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すぐそこにある恐怖

「本当に一緒に入らないの?すごく気持ちいいわよ。絶対入った方がいいわよ」


早朝、私はシェルビーと共にテントから少しだけ離れた小川で水浴びをしていた。

朝日に照らされた水面がキラキラと輝いて見えてとても美しい。

でも川の水温は外の気温とは違ってかなり冷たいのであまり長くは浸かれない。

家の大きな浴場がちょっとだけ恋しいけど、自然の中でする水浴びも悪くはない。

シェルビーも一緒に入ろうと進めたが

「自分はプラーニャ様の護衛任務中ですので」と丁重に断られてしまった。


「ふー生き返ったわ・・・ところでシェルビー?ここを出たら次の補給地点までは遠いの?」

「次ですか?まず今日魔女の森を横切りさらに北へ1日、山を二つほど超えたら

『迷宮都市ノースピーク』が2回目の補給地点ですね。ここから3日ほどの距離

でしょうか」


「それまではずっと野営って事ね?そっか・・・体力つけなきゃね」


「昨夜は随分お疲れの様でしたね。でも無理もありません。慣れない長旅

なのですから。体調に異変があればすぐに言ってくださいね。長旅では少しの

無理が取り返しのつかない事になったりしますから・・・

小隊長の受け売りですけど」


「ふふふ・・・わかったわ。ありがとう、胆に銘じておくわね」


水浴びを終えると私達は手早く準備して、馬車に乗り込んだ。

今日もとても天気が良く朝から蝶々や蜂のような虫たちが元気に飛び回っている。

ちなみにこの世界にも当然の様に虫はいて、前世の虫たちとそう変わらない

形状や色、習性等が結構異なっていてやはり違う世界なんだと再認識する。


また私達の乗る馬車は昨日の街道に戻るとまた北へ北へと向かってひた走る。

小さな車内は窓を開けているとは言え、やはり暑くさっき水浴びしたばかり

というのにまた入りたくなってくる。

しばらく馬車に揺られながら外を見ていると、野生のモンスターが遠くの方に

ちらほら見えるようになってきた。それだけ人里離れて来たという証拠だ。


さっきも前の世界のバイソンみたいな牛型のモンスターが群れをなしていて

シェルビーに聞いてみると『ワイルドホーン』という名のモンスターらしい。

草食系のモンスターだが気性が荒く、敵となればその巨大な角は脅威だそうだ。

あんなのに一斉に襲い掛かられたら私なんかあっという間にペシャンコだ。

そう思うと本当にこの馬車って大丈夫かしら?とちょっと不安になる


「プラーニャ様大丈夫ですよ。ご不安になる気持ちも当然ですが、我々の部隊は

辺境警備においてかなりの練度をこなした精鋭達。

まあ自分で言うのもなんですけど・・・・だからご安心ください!

いざとなったらこの命に代えてもお守りします」


「・・・私そんな不安そうな顔してた?ごめんなさい。でも皆さんの事を信用

していない訳では無いの。・・・ほら私王都から出た事ないじゃない?

だからやっぱり実物のあんな大きなモンスターを見てしまうと・・正直・・ね。」


私がそう言って傍らにお守り代わりに置いてあるお兄様に貰った盾と剣を見ると

シェルビーが優しくきゅっと私の手を握ってくれる。


ああ・・・人の手の温もりってこんなに安心するものなのか。

私は彼女の”剣だこ”ができた少しゴツゴツした頼もしい手を握り返し小さく

「ありがとう」と呟くと彼女がニッコリと微笑んで「やっと笑ってくれましたね」

と言ってくれた。


自分では今まで気づかなかったが、どうやらかなり表情が硬かったらしい。

そうね、これからオルトリンデまで道は長い。

それまでは彼女たちが私にとって頼みの綱だ。彼女たちが命に代えても守るとまで

言ってくれたのだ。私も彼女達にこの命を預けよう。

そう覚悟を決めると幾分か心が落ち着いた気がした。


「あっ霧が出てきましたね・・・きっと魔女の森が近くなってきたんですね」


ハッとして窓の外を見るとシェルビーの言った通りまるで煙のような白い霧が

段々と辺りの景色を飲み込んでいく。

馬車が進めば進む程、その濃密な霧は濃く深くなっていき、まるで私達を飲み込む

巨大な生き物の様で私に言いようの無い不安を齎した。

窓にも水滴が滴るほどの濃密な霧・・・。まさかこれほど濃いものだったとは。


「視界が悪いですね・・・。今日は特に霧が濃いみたいです」


「馬車のスピードも落ちて来たわね・・・これほど濃い霧じゃ少しでも離れたら

お互いの位置も判らなくなってしまいそう」


「そうですね・・・・プラーニャ様、ちょっと失礼します!」


そう言うとシェルビーはおもむろに馬車の窓を開け身を乗り出した。何をするのかと

驚いていると馬車の角に取り付けてあるランタンに火魔法で火をつけた。

それを機にオーヴァンさん達も馬を駆りながら長い金属の棒のようなものを

取り出すとその棒の先端が花火のようにシューと音を上げ輝きだした。


「あれは一体何?初めて見るわ」

「あれは魔道具の一種ですね。魔導トーチと言って微弱な魔力に反応して光る道具

なんですよ。こういう霧の時はお互いの位置を見失わないように使います」


なるほど!フォグランプみたいな役割をしているって事なのね。

確かにこれくらいの明かりであれば光も霧で乱反射せずに済みそう。

それにしても・・・不気味ね。

私達の右手にはすでに鬱蒼とした森が姿を現している。

背の高い苔むした木が密集していて太陽の光を遮っていて魔女の森と呼ばれる理由に

納得の不気味さを醸し出していた。

こんな所を魔物達に襲われたらひとたまりも無い。何事も起きなければいいのだが・・・



魔女の森を進む馬車はスピードを落としながらも慎重にだが確実に街道を

走っていく。だが私はさっきから少し気になる事があった。


「ねえシェルビー?」

「なんですか?プラーニャ様何か気になる事でも・・・」「何か聞こえない?」


「・・・・確かに。何か・・重いものを高い場所から落としている様な音・・」


『ピィィィィィィイイイイイ!!ピィィィィィィイイイイイ!!!!』


突如として誰かの鳴らした指笛の音が響き渡ると同時に馬達が興奮状態に陥る。

野営の時に教えて貰った緊急事態を知らせる指笛だ。

私とシェルビーは顔を見合わせ、馬車の窓から外を確認する。

相変らず窓の外は濃い霧に覆われていて良くわからないが、音が段々と大きくなってきて

同時に振動までするようになってきた。


ズシィィイイン・・・・・ズシィィィイン・・・・ズシィィン・・・ズシィィン


「何・・・・あれ?・・・何なの?」

「あれは!!まさか・・・霧の魔神・・・ポ、ポルックス!?何故こんな場所に!!」

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