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召喚した勇者がクズでした。魔王を討伐して欲しいのに、勇者が魔王に見えてきた。助けて  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
第3部:駆除の決断期

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第17話「異界還送陣、発動」

地下神殿に、低い詠唱の声が響いていた。


魔法陣の周囲に、魔道士と魔術師たちが円陣を組んでいる。人間と魔族が交互に配置され、手を繋いでいた。かつてない光景だった。


中央には、レオニス王と魔王ゼファルが立っている。二人も手を繋ぎ、魔法陣の中心で目を閉じていた。


魔道士長エドガーが、最前列で詠唱を始める。


古代語の言葉が、空気を震わせた。それは人間の言葉でも、魔族の言葉でもない。この世界が生まれた時から存在する、根源の言葉だ。


魔道士たちが唱和する。魔術師たちも、同じ言葉を紡ぐ。


低く、重く、しかし美しい調べ。


魔法陣が、淡く光り始めた。


宰相ヴァルクは、階段の近くで見守っている。両手を組み、祈るように詠唱を聞いていた。


上からは、まだ戦闘の音が聞こえる。轟音、叫び声、崩れる石の音。エドワードたちが――命を懸けて、時間を稼いでいる。


頼む...成功してくれ。


ヴァルクは心の中で祈った。この儀式に、全てが賭けられている。失敗すれば――世界が壊れる。


詠唱が続く。


魔法陣の光が、徐々に強くなっていく。複雑な文様が、一つ一つ明るさを増していった。


地面が、微かに震え始める。


城の広場では、副団長エドワードが剣を構えていた。


周囲には、まだ立っている騎士たちと魔族の兵士たち。しかし、その数は最初の半分以下になっていた。多くの仲間が倒れ、動けなくなっている。


勇者たちは、広場の中央に立っていた。


ハル、レン、ミカ。三人とも、傷一つない。


「しつこいなあ」


ハルが手のひらに光を集める。その動作は、まるで遊んでいるかのように軽い。


「全員散開!」


エドワードが叫んだ。騎士たちが四方に散る。


ハルの魔法が放たれた。


光の矢が、広場の一角を貫く。石畳が砕け、爆発のような音が響いた。騎士の一人が巻き込まれ、吹き飛ばされる。


「つまんねえな」


レンが欠伸をしながら言った。


「もっと強い奴いないの?」


レンが地面を蹴る。一瞬で魔族の兵士の前に現れ、拳を振るった。


兵士が吹き飛び、壁に激突する。


ミカは遠くから見ていた。


「早く終わらせてよ」


退屈そうに髪をいじっている。


エドワードは、剣を握りしめた。体中が痛い。既に何度も攻撃を受け、鎧は破れている。しかし――。


もう少し...持ちこたえろ。


剣を構え直す。


陛下...必ず、成功させてください。


広場の隅には、クロウが倒れていた。


肋骨の痛みで、呼吸するのも辛い。しかし、意識はある。


クロウは、三人の後ろ姿を見ていた。


頼む...止まってくれ。


しかし、その祈りは届かない。三人は――最後まで、理解しないのだろう。


地下神殿では、詠唱が最高潮に達していた。


魔道士たちの声が重なり合い、一つの大きな波となって空間を満たす。


魔法陣が激しく光り始めた。


地面が大きく震える。石壁がひび割れ、埃が降ってくる。


「これは...」


レオニスが目を開けた。魔法陣の光が、眩しいほどだ。


「発動する」


ゼファルが答えた。その声には、確信があった。


魔法陣から、光の柱が立ち上った。


それは真っ直ぐに天井を突き破り、岩盤を貫通する。地下神殿を超え、城を超え、そして――空へと伸びていく。


魔道士たちの体から、魔力が吸い出されていく。目に見えない力が、渦を巻いて魔法陣へと流れ込んでいた。


何人かが膝をつく。しかし、詠唱は止めない。


「耐えろ!あと少しだ!」


エドガーが叫んだ。その顔は、疲労で蒼白になっている。


魔術師たちも同じだった。額に汗を浮かべ、歯を食いしばって詠唱を続ける。


ヴァルクは、その光景を見守っていた。


人間と魔族が――共に力を合わせている。


かつて、誰が想像しただろうか。


光の柱が、空に達した。


そして――。


王都全体を覆うように、巨大な魔法陣が空に浮かび上がった。


幾何学的な文様、古代文字、複雑に絡み合う線。それは美しく、神秘的で、そして――恐ろしかった。


広場で戦っていたハルが、空を見上げた。


「...なに、あれ」


巨大な魔法陣が、夜空を覆っている。まるで、世界そのものが魔法陣になったかのようだ。


レンとミカも気づく。


「何だ?」


レンが首を傾げた。その時――。


ハルの体が、微かに光り始めた。


「え...?」


自分の手を見る。光の粒子が、体から離れていく。まるで、体が少しずつ消えていくかのように。


「やばい...何これ」


ミカも同じ現象が起きていた。彼女の体からも、光の粒子が流れ出している。


レンは膝をついた。


「体が...重い」


力が――抜けていく。


エドワードは、その光景を見ていた。


効いている...


希望が、心に灯る。


クロウは、立ち上がろうとした。痛みに顔を歪めながら、壁に手をついて体を支える。


...やはり、こうなるのか。


ハルは、自分の体を見つめていた。


光の粒子が、次々と離れていく。そして――体が、引っ張られている。


どこか遠くへ。


「なに、これ...体が...」


魔法を使おうとした。しかし、力が入らない。魔力が――流れ出ている。


ミカは、足が地面から離れるのを感じた。


「やばい、マジやばい」


浮いている。地面から、ゆっくりと離れていく。


「引っ張られてる!」


レンは必死に地面を掴もうとした。


「ふざけんな!」


しかし――体が浮いていく。どれだけ抵抗しても、止められない。


力が、抜けていく。あれほど強かった力が、水のように流れ出ていく。


クロウは、三人を見つめていた。


自分も同じ現象が起きている。体が光り、浮き始めている。


しかし――クロウは抵抗しなかった。


「...すまなかった」


小さく呟く。


誰に言っているのか、自分でも分からない。


この世界の人々にか。


それとも――仲間たちにか。


四人が、宙に浮いていた。


体が光に包まれ始める。その光は徐々に強くなり、輪郭が曖昧になっていく。


ハルは――理解できなかった。


なぜ、こんなことになっているのか。


自分たちは、何も悪いことをしていない。


助けてきただけなのに。


「なんで!?」


ハルは叫んだ。


「俺たち正義なのに!」


必死に抵抗する。手を伸ばし、何かを掴もうとする。しかし、何も掴めない。


「助けてあげたのに!」


「村の人も!街の人も!」


その叫びが、王都に響き渡った。


エドワードは、その叫びを聞いていた。


正義...


エドワードの心の中で、その言葉が反響する。


お前たちは、最後まで理解しなかった。


自分たちが何をしてきたのか。


どれだけの人を傷つけてきたのか。


兵士たちも、その光景を見ている。勇者たちが――消えようとしている。


「やめろ!」


レンが叫ぶ。


「帰りたくない!まだ...」


ミカも必死に抵抗していた。しかし、その体は既に半分透明になっている。


クロウだけが、静かに目を閉じていた。


光が、爆発的に強くなった。


四人の姿が、完全に光に包まれる。もう、人の形すら見えない。ただ――光の塊だけがあった。


そして――。


光が消えた。


広場に――誰もいなかった。


勇者たちは――消えていた。


完全な静寂。


風の音だけが、聞こえる。


エドワードは、剣を地面に突き立てた。


「...終わった」


その言葉が、静かに響く。


騎士たちも、魔族の兵士たちも、呆然としていた。誰も、声を出さない。


ただ――立ち尽くしている。


空を見上げると、巨大な魔法陣も消えていた。


美しい星空が広がっている。月が、静かに輝いていた。


しかし――その下で。


王都は廃墟と化していた。崩れた建物、焼け焦げた跡、散乱する瓦礫。


勝利の実感は――なかった。


ただ――虚無だけがあった。


地下神殿では、魔法陣の光が消えていた。


魔道士たちと魔術師たちが、次々と倒れ込む。魔力を使い果たし、立っていることもできない。


何人かは意識を失っている。


エドガーは、最後まで立っていた。しかし――その足が震えている。


「成功...しました...」


そう言って、床に崩れ落ちた。


「師匠!」


ヴァルクが駆け寄る。エドガーの呼吸を確認すると、生きている。ただ、疲労で意識を失っただけだ。


ゼファルも、膝をついていた。額に汗を浮かべ、肩で息をしている。


「ゼファル...」


レオニスが声をかけた。ゼファルは、ゆっくりと顔を上げる。


「...大丈夫だ」


立ち上がる。その足取りは、どこか頼りない。


「確認を」


ヴァルクが階段を駆け上がった。地下神殿を出て、城の廊下を走る。


広場に出ると――。


エドワードが、剣を杖代わりにして立っていた。


「エドワード」


ヴァルクが駆け寄る。


「勇者は...」


エドワードは、ヴァルクを見た。その目には――疲労と、安堵があった。


「消えました」


その言葉を聞いて、ヴァルクは膝をついた。


「...成功した」


長い戦いが――終わった。


レオニスも地上に出てきた。ゼファルが後に続く。


広場を見渡す。


勇者たちは――いない。


騎士たちと魔族の兵士たちが、疲れ果てて座り込んでいる。多くの仲間が倒れ、動かなくなっていた。


レオニスは、その光景を見つめた。


「...代償は、あまりにも大きかった」


その言葉が、静かに響く。


ゼファルは何も言わず、ただ頷いた。


夜が明け始めていた。


謁見の間は半壊している。壁が崩れ、天井に大きな穴が開いていた。玉座も、一部が崩れかけている。


しかし、レオニスはそこに座った。


背筋を伸ばし、王冠を被る。王として――最後まで。


ゼファルが入ってきた。


二人、向き合う。


「これで、世界は救われた」


ゼファルが言った。レオニスは、窓の外を見る。


「しかし、我が国は...」


王都が見える。建物の多くが崩壊し、炎の跡が残っている。煙が、まだ空に立ち上っていた。


「私の領土も、同じだ」


ゼファルは、レオニスの隣に立った。


「勇者たちは、我々双方を破壊した」


「それでも...」


レオニスは立ち上がった。


「世界は、残った」


ゼファルは頷く。


「ああ」


二人は、しばらく沈黙した。


やがて、ゼファルが口を開く。


「レオニス」


「何だ」


「再び、神を招くな」


その言葉が、重く響いた。


レオニスは、ゼファルを見る。魔王の目には――深い憂慮があった。


「...ああ」


レオニスは頷いた。


「二度と、召喚などしない」


「約束する」


ゼファルは、わずかに微笑んだ。


「では、私は帰る」


玉座の前から離れる。


「領土の復興が待っている」


「そうか」


レオニスも玉座から降りた。ゼファルの前に立つ。


二人は――最後に握手した。


「世界を守れて、良かった」


ゼファルが言った。レオニスは頷く。


「ああ」


ゼファルが謁見の間を出ていく。その後ろ姿を、レオニスは見送った。


やがて、足音が消える。


レオニスは一人、玉座に座り直した。


城下町では、夜が明け始めていた。


パン屋「麦の穂」の前に、トーマスが立っている。店は半壊しているが、まだ立っている。


息子は店の中で眠っていた。疲れ果てて、ようやく眠りについたのだ。


通りには、他の生存者たちも出てきていた。


皆、呆然としている。自分の店を見つめ、何も言わない。


隣の商人マルクが、トーマスに近づいてきた。


「...終わったのか?」


トーマスは空を見上げた。星が消え、空が白み始めている。


「分からない」


「でも、静かだ」


城からは、もう光も音もない。


ただ――静寂があるだけだ。


民衆の一人が呟いた。


「勇者様は...」


誰も答えない。


神殿を見ると、それは崩れていた。屋根が落ち、壁が崩壊している。そして――勇者の像は、粉々になって地面に散らばっていた。


「もう、いない」


トーマスが答えた。


その言葉が、静かに広がっていく。


勇者は――もういない。


謁見の間に、足音が響いた。


レオニスは顔を上げる。


扉が開き、フィリアが入ってきた。


彼女も疲れ果てている。ドレスは汚れ、髪は乱れていた。目は泣き腫らしている。


「父上...」


「フィリア」


二人、向き合う。


長い沈黙が流れた。


フィリアは、震える声で尋ねる。


「勇者様は...」


レオニスは、娘の目を見た。


「...帰った」


フィリアは、涙を流した。しかし――何も言わない。


ただ、静かに泣いている。


レオニスは立ち上がり、娘に近づいた。


「すまなかった」


手を伸ばそうとする。しかし――フィリアは首を振った。


そして――静かに去っていく。


扉が閉まる。


レオニスは再び一人になった。


窓の外では、朝日が昇り始めていた。


オレンジ色の光が、廃墟の王都を照らしている。


しかしそれは――希望の光ではなかった。


破壊の後の、虚無の光だ。


我々は、勝ったのか?


レオニスは、心の中で問いかけた。


それとも...全てを失ったのか?


扉が開き、ヴァルクが入ってきた。


「陛下...復興の計画を」


レオニスは振り向いた。


「...ああ」


玉座から立ち上がる。窓辺に向かい、外を見た。


城下では、民衆が動き始めていた。瓦礫を片付ける者、負傷者を助ける者、倒れた建物を見つめる者。


生き残った人々が――再び歩き始めている。


「終わった」


レオニスは呟いた。


「勇者信仰の時代が」


「はい」


ヴァルクが傍らに立った。


「そして――新しい時代が始まります」


二人は、窓の外を見つめた。


朝日が、廃墟の王都を照らしている。崩れた建物、燃えた跡、散乱する瓦礫。しかし――その中で、人々が動いている。


「これから、長い復興の道が始まる」


レオニスが言った。


「ああ」


ヴァルクは頷く。


「しかし、我々は生き延びました」


「世界は、残りました」


レオニスは、わずかに微笑んだ。


「そうだな」


二人は、しばらく沈黙の中に立っていた。


朝日が昇り、新しい一日が始まろうとしている。


勇者のいない、新しい時代が。


――勇者たちは、異界へと還された。


王国は生き延びた。


しかし――代償は大きかった。


そして、誰も知らない。


還された勇者たちが――どこへ行ったのかを。

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