遭難した公女
あれから10分程疾走してからようやく馬は体力が尽きたのか口から泡を吹きながらゆっくり
と停止した。その間ずっとシェルビーを必死に支えていたのでもう腕が限界に来ていた私は
つい手が緩んでしまいずるりとシェルビーが体をすり抜け落馬してしまった。
「シェルビーっ!!」
私は慌てて馬を降りると倒れている彼女を抱え起こし顔色を確認するとハッと息を飲む
彼女の顔は唇まで真っ青になっており明らかに失血によるものだった。
一刻も早く血を止めなくてはと出血箇所を確認する。
まずは彼女の胸元を開けて気道を確保しつつ鎧を剝がしていく。
正直そんな騎士用装備など扱ったことがなかったので結構苦戦したが、出血箇所は
特定できた。頭と大腿部だ。
特に太ももの切り傷は結構深く抉れており目を背けたくなるほどだった。
「止血するにしてもまずは傷を洗わないと破傷風になってしまうわね。何か・・・」
周りをさっと見渡してもこの森の中だ。綺麗な真水が近場にあるはずがない。
そんな私の目にすぐ傍で腰を落として休んでいるオーヴァンさんの愛馬に目が停まり
積載用の荷物入れが装着されているのを発見し急いで駆け寄って中を確認してみる。
「少しの食料に飲み水・・・それにこれは医療キット?。消毒液は・・・無いか。
あっでも針と糸・・鋏にそれに包帯もあるわね。都合がいいわ。
消毒は水でするしかないか・・・恐らく来る途中で川の水を汲んだものよね?
恐らく煮沸はしてないだろうから衛生面が気になるところね・・・あら?」
荷物入れの奥の方にお酒の携帯ボトルがある事に気づいてボトルを振ってみると
まだたっぷりと入っているみたい。オーヴァンさん。。。任務中にまさか?
いや、そんな事を考えている場合ではないわね。
ボトルの蓋を開けてクンクンと匂いを嗅いでみると、お酒独特のアルコール臭がする。
良かった。これで応急処置は出来そうね。
「シェルビーちょっと傷に滲みるだろうけど我慢してね」
ドボドボと彼女の太ももにアルコールを満遍なく掛けていくと少しだけ呻いた。
医療キットに入っていた綺麗な布切れで傷口を拭いたら針と糸で傷を縫い合わせる。
裁縫は嗜みとしてやったことはあるが傷の縫合なんて勿論したことなんてない。
でもやらないと彼女の生死がかかっているのだ。
手が震えて中々上手くできなかったが何とか縫合できたので包帯を巻いていく。
汗だくになりながら何とか彼女の治療を終えた。
これでひとまずは大丈夫そうだけど、かなりの血液を失っているから油断は出来ない。
一旦彼女を私の上着を枕に地面に寝かせておく。
「さて、これからどうしようか?魔女の森には危険なモンスターもいるはず・・・
ここに留まっているのは危険ね」
私は内心の不安から誰かに話しかけるように独り言を言う。
そうしないとこの状況に、不安に胸が押しつぶされてしまいそうだったから。。
だけれど私を生かしてくれた彼らの為にも何としても生き残らないと・・・。
とりあえず周辺を探ってシェルビーを安全な所に移しましょう。
森の中は改めて見ると意外と霧は深くは無いみたいだ。
背の高い雑草も無く歩きやすいが、霧による湿気でそこらにある木々は濡れている。
これは結構まずいかもしれない。
すぐに森から出れるなら問題ないが、ここは迷いの森と言われる場所だ。
もしここから暫く出られないとなると必ず火が必要になるだろう。
けど濡れている木ばかりでは火を起こすのはかなり難しくなってしまう。
そうして30分ほど歩きまわっても森の出口は結局わからずじまいだった。
本当にどうしようか。このまま歩き続けてもシェルビー達のいる場所を見失う可能性も
あるので下手に遠くまでは足を延ばせない。
かといってあのオーヴァンさん達や王国の救助も見込めないだろう。
まずオーヴァンさん達だが、あの大型のモンスターに襲われて無事であるというのは
中々難しいだろうし、あまり想像したくはないが最悪の結果も想定しないといけない。
そうなれば王国には私達が魔女の森で遭難している事実に気づくまでに一体
どれほどの時間がかかるのか・・・・。
しかも私は罪人だ。
王国側からすれば騎士団の人達は別として、いわくつきの森に危険を冒してまで救助にきて
くれるだろうか?残酷だが答えはノーだろう。
おまけにこの森はモンスターの生息域だ。
今はまだモンスターの気配はしていないが、もし彼らに見つかれば丸腰の私は格好の獲物だろう。
「だめね・・・考えれば考える程ネガティブな事しか思いつかない。一旦シェルビーの様子が
心配だし戻ろうかしら・・・・あら?」
崖の斜面にポッカリと大きな穴が空いているのを偶然見つけた。
洞窟だろうか?
ただの洞窟であればいいのだが大型の動物やモンスターの巣である可能性がある。
けどもしただの洞窟だったら雨露はしのげそうだ。
音を立てないように慎重に近づいてみる。
特に大型動物の足跡や糞などは無さそうだ。少し希望が湧いて来た。
あとは洞窟の中が安全かどうかだ。
前世の動画で見た事がある知識でしかないが、洞窟には危険なガスが充満している
事もあるらしく洞窟の入り口に松明を翳して火が消えれば空気では
なくガスが洞窟を満たしている危険な洞窟という事になるらしい。
「火魔法は得意じゃないのだけど・・・種火程度であれば出来ない事はないわ
ローファイアッ・・・・うん大丈夫そうね」
空気は問題なさそうだったので、火魔法で指先に火を灯し松明代わりにして
洞窟の中に入ってみる事にした。
何かがいる気配は無い。こういう時に索敵魔法が使えればいいのだけど
あれは中々に高等な魔法なので私は使えない。
意を決して洞窟の中に潜入してみると、洞窟はそんなに大きくないもので
拍子抜けするほどすぐに安全性は確認できた。
よし、すぐにでもシェルビーをここに連れてこよう。
・・・・というか良く考えれば彼女はまだ気を失ったままだ。
その状態でモンスターに襲われれば・・・急に不安になってきた私は彼女のいる方向へ
駆け出していた。
ごめんなさい、シェルビー・・・お願い無事でいて・・・。




