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召喚した勇者がクズでした。魔王を討伐して欲しいのに、勇者が魔王に見えてきた。助けて  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
第2部:信仰の崩壊期

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8/20

第8話「黒魔術師クロウの詩」

朝の図書館は静かだった。クロウ・アッシュフォードは高い書架の間を歩きながら、この静寂を愛していた。


彼は一冊の本を手に取る。革の装丁、褪せた金文字。『アルディス王国建国史』――そう書かれている。


クロウは窓際の席に座り、本を開いた。


この世界は、美しい。


彼はそう思う。古い本の匂い、静かな図書館、窓から差し込む朝の光。全てが、地球にはない独特の雰囲気を持っている。


魔法が存在する世界。剣と魔法の世界。ファンタジーの世界。


クロウは、この世界に来たことを――最初は喜んでいた。


しかし。


彼は本のページをめくりながら、心の中で問いかけた。


これは...正しいのか?


本には、英雄の物語が記されている。魔物を倒し、民を守り、国を救った英雄たち。彼らは称賛され、語り継がれている。


では、俺たちは?


クロウの脳裏に、記憶が蘇る。


村が吹き飛ぶ光景。ハルの魔法で、家々が崩壊する。


街が壊滅する瞬間。フェルナンドの惨劇。死者の数。


城壁の崩壊。レンの拳で、国の守りが砕ける。


俺たちは――英雄なのか?


「勇者様」


声に驚いて顔を上げると、図書館の司書である老人が立っていた。白い髭を蓄えた穏やかな顔の老人は、優しく微笑んでいる。


「何かお探しですか?」


クロウは少し考え、そして答えた。


「...『英雄』について、書かれた本を」


老人は頷き、書架の奥に向かった。やがて戻ってきた時、彼の手には分厚い本があった。


「こちらをどうぞ。古代から現代まで、様々な英雄の物語が記されております」

「ありがとう」


クロウはその本を受け取った。老人が去った後、彼はページを開く。


そこには、数々の英雄の物語があった。竜を倒した騎士、魔王を封印した魔法使い、国を救った王。


彼らに共通することは――民を守った、ということだ。


民を守る。


その言葉が、クロウの心に引っかかった。


では、俺たちは?


俺たちは、民を守っているのか?


答えは――。


クロウは本を閉じた。




昼、クロウは勇者たちの部屋に戻った。扉を開けると、ハル、レン、ミカの三人が部屋でくつろいでいる。


ハルはベッドに寝転がり、天井を見ていた。


「今日、何する?暇だな」


レンは窓際で腕立て伏せをしている。


「また訓練?城壁もう一個壊す?」


ミカはソファで目を閉じていた。


「だるい。寝てたい」


クロウは、彼らを見た。


仲間だ。異世界に一緒に召喚された、同じ境遇の仲間。


しかし――。


「なあ、俺たち...」


クロウの声に、三人が振り向いた。


「お、クロウ。どうした?」


ハルが体を起こす。クロウは言葉を選びながら続けた。


「俺たち、本当にこれでいいのか?」

「何が?」


ハルが首を傾げた。クロウは深く息を吸う。


「村を壊して、街を壊して...」


レンが腕立て伏せを止めた。


「でも魔物倒したじゃん」

「そうだけど...その過程で、人が死んでる」


ミカが目を開けた。


「てか、何が問題?」


クロウは、三人を見つめた。彼らの目には――疑問がない。罪悪感もない。ただ、純粋な困惑だけがある。


「人が...死んでるんだぞ」


クロウは繰り返した。ハルが立ち上がり、クロウの肩に手を置いた。


「クロウ、お前また難しく考えすぎだって」

「そうそう。気にしすぎ」


レンが笑った。ミカはまた目を閉じる。


「てか、俺たち悪いことしてないし」


ハルが続けた。


「気楽にいこうぜ」


クロウは――何も言えなくなった。


彼らには、伝わらない。


いや、伝わらないのではない。そもそも、問題だと思っていないのだ。


クロウは部屋を出た。


廊下に一人立ち、彼は壁に手をついた。


仲間は、気づかない。


その事実が、彼の胸を締め付けた。




午後、クロウは城下町を歩いていた。


特に目的があるわけではない。ただ、部屋にいたくなかった。仲間といたくなかった。


広場を通りかかった時、人々が集まっているのが見えた。中央には吟遊詩人が立っており、リュートを奏でながら歌っている。


クロウは足を止めた。


「聞け、勇者の物語を!」


詩人の声が響く。


「勇者ハルは、死者を蘇らせ!」


民衆が歓声を上げた。クロウは眉をひそめる。そんなこと、していない。


「勇者レンは、山を砕き!」


また歓声。それも、やっていない。いや、城壁は壊したが――。


「勇者ミカは、天候を操る!」


さらに大きな歓声。クロウは、複雑な表情でそれを見ていた。


全て、嘘だ。民衆が作り上げた、虚構の物語だ。


詩人の歌が終わり、拍手が響いた。クロウは人混みをかき分け、前に出た。


「あ、勇者様だ!」


誰かが叫んだ。一斉に、視線がクロウに集まる。


「勇者クロウ様!」

「本物だ!」


民衆が歓声を上げた。クロウは、彼らを見回した。


そして――口を開いた。


「...俺も、詩を詠んでいいか?」


広場が静まり返った。次の瞬間、爆発的な歓声が上がる。


「勇者様の詩!」

「聞かせてください!」


クロウは中央に立った。民衆が彼を囲む。期待に満ちた目が、彼を見つめている。


クロウは目を閉じた。


そして、語り始めた。




「光は闇を照らすというが――」


クロウの声が、広場に響いた。


「闇もまた、光を映す鏡」


民衆は静かに耳を傾けている。クロウは続けた。


「英雄は剣を振るうというが――」

「その刃は、誰を傷つける?」

「星は空に輝くというが――」

「地に落ちた星を、誰が拾う?」


クロウの詩は、抽象的だった。しかし、その意味は明確だ。


光――それは勇者たちだ。


闇――それは彼らが破壊したものだ。


英雄の剣――それは力だ。


誰を傷つける?――民を、だ。


地に落ちた星――それは犠牲者だ。


誰が拾う?――誰も、拾わない。


クロウは、詩という形で警告していた。


民衆よ、目を覚ませ。


勇者は、お前たちが思うような存在ではない。


しかし――。


詩が終わると、静寂が訪れた。


そして。


「深い...!」


一人の男が叫んだ。


「勇者様の叡智だ!」

「なんという深遠な教え!」


民衆が口々に言い始めた。クロウは、その反応を呆然と見ていた。


「光と闇の調和...これは神の教えだ」

「英雄の剣は魔王を傷つける、という意味ですね!」

「地に落ちた星――それは我ら民のこと。勇者様が拾ってくださる!」


違う。


クロウは心の中で叫んだ。


そうじゃない。


全く、逆だ。


しかし、民衆は勝手に解釈し、称賛している。クロウの警告は――全く届いていない。


いや、届いているが、曲解されている。


クロウは、群衆から離れた。


足早に広場を出ようとした時、一人の老人が彼の前に立った。


「勇者様」


老人は深く頭を下げた。


「貴方の詩、分かりますよ」


クロウは立ち止まった。


本当か?


この人は、理解しているのか?


「本当か?」


クロウは思わず尋ねた。老人は頷く。


「はい。勇者様は、深遠なる真理を語っておられる」


クロウの心に、小さな希望が灯った。


「我らは光であり、魔王は闇。しかし闇があるから光が輝く」


その言葉を聞いた瞬間、希望は消えた。


「英雄の剣は魔王を傷つけ、地に落ちた星――それは魔王のこと。勇者様が倒してくださる」


クロウは――何も言えなかった。


やはり、誰も理解していない。


民衆は、理解しない。


理解したくないのだ。


クロウは老人に礼を言い、その場を去った。




夕刻、クロウは勇者神殿を訪れていた。


中に入ると、広い空間が広がっている。天井は高く、ステンドグラスから色とりどりの光が差し込んでいた。


そして、中央には――。


像がある。


勇者たちの像だ。


ハル、レン、ミカ、そしてクロウ。四人の像が、荘厳に立っている。


クロウは、自分の像を見上げた。


石で作られた自分は、誇らしげに前を見据えている。まるで、英雄のように。


しかし、本物の自分は――。


「クロウ様」


声に振り向くと、王女フィリアが立っていた。彼女は純白のドレスを着ており、まるで聖女のようだ。


「...王女」

「先ほどの詩、素晴らしかったです」


フィリアは微笑んだ。


「噂で聞きました。深い叡智に満ちた、神の言葉だと」

「...ありがとう」


クロウは形式的に答えた。フィリアは像の前に立つ。


「貴方様は、四人の中で最も深い方」

「神の御心を、最も理解しておられる」


クロウは、その言葉を聞いて――言った。


「俺は...神じゃない」


フィリアは振り向いた。その目には、純粋な信仰の光がある。


「謙虚でいらっしゃる」


クロウは、王女を見つめた。


そして、尋ねた。


「王女、俺たちが本当に正しいと思うか?」


フィリアは微笑んだまま答えた。


「もちろんです。勇者様は全て正しい」

「でも、村が壊れて、人が死んで――」

「それは、神の試練です」


フィリアはきっぱりと言った。


「全ては、より良い未来のため」


クロウは、王女の目を見た。


そこには――理性がなかった。


信仰という名の盲目が、彼女の目を覆っている。


クロウは、何も言えなくなった。


「では、私は祈りの時間ですので」


フィリアは深く礼をし、祭壇に向かった。


クロウは、一人神殿に残された。


像を見上げる。


石で作られた自分は、何も語らない。


ただ、前を見据えているだけだ。


クロウは、神殿を出た。




深夜、クロウは王城の屋上に立っていた。


ここは誰も来ない場所だ。見張りもいない。ただ、夜空と――自分だけ。


城下町を見下ろす。


神殿が、松明に照らされて輝いている。その前では、今も人々が祈りを捧げているのが見えた。


クロウは、夜空を見上げた。


星が、無数に輝いている。


地球とは違う星座。見たこともない配置。


しかし――美しい。


クロウは、静かに呟いた。


「俺は、間違っているのか?」


夜風が吹く。


「それとも、世界が間違っているのか?」


答えは、返ってこない。


クロウは目を閉じた。


仲間は、気づかない。


ハルは、自分が何をしているのか理解していない。


レンは、破壊を楽しんでいる。


ミカは、何も気にしていない。


民は、理解しない。


クロウの詩は、誤解された。


警告は、称賛に変わった。


真実は、虚構に埋もれた。


王女は、盲目だ。


信仰という名の狂気が、彼女を支配している。


理性は、失われた。


ならば――俺は、何者だ?


クロウは目を開けた。


星が、変わらず輝いている。


「俺は...」


彼は呟いた。


「...何もできない」


その言葉と共に、クロウは座り込んだ。


石の床は冷たく、夜風は肌を刺す。しかし、クロウはそこに座り続けた。


詩人は、ただ見るだけだ。語るだけだ。そして――誰にも届かない。


それが、俺の役割なのか?クロウは膝を抱えた。仲間の中で、唯一気づいている。


しかし、唯一何もできない。それが――俺だ。風が、さらに強く吹いた。クロウの黒いマントが、風に揺れる。


彼は、夜空を見上げ続けた。星よ。お前たちは、何を見ている?この世界を。この狂気を。この――終わりゆく物語を。


クロウは、静かに詩を呟いた。誰も聞いていない詩を。誰にも届かない詩を。


「光は闇を照らすというが――」

「闇もまた、光を飲み込む」

「英雄は剣を振るうというが――」

「その刃は、いつか自らを傷つける」

「詩人は言葉を紡ぐというが――」

「その言葉は、風に消える」


クロウは立ち上がった。城下の神殿を見下ろす。


輝く光。祈る人々。そして――自分の像。


石で作られた英雄は、誇らしげに立っている。


しかし、本物は――。


「俺は...ただの道化だ」


クロウは呟いた。そして、屋上を後にした。


夜空には、星が輝き続けている。変わらず、美しく。しかし――。その光の下で。世界は、静かに壊れていった。


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