの無事が確認できたところで私は黒髪の美少女に向きなおり深々と
頭を下げた。
「シェルビーを保護して頂き本当にありがとうございました。公爵家の代表として
このご恩は必ず何らかの形でお返しいたします」
「いいのよ困った時はお互い様ってね。それより貴女、貴族の御令嬢だったんだね
私の中で貴族と言えば偉そうでいけ好かない連中ってイメージだったけど
随分と腰の低いお嬢様もいたものだね。気に入ったよ」
「エスメラルダ様、恩人とは言え公爵家の御令嬢に対しその態度はあまりに・・」
「いいのよシェルビー、王都では公爵家の人間と言えども一歩外に出てしまえば
ただの人。そこに貴賤の差など存在しないわ」
「ふふふ・・・ますます気に入ったよ。私はエスメラルダ、魔女エスメラルダよ」
(魔女エスメラルダですって!?もしかしてあの最強の魔女だったの!?)
ゲームの作中に出てきた最強のNPCと言われている魔女だ。
まさかこんな場所で会う事になるだなんて・・・。
もしかして魔女の森に住む氷壁の悪魔って呼ばれている魔女の噂は彼女の事だったの?
でも変ね。作中で出てきたのはもっとずっと後だったしこの森でも無い。
それに見た目はゲームとは違い過ぎる。
ゲームではもっと年老いた老婆のような姿をしていたはずだ。
「それよりあんた達、お腹空いてるんじゃないかい?これから食事にしようと
思っていたところじゃ。もし良かったらご馳走するがどうする?」
う・・・そういえば。もうずっとまともな食事にありつけていない。
彼女の正体は気になるけどオーディンもきっとお腹を空かせているはずだし
ここは一旦置いておいてご相伴に預からせてもらおう。
「ありがとうございます。あの・・・図々しいお願いなんですが一緒にいる私の相棒、
ずっとご飯を食べれてなかったみたいで・・・・この子の分もご用意いただくことは
可能でしょうか?ご無理でしたら私の分をこの子にあげて欲しくて・・・」
「あははははは、勿論その子の分も別で用意してあげるから安心して。あなた優しいのね
嫌いじゃないよそういうの。フフフ・・・皆で食べた方が食事は楽しいしね」
魔女エスメラルダ。偶然出会った彼女との縁が後々私の運命を大きく変える
きっかけになったんだけど、この時の私はまだその事実を知らないでいた───




