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召喚した勇者がクズでした。魔王を討伐して欲しいのに、勇者が魔王に見えてきた。助けて  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
第4部:静寂の終焉期

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第20話「静寂」

王都の通りには、人々の声が響いていた。


店が立ち並び、商人が商品を並べ、客が行き交う。子供たちが路地で遊び、老人たちがベンチで談笑している。


平和な光景だった。


しかし――この王都は、かつてよりずっと小さくなっていた。


パン屋「麦の穂」の前に、若い男が立っている。エリック・ブラウン。トーマスの孫で、この店の三代目だ。


店を開く準備をしながら、エリックは通りを見渡した。祖父の代から続くこの店。父から受け継ぎ、今は自分が営んでいる。


「おはよう、エリック」


隣の店の主人が声をかけてきた。エリックは頷く。


「おはようございます」


いつもの朝。いつもの挨拶。


しかし――エリックの視線は、遠くの空き地に向かっていた。


広い空き地。何もない場所。誰も近づかず、誰も利用しない。


「昔、ここに大きな神殿があったって本当?」


昨日、客に聞かれた。エリックは、首を振った。


「さあ、知らないな」


嘘ではない。本当に知らないのだ。


祖父トーマスは、数年前に亡くなった。最期まで、あの空き地のことは何も語らなかった。ただ――時々、寂しそうに見つめていた。


「ここに、何があったんだろう」


エリックは呟いた。しかし、答えは返ってこない。


店を開け、仕事を始める。パンを焼き、客を迎える。


いつもの一日が、始まった。


王城の執務室では、フィリア女王が書類に目を通していた。


年老いたが、まだ現役の女王だ。白髪が増え、顔に皺が刻まれている。しかし――その目は、鋭く冷静だった。


側近が入ってくる。


「女王陛下、魔王領との交易報告です」


「聞きましょう」


フィリアは、書類から目を上げた。


「順調です。特に、農作物と鉱物の交易が活発になっています」


「良いわ」


フィリアは頷いた。


「また、国境地帯での共同事業も進んでいます」


「進めなさい」


簡潔な指示。側近は頭を下げて、部屋を出ていった。


一人になったフィリアは、椅子に深く座った。


窓の外を見る。小さくなった王国。しかし――平和だ。人々は笑い、子供たちは遊んでいる。


「これで、良かったのかしら」


呟きが、静かな部屋に響いた。


答えは――出ない。


フィリアは、机の引き出しを開けた。中には、古い写真が一枚だけ入っている。


若い頃のフィリアと――誰かの姿。


しかし、その人物の顔は――ぼやけている。記憶が、薄れているのだ。


「...誰だったかしら」


フィリアは首を傾げた。大切な人だった気がする。しかし――思い出せない。


写真を戻し、引き出しを閉める。


もう――過去を振り返る必要はない。


前を向いて、国を治める。それが、自分の役目だ。


国境地帯、廃教会。


蔦に覆われた古い建物の前に、一人の男が立っていた。


魔王ゼファル。


相変わらず若い姿をしているが、その目には深い疲れがあった。数百年を生きる魔族にとって、数十年は短い。しかし――重い数十年だった。


教会の前には、石碑が立っている。文字は刻まれていない。ただ――無言の警告として。


ゼファルは、石碑に手を置いた。


「レオニス...もう五十年か」


風が吹く。


「お前との約束、守られている」


空を見上げる。青い空、白い雲。


「この世界に、神は招かれていない」


それは――確かだった。人間も魔族も、二度と異界から何かを招こうとはしなかった。


「しかし――忘れることが、正しかったのか」


ゼファルは、石碑を見つめた。


「分からない」


答えのない問いだ。


「だが、世界は平和だ」


それは――事実だった。人間と魔族の関係は改善され、戦争は起きていない。


「それだけで――十分なのかもしれない」


ゼファルは、石碑に背を向けた。馬に乗り、去っていく。


廃教会に、再び静寂が戻った。


風だけが、吹き続けている。


遠い砂漠。


灼熱の太陽が、砂を照らしている。見渡す限りの砂漠。何もない、静かな世界。


一人の商人が、ラクダを引いて歩いていた。


「暑い...もう少しで町だ」


汗を拭いながら、歩き続ける。


その時、足元で何かが光った。


「ん?」


商人は立ち止まり、しゃがんだ。砂を手で払うと――何か、人工物が見える。


掘り出すと、奇妙な物体だった。


黒い板のような物。表面はガラス、裏は金属。そして――割れている。


「何だこれ?」


商人は、それを手に取った。見たことのない物だ。この世界には、こんな物はない。


触ってみるが、何も起きない。ボタンのようなものを押してみる。


しかし――反応なし。


「壊れてるのか」


商人は、それを砂の上に置いた。


「使えないな。ガラクタか」


立ち上がり、歩き始める。振り返ることなく、町へと向かった。


風が吹く。


砂が舞い、徐々にその物体を覆い始める。


それは――スマホだった。


ミカのスマホ。


画面は割れ、電源は入らない。もう――誰も、その意味を知らない。


やがて、完全に砂に埋もれた。


夕日が、砂漠を赤く染める。


かつて、ここで戦いがあった。


光が爆発し、大地が揺れた。


しかし――誰も覚えていない。


異世界の人々は、語ることを禁じられた。


現代の人々は、記憶を失った。


残ったのは――この遺物だけ。


誰も意味を知らない。誰も価値を理解しない。


ただ――存在している。


砂の下で、静かに。


もうひとつの、終わった世界。


語られることのない、真実。


風が吹く。


砂が舞う。


全てを覆い隠していく。


現代日本、大学のキャンパス。


神谷蓮――ハルは、学食でスマホを見ていた。大学生になって二年。普通の学生生活を送っている。


ニュースアプリを開くと、記事が目に入った。


「異世界転生ブームが再燃」


「へー」


ハルは、記事を読んだ。アニメ、漫画、小説――異世界転生ものが、また流行しているらしい。


「何見てんの?」


友達が隣に座った。ハルはスマホを見せる。


「異世界転生だって」


「また流行ってんの?お前、好き?」


「まあまあ」


ハルは笑った。


「俺も行ってみたいな」


友達も笑う。


「お前、何の能力欲しい?」


「うーん、最強魔法とか?」


「ベタだなー」


二人は笑い合った。


ハル――全てを忘れている。


異世界に行ったことも。


村を壊したことも。


人を傷つけたことも。


全て。


別の場所では、桐生拓斗――レンが空手の試合に勝利していた。


「よっし!」


仲間たちと抱き合い、喜ぶ。体育大学に進学し、空手を続けている。充実した日々だ。


時々――理由のない罪悪感を感じる。


しかし、気にしない。きっと、気のせいだ。


美容専門学校では、水野美香――ミカが自撮りをしていた。


「はい、チーズ」


撮影して、SNSに投稿する。すぐに「いいね」がつき始めた。


「やった」


ミカは笑う。幸せそうに。


時々――虚無感を感じる。


何かが足りない気がする。


しかし――それが何かは、分からない。


そして――長井クロウは。


戻らなかった。


行方不明のまま、数年が経った。捜索は打ち切られ、家族は諦めた。


ハル、レン、ミカも――もう、覚えていない。


クロウの存在そのものが、消えた。


では――クロウはどこへ?


答えは、誰も知らない。


異世界に残ったのか。還送の途中で消えたのか。それとも――。


謎のまま。


ただ――一つだけ確かなのは、クロウの日誌が異世界の記録庫に残されていること。


誰も読まない。


しかし――存在している。


唯一の真実として。


夕暮れ。


異世界の王都では、人々が家路についていた。


エリックが店を閉める。今日も、平和な一日だった。


フィリアが執務室で窓の外を見る。夕日が、王都を赤く染めている。


空き地に、風が吹く。


誰もいない、静かな場所。


現代日本でも、夕暮れだった。


ハルが大学から帰る道を歩いている。オレンジ色の空。


レンが道場を出る。疲れたが、充実した顔。


ミカがカフェでスマホを見ている。笑顔で、画面をスクロール。


公園に、風が吹く。


誰もいない、静かな場所。


砂漠では、夕日が地平線に沈もうとしていた。


スマホが埋まっている場所。


風が、砂を舞い上げる。


二つの世界。


一方は、破壊の記憶を封印した。


一方は、破壊したことすら覚えていない。


どちらが幸せなのか――。


誰にも分からない。


ただ――。


風だけが、全てを知っている。


二つの世界を見てきた風。


破壊を見て、再生を見て、忘却を見た風。


その風は今も、静かに吹いている。


砂漠を。


王都を。


街を。


全てを吹き抜けて。


誰にも語らず。


ただ――吹き続けている。


静寂の中で。


永遠に。


――完――


『召喚した勇者がクズでした。魔王を討伐して欲しいのに、勇者が魔王に見えてきた。助けて』


完結


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Youtubeにて作品公開中!

http://www.youtube.com/@mizukara-h2z

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