頼もしい相棒
「今日から貴方の名前はオーディンよ、私の前世の神様の名前なの。どう?
気に入ってくれた?」
彼は尻尾を元気にパタパタと振っている。どうやら気に入ってくれたようだ。
有名な北欧神話の神様だけど、本来オーディンはフェンリルという狼に
討たれてしまうのでちょっと皮肉が効いた名前になってしまうけど、
何となく頭に浮かんだのがこの名前だった。
まあ今は異世界だし問題ないだろう。
・・・よくよく考えたらこの子は野生動物なのだろうか?まさかモンスター?
うーん・・・まあいっか。私が考えているのを見てちょっと首を傾げる姿が
可愛くてそんなことどうでも良くなってくる。
それからしばらくオーディンと一緒に歩いていると昨日足跡を見失った地点まで
辿り着いた。ちょっとした湿地帯になっている場所。
このまま進んでも大丈夫だろうか?
泥濘に足を取られると抜け出すのが大変そうだ。
それにこういう場所はリザードマンが多く生息すると書物で読んだ事もある。
「オーディン、ちょっとこの湿地帯は迂回して行きましょう」
でもオーディンはその場を動かずに鼻をクンクンと言わせながら地面を
嗅いでいる。もしかしてシェルビーの匂いを探してくれているのかしら?
いやまさかね・・・?
しばらく待っていたらそのままクンクンと地面を嗅ぎながら移動し始めた。
「ちょ、ちょっとオーディン?そのまま行ったら危ないわ。迂回よ迂回」
私がそう言うと彼はピクピクと耳を動かすだけでそのまま湿地帯を
突き進んでいく湿地帯は背の高い葦のような植物が多く肉食の
モンスターが身を隠すには充分な隠れ蓑になるだろう。
少し迷ったがどんどん前を行くオーディンに、私も仕方なく追従する事にした。
湿地帯は案外深く無かったが、自前のブーツが段々と染みてきて気持ち悪い。
オーディンはそんな事お構いなしに相変らずフンフンと鼻を鳴らして
一心不乱に進んで行く。
私はなるべく身を低くしながら音を立てないように進んでいた。
たまにガサっという草木の擦れあう音にビクっとしながら付いていく
というのを繰り返していると、急にオーディンは地面のある一点を集中的に
嗅ぎ始めた。何か気になる匂いでもあるのだろうか?
「ヴォフッ!!!」
オーディンはそう短く吠えると急にすごい速さで駆け出した。
「ちょっと!オーディン待って!!・・・私を置いて行かないで!」
彼に置いて行かれまいと私も必死になって走る。
途中何度か泥濘に足を取られそうになりながらも何とか彼を視界に
捉え続ける事に集中した。
湿地帯を抜けきった所の土手まで行くとようやくオーディンが停まってくれたので
ハァハァと息を切らしながら彼の元に辿り着く。
「もう、オーディン速すぎよバカァ!ちょっとは・・ハァハァ手加減して・・」
全力疾走をしたのなんていつぶりだろうか?私はもう肩で息をしながら膝に
手をついて呼吸を整える。
当のオーディンはどうしたの?と言わんばかりに私の顔を見る。
野生動物の体力と一緒にしないで欲しいものだ。
ガリガリに痩せた状態なのになんでこんなに体力があるんだろうか・・・。
『ガサッガサガサガサッ』
その時である、私の後方の茂みから何かが勢いよく出て来た物音がして慌てて
振り向くとそこには2メートルはあろうかという大型のリザードマンが立っていた。
(しまった!!やはりここはリザードマンの縄張りだったのね!?)
その爬虫類独特の鋭い眼光は私の事を完全に捉えていてシュルシュルと威嚇音を
放っている。私を獲物と認識しているに違いないだろう。
初めて正面から魔物と邂逅した私はオロオロと後ずさりするしかなかった。
それを見たリザードマンは一歩また一歩と私に詰め寄ってくる。
(まずいわね。。この距離・・逃げれそうに無い)
まさに絶体絶命と思ったその時、オーディンがリザードマンの喉笛目掛けて
飛び掛かりガッチリと喰らいついた。
(オーディン!?・・・無茶よ!!体格が違い過ぎるわ!!)
だがリザードマンは喉元にオーディンの鋭い牙が予想以上に深く刺さっており
痛かったのかブンブンと首を激しく振った。
オーディンはそれでも噛んでいる首を離さずに奴の首にぶら下がっている。
数秒の格闘の末、リザードマンはグラリと大きく体制を崩した。
ここしか無いと感じた私は勇気を出して魔物に全体重をかけて体当たりをする。
『ドンっ!!』
オーディンに噛みつかれて体制を崩していたリザードマンがドサっと後方に
倒れ込んだのを見て「逃げるわよ!オーディン!!」と叫ぶ。
オーディンが私の声に反応して素早く駆け寄ってくるのを確認した私は回れ右して
わき目も振らずに全力疾走でまた走り出した。
どれだけそうしていただろう?時間にして3分?5分は走ったかもしれない。
もう酸素が足りなくって目の前がチカチカとスパークする。
「ハアッハアッハッハッハッハアァ・・・もっもう追いかけてきてないわよね?」
かなり離れてからしばらく藪の中に身を隠して様子を伺ったが追ってくる
気配は無い。その間も私はオーディンをぎゅっと抱きしめ震えながら待った。
・・・・大丈夫そうだ。
どうやら諦めてくれたようだ。しつこく追ってきたとしてももう走れない。
今日は全力で走り過ぎてもう膝がガクガクと笑っているのだ。
「ありがとうオーディン、貴方には何度も命を救われたわ」
そう言ってオーディンの身体を撫でてあげると、彼は嬉しそうに目を細め
尻尾を振って応えてくれる。
本当にあの時出会えたのは運命だったのではないかとさえ思えてくる。
しかし今日は身をもってモンスターってこんなにも多いのかと
実感してしまった。王都から出た事の無い私にとっては、
話にはよく聞くが本物のモンスターを見た事が無かったのでどこか遠い国の
話だと思っていた。もう2度と見たくないけど。
「さあ、気を取り直して歩きましょう。ずっとここに留まっていたらまたいつ強い
モンスターに襲われるか分かったものでは無いもの」




