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召喚した勇者がクズでした。魔王を討伐して欲しいのに、勇者が魔王に見えてきた。助けて  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
第4部:静寂の終焉期

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第18話「世界の終わり」

朝日が、廃墟の王都を照らしていた。


パン屋「麦の穂」の前に、トーマス・ブラウンが立っている。店は半壊したままだが、まだ立っている。それだけで――十分だった。


息子が店の中から出てきた。若いトマスも、疲れ切った表情をしている。昨夜はほとんど眠れなかった。


「父さん」


「ああ」


二人は、通りを見渡した。


瓦礫が散乱している。崩れた建物、焼け焦げた跡、割れた石畳。しかし――人々が、動き始めていた。


隣の店から、商人マルクが出てくる。彼も無事だった。店は大きく損傷しているが、命があれば何とかなる。


通りには、他の生存者たちも姿を現し始めている。皆、呆然としている。昨夜の出来事が、夢だったのか現実だったのか。


しかし――瓦礫が、全てを物語っていた。


トーマスは深く息を吸った。


「...始めよう」


息子が振り向く。


「何を?」


「片付けだ」


トーマスは店に戻り、残った道具を取り出した。シャベル、箒、バケツ。破損しているものもあるが、使える。


瓦礫を片付け始める。一つ一つ、丁寧に。


息子も手伝い始めた。マルクも、自分の店の前で同じことをしている。


やがて――他の人々も、動き始めた。


誰かが声をかける必要はなかった。皆、分かっている。生きるためには、動かなければならない。


瓦礫を運ぶ音。箒で掃く音。人々の小さな会話。


静かだが――確実に、復興が始まっていた。


トーマスは時々手を止めて、遠くを見た。神殿の跡が見える。完全に崩壊し、瓦礫の山になっている。


勇者の像は粉々で、その破片が地面に散らばっていた。誰も――それを片付けようとしない。


もう、必要ないものだから。


王城の執務室は、半壊していた。


壁に大きなひびが入り、天井の一部が崩れている。しかし、まだ使える。机と椅子は残っており、書類を広げることはできた。


レオニス王とヴァルクが、地図を見ている。


王国全体の地図。そこに、被害状況が書き込まれていた。赤い印が、破壊された場所を示している。


「王都の三割が壊滅しています」


ヴァルクが報告した。その声は、疲労で掠れている。


「死者は...約五百名」


レオニスは、黙って聞いていた。


「負傷者は千名を超えます」


五百名――それは、この国の人口の数パーセントに相当する。決して小さくない数字だ。


「食料は?」


レオニスが尋ねた。


「備蓄がありますが、一ヶ月分です」


「それ以降は...」


「近隣の町から調達する」


レオニスは立ち上がり、窓辺に向かった。城下を見下ろすと、人々が瓦礫を片付けている姿が見える。


「国庫は?」


その問いに、ヴァルクは答えるのを躊躇した。


「...ほぼ空です」


レオニスは目を閉じた。予想していたことだが、改めて聞くと重い。


「では、復興資金は――」


「民衆からの寄付と、労働力に頼るしかありません」


長い沈黙が流れた。


レオニスは窓の外を見続けている。小さな人影が、懸命に働いている。あの人々が――この国を支えているのだ。


「エドワードは?」


「重傷ですが、回復しています」


ヴァルクが答えた。


「ベルナール団長も、意識を取り戻しました」


「そうか...」


レオニスの表情が、わずかに和らいだ。二人とも――生きている。


「フィリアは?」


その問いに、ヴァルクは表情を曇らせた。


「...部屋に閉じこもったままです」


レオニスは何も言わなかった。ただ、深いため息をついた。


「時間が必要だろう」


「はい」


ヴァルクも頷く。フィリアは――全てを失ったのだ。信じていたもの、崇拝していたもの。それが、幻想だったと知った。


レオニスは、窓から離れて机に戻った。


「ヴァルク、一つ命令がある」


「何でしょうか」


「勇者に関する全ての記録を封印しろ」


その言葉に、ヴァルクは驚いて顔を上げた。


「封印...ですか?」


「ああ」


レオニスは、まっすぐにヴァルクを見た。


「歴史書から消し、文書を焼却し、語ることを禁じる」


「二度と――同じ過ちを繰り返さぬために」


ヴァルクは、その意味を理解した。忘れることで――再発を防ぐ。


「承知しました」


深く頭を下げる。


魔王領、ザラクの村。


いや――村があった場所、と言うべきだろう。


そこは、完全な廃墟だった。建物は全て崩壊し、瓦礫の山になっている。勇者たちに破壊され、さらに戦闘で被害を受けた。


もう――再建は不可能だった。


魔王ゼファルが、馬を降りてその場に立っている。


瓦礫の前に、老いた魔族が座り込んでいた。ザラクだった。かつて、この村の村長だった男。


「ザラク」


ゼファルが声をかけた。ザラクは、ゆっくりと顔を上げる。


「陛下...」


その声は、力がなかった。


「村は、もう...」


「分かっている」


ゼファルは、ザラクの隣に座った。二人で、廃墟を見つめる。


「他の村に移住させる。準備は整っている」


「...ありがとうございます」


ザラクは頷いた。しかし、その目には――何も映っていないようだった。


「勇者は?」


ザラクが尋ねた。ゼファルは、空を見上げる。


「もういない」


「異界へ還した」


「そうですか...」


ザラクは、わずかに頷いた。それ以上、何も聞かなかった。


側近が、馬で駆けつけてきた。


「陛下、他の被害状況の報告です」


ゼファルは立ち上がり、報告を聞く。


「三つの村が壊滅、二つの町が半壊しています」


「死者は...百名を超えます」


ゼファルは、拳を握りしめた。百名――魔族は人間より少ない。百名という数字は、人間の五百名に匹敵する重さがある。


「復興を最優先にする」


ゼファルは命じた。


「そして――」


側近を見る。


「勇者に関する全ての記録を消す」


「しかし...」


側近が躊躇する。ゼファルは、その言葉を遮った。


「命令だ」


その声には、絶対的な意志があった。


「二度と、この名を口にすることを許さない」


側近は、深く頭を下げた。


ザラクが、小さく呟いた。


「忘れる...ことができれば」


その言葉を、ゼファルは聞いていた。しかし――何も言わなかった。


一週間後、王都の広場には民衆が集まっていた。


瓦礫は大部分が片付けられ、広場として機能できるようになっている。簡素な演台が設けられ、そこにレオニス王が立っていた。


王冠を被り、王衣を纏っている。しかし――その姿には、疲労が色濃く現れていた。


トーマスは、息子と共に群衆の中にいた。周囲には、他の市民たちも集まっている。皆、静かだった。


レオニスが口を開いた。


「民よ」


その声は、静かだが力強い。広場全体に響き渡った。


「我々は、生き延びた」


民衆は、黙って聞いている。


「多くの命が失われた」


レオニスは、一人一人を見渡すように視線を動かした。


「多くのものを失った」


「しかし――我々は、ここにいる」


トーマスは、その言葉を噛みしめていた。生きている。それだけで――意味がある。


「そして、今日」


レオニスの声が、わずかに震えた。


「一つの時代が終わる」


民衆がざわめく。何が起きるのか――予感していた。


「勇者信仰を、禁じる」


静寂。


完全な静寂が、広場を満たした。


「二度と、異界から何かを招かない」


レオニスは、演台に両手をついた。


「勇者の名を語ることを、禁じる」


「これは命令だ」


民衆は――反発しなかった。


誰も、異論を唱えない。もう――誰も、勇者を崇拝していない。恐怖と、喪失だけが残っている。


トーマスは、心の中で呟いた。


これで...終わったのか。


「我々は、前を向く」


レオニスの声が、再び響く。


「新しい時代を、築く」


民衆は、静かに頷いた。


誰も歓声を上げない。拍手もない。


ただ――受け入れた。


時代が――終わったことを。


二週間後、王城の記録庫。


ヴァルクは、山積みになった書類と向き合っていた。勇者に関する全ての文書。報告書、記録、手紙――全てが、ここに集められている。


焼却する準備が整っている。庫の外では、大きな火が焚かれていた。


ヴァルクは、一つ一つ書類を確認しながら、火に投げ入れていく。


燃える紙。煙が上がる。


記録が――消えていく。


その時、棚の奥で一冊の日誌を見つけた。


革装丁の、小さな日誌。表紙に、名前が書かれている。


「クロウ」


ヴァルクは、それを手に取った。ページを開く。


丁寧な文字で、びっしりと書かれていた。


最初のページには、こう記されている。


「これは、俺たちの記録だ」


「俺たちが何をしたのか」


「どれだけの人を傷つけたのか」


ヴァルクは、ページをめくっていった。


フェルナンドの村での惨劇。城壁の崩壊。街の破壊。民衆の死。


全てが――詳細に記録されている。


クロウの視点で、冷静に、しかし苦しみながら書かれた記録。


ヴァルクの手が、震え始めた。


そして――最後のページに辿り着く。


「俺たちは、間違っていた」


「この世界を、壊してしまった」


「俺には、止める力がなかった」


「これを読む者よ、二度と同じ過ちを繰り返すな」


ヴァルクは、日誌を閉じた。


涙が、頬を伝う。


「クロウ...お前だけは」


日誌を胸に抱く。これは――燃やせない。


唯一の真実の記録。唯一の、理性の声。


ヴァルクは決めた。この日誌だけは、密かに保管する。


記録庫の最奥、誰も近づかない場所に。


いつか――誰かが見つけるかもしれない。


そして、学ぶかもしれない。


数ヶ月後。


王都の復興は、着実に進んでいた。建物が再建され、通りが整備される。しかし――規模は、以前の半分だった。


トーマスの店も再建された。小さいが、営業できる。パンを焼き、客に売る。日常が――戻ってきた。


神殿の跡は、空き地になった。誰も、そこに何かを建てようとしない。触れてはいけない場所として、人々は避けて通る。


一年後。


王国は、ゆっくりと安定を取り戻していった。


フィリアが政務に復帰した。冷静で有能な女王となったが――笑うことは、ほとんどなくなった。


「勇者」という言葉は、もう誰も口にしない。それは禁忌となった。


五年後。


新しい世代が育ち始めていた。戦災を知らない子供たち。彼らは、勇者のことを知らない。


親たちも、語らないから。


トーマスの息子が結婚し、子供が生まれた。トーマスは、祖父になった。


小さな孫を抱きながら、トーマスは思う。


この子は――あの恐怖を知らずに育つ。


それで、良いのだ。


十年後。


勇者のことは、完全に忘れられた。


語ることが禁じられているため、記憶も薄れていく。若い世代は、何も知らない。老人たちは、黙っている。


魔王領でも同じだった。


ザラクは新しい村で、静かに暮らしている。孫たちに囲まれて、穏やかな日々。


もう――あの日のことは、語らない。


数十年後。


レオニス王は、高齢になっていた。


玉座に座ることも少なくなり、多くの時間を執務室で過ごしている。政務の大部分は、女王フィリアに任せていた。


ヴァルクも、老人になった。白髪が増え、背中が丸まっている。しかし――まだ宰相として、王に仕えていた。


ある日の夕暮れ、トーマスは孫と共に店を閉めていた。


孫は十歳になり、店を手伝うようになっていた。利発な子で、よく質問をする。


帰り道、孫が尋ねた。


「おじいちゃん、昔この国に何があったの?」


トーマスは、立ち止まった。


「神殿の跡地、ずっと空いてるよね。なんで誰も使わないの?」


トーマスは、孫を見下ろした。無邪気な顔。何も知らない、清らかな目。


「...語ってはいけないことがある」


「なんで?」


孫が首を傾げる。トーマスは、空を見上げた。


「忘れることも、必要なんだ」


「よく分かんない」


孫は笑った。トーマスも、わずかに微笑む。


「分からなくて良い」


二人は、家へと歩いていった。


王城の執務室では、フィリア女王が書類に目を通していた。


中年になったフィリアは、有能な統治者として知られている。しかし――表情に温かみはない。冷静で、理性的で、そして――どこか遠い。


ヴァルクが入ってきた。


「女王陛下、国境地帯の報告です」


「聞きましょう」


フィリアは、書類から目を上げた。


「人間と魔族の交易が、増加しています」


「良いことね」


フィリアは、わずかに微笑んだ――珍しいことだった。


「...あの時のことが、無駄ではなかったのかもしれません」


ヴァルクが呟いた。フィリアは、窓の外を見る。


「そう思いたいわ」


二人は、しばらく窓の外を見つめていた。


王都は、小さいながらも平和だった。人々が行き交い、子供たちが笑っている。


かつての傷跡は――もう、見えない。


国境地帯、廃教会。


かつてレオニスとゼファルが会談した場所に、魔王ゼファルが立っていた。


相変わらず若い姿だが、目には深い疲れがある。


教会の前には、石碑が立てられている。文字は刻まれていない。ただ――無言の警告として。


ゼファルは、石碑に触れた。


「レオニス...お前は逝ったか」


風が吹く。


「しかし、約束は守られている」


「この地に、再び神は招かれていない」


ゼファルは振り向き、馬に乗った。


廃教会に、静寂が戻る。


数十年が過ぎた。


勇者の名は、もう誰も口にしない。記録は封印され、記憶は薄れた。


しかし――一つだけ。


真実は残されている。


王城の記録庫の最奥、誰も近づかない場所に、一冊の日誌が静かに眠っている。


クロウの日誌。


埃をかぶり、誰にも読まれることなく。


しかし――確かに存在している。


いつか――誰かが見つけるかもしれない。


そして、学ぶかもしれない。


世界は、静かになった。


忘れることで――平和を取り戻した。


それが正しかったのかは、誰にも分からない。


ただ――。


風だけが、全てを知っている。


二つの世界を見てきた風。


破壊を見て、再生を見て、そして忘却を見た風。


その風は今も、静かに吹いている。


誰にも語らず。


ただ――吹き続けている。


読んで下さりありがとうございました!

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