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召喚した勇者がクズでした。魔王を討伐して欲しいのに、勇者が魔王に見えてきた。助けて  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
第3部:駆除の決断期

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第15話「裏切りの前夜」

王城の最深部、かつての神殿跡には薄暗い光が揺れていた。


蝋燭だけが光源のこの空間は、普段は誰も立ち入ることのない場所だ。しかし今夜は違う。数十名の魔道士たちが集まり、床に巨大な魔法陣を描いている。


複雑な文様が、白い粉で床に刻まれていく。古代文字、幾何学的な図形、魔力の結節点を示す印。全てが精密に、しかし急いで描かれていた。


「この線は、もっと正確に」


魔道士長エドガーが、若い魔道士に指示を出している。白髪の老人だが、その目には鋭い知性が宿っていた。


「はい、師匠」


若い魔道士が慎重に線を引き直す。少しでもずれれば、儀式は失敗する。そして失敗は――世界の崩壊を意味する。


宰相ヴァルクが、階段を降りてきた。地下神殿の入口から、慎重に足を進める。


「宰相閣下」


エドガーが頭を下げた。ヴァルクは魔法陣を見渡す。


「進捗は?」


「順調です。しかし――」


エドガーは言葉を濁した。ヴァルクは理解する。


「一週間では足りない、と言いたいのか」


「...はい」


エドガーは正直に答えた。


「この儀式は、本来なら一ヶ月の準備が必要です」


ヴァルクは深くため息をついた。分かっている。しかし、時間がない。


地下神殿の奥には、反勇者派のメンバーも集まっていた。騎士団長ベルナール、貴族たち、信頼できる騎士たち。全員が緊張した面持ちで、準備の様子を見守っている。


ベルナールがヴァルクに近づいてきた。


「宰相閣下、兵士たちの配置は完了しています」


「ご苦労」


ヴァルクは頷いた。


「しかし...もし勇者たちが気づいたら」


ベルナールの声には不安が滲んでいる。ヴァルクは、その肩に手を置いた。


「その時は、力ずくでも抑える」


「世界のためだ」


ベルナールは頷いた。しかし、その表情には迷いがあった。本当に、自分たちは勇者を止められるのだろうか。


蝋燭の光が揺れる。影が壁に踊る。


誰もが理解していた。この秘密が露呈すれば――全てが終わる。


翌朝、王女フィリアの部屋には穏やかな光が差し込んでいた。


フィリアは窓辺に座り、朝食を取っている。しかし、その表情は曇っていた。数日前から、父の様子がおかしい。何かを隠している。


コツコツとノックの音。


「入りなさい」


扉が開き、侍女のマリアが入ってきた。フィリアの最も信頼する側近で、十年以上仕えている女性だ。


「王女様、報告がございます」


マリアの声は緊張していた。フィリアは振り向く。


「何かしら」


「王が...二日前の早朝、城を出られました」


フィリアは手を止めた。


「どこへ?」


「それが...護衛も少数で、密かに」


マリアは続けた。


「そして、地下で何かの準備が進んでいます」


「地下...?」


フィリアは立ち上がった。


「何の準備?」


「魔法陣のようです」


マリアの声はさらに小さくなった。


「そして、魔道士たちが頻繁に出入りしています。夜中に、こっそりと」


フィリアの心に、暗い予感が広がっていく。父が何かを隠している。それも、自分に知られたくないことを。


その時、別の側近が慌てて入ってきた。


「王女様!大変です!」


「落ち着きなさい。何があったの」


「城下で噂が広まっています」


側近は息を切らしながら報告した。


「王が...魔王と接触したという噂が」


フィリアの顔色が変わった。


「...何ですって?」


「確証はありません。しかし、複数の者が同じ噂を」


フィリアは窓の外を見た。城下には、いつものように神殿の光が見える。勇者様を崇める民衆が、今も祈りを捧げているはずだ。


しかし――父は。


「まさか」


フィリアは呟いた。しかし、心の奥では確信していた。


父は――勇者様を裏切ろうとしている。


「マリア」


フィリアは振り向いた。


「父上の部屋を監視しなさい。何か動きがあれば、すぐに報告を」


「かしこまりました」


マリアが去った後、フィリアは一人窓辺に立っていた。拳を握りしめる。


「父上...あなたは何をしようとしているの」


その夜、レオニス王は執務室で書類を確認していた。


机の上には、儀式の詳細な計画書が広げられている。魔法陣の配置、魔道士の人数、勇者を抑える方法――全てが記されていた。


時折、ペンを持つ手が震える。この計画を実行すれば――娘との関係は、永遠に壊れるだろう。


しかし、やるしかない。


突然、扉が開いた。


レオニスは反射的に書類を隠そうとしたが――遅かった。


フィリアが入ってきた。侍女たち数名を伴っている。その表情は、冷たく硬い。


「フィリア...こんな夜更けに」


レオニスは努めて平静を装った。しかし、声が震えている。


「父上」


フィリアの声も震えていた。しかし、それは怒りと悲しみによるものだった。


「魔王と手を組んだと聞きました」


沈黙。


レオニスは、娘の目を見ることができなかった。その沈黙が――全てを物語っていた。


「勇者様を...」


フィリアの声が、涙で詰まる。


「裏切るおつもりですか!」


レオニスは立ち上がった。娘と向き合う。もう、隠すことはできない。


「裏切りではない」


「では何なのです!」


フィリアは叫んだ。侍女たちが驚いて身を引く。


「国を守るためだ」


レオニスの声は、低く抑えられていた。


「国を守る...?」


フィリアは信じられないという表情になった。


「勇者様こそが国を守っています!」


「目を覚ませ、フィリア!」


今度はレオニスが声を荒げた。


「勇者たちは災厄だ!国を壊している!」


「災厄などではありません!」


フィリアは涙を流しながら叫んだ。


「神の使いです!私たちを導く光です!」


レオニスは苦笑した。その笑みには、深い悲しみがあった。


「光...?破壊の光だ」


執務室に向かい、窓を開ける。外では、神殿の光が輝いている。


「フィリア、お前は現実が見えていない」


「見えていないのは父上です!」


フィリアも窓辺に向かった。父と並んで立つ。


「勇者様は、私たちを救ってくださいます」


「救う...?」


レオニスは娘を見た。


「村を破壊し、街を壊し、人を殺して――それが救いか?」


「それは...仕方のないことです」


フィリアは目を逸らした。


「大きな目的のためには、犠牲も」


「犠牲...」


レオニスは娘の肩を掴んだ。


「お前は、何人死んだか知っているのか?」


「フェルナンドの村で百名。城壁崩壊で二十名。各地の被害を合わせれば、数百名だ」


「それでも、お前は勇者を擁護するのか」


フィリアは父の手を振り払った。


「私は王女です。勇者様を信じる義務があります」


「義務...」


レオニスは力なく笑った。


「私は王だ。民を守る義務がある」


二人は向き合った。かつては愛し合っていた親子。しかし今は――深い溝が横たわっている。


「私は...」


フィリアは涙を拭った。


「勇者様に報告します」


その言葉に、レオニスの顔色が変わった。


「待て、フィリア!」


手を伸ばす。しかしフィリアは、振り向かずに部屋を出ていった。侍女たちも慌てて後に続く。


残されたレオニスは、机に手をついた。


「...終わった」


呟きが、静かな部屋に響いた。計画が――露呈した。


フィリアは城の廊下を急いでいた。


涙が止まらない。しかし、今は泣いている場合ではない。勇者様に知らせなければ。父上の裏切りを。


勇者たちの部屋に到着し、扉を叩いた。


「勇者様方!」


扉が開く。ハルが顔を出した。


「お、王女。どうしたの?」


「大変なことが...」


フィリアは息を切らしながら部屋に入った。中には、レン、ミカ、そしてクロウもいた。全員、寝る前の服装だ。


「どうしたんですか?」


クロウが尋ねた。フィリアは、必死に言葉を紡ぐ。


「王が...魔王と手を組みました」


一瞬の沈黙。


「は?」


ミカが首を傾げた。


「魔王と?マジで?」


レンも立ち上がる。


「そして...」


フィリアは涙を流し始めた。


「勇者様方を...異界へ還送しようと」


その言葉が、部屋の空気を凍らせた。


ミカが最初に反応した。立ち上がり、壁を叩く。


「裏切り?マジ最悪なんだけど!」


レンも拳を握りしめた。その拳から、微かに光が漏れている。


「ふざけんな!」


ハルは困惑した表情で立っていた。


「えー、なんで?俺たち、何か悪いことした?」


フィリアは首を激しく振った。


「何も悪くありません!」


「王が...間違っているのです」


クロウだけが、冷静に座っていた。彼は、この展開をどこかで予想していたのかもしれない。


「待て」


クロウは立ち上がり、三人を制止しようとした。


「なぜそうなったのか、理由を聞こう」


しかしレンは聞かなかった。


「理由なんてどうでもいい!」


扉に向かう。


「王をぶっ飛ばしてくる!」


「やめろ、レン!」


クロウが腕を掴もうとしたが、レンは振り払った。


「邪魔すんな、クロウ」


ミカとハルも立ち上がる。


「頼む、落ち着いてくれ!」


クロウは必死に説得しようとした。しかし――誰も聞かなかった。


レンが扉を開け、廊下に出ていく。ミカとハルも後に続いた。


クロウは、その後ろ姿を見送るしかなかった。


ベルナールは、城の西棟を巡回していた。


深夜の見回りは、騎士団長の日課だ。静かな廊下を歩きながら、彼は考えていた。明日――いや、もう今日だ。今日の夜、全てが決まる。


突然、轟音が響いた。


城全体が揺れる。ベルナールは反射的に剣に手をかけた。


「何だ!?」


廊下の奥から、さらに音が聞こえてくる。破壊音。何かが砕ける音。そして――叫び声。


駆けつけると――。


レンが廊下を歩いていた。その後ろには、粉々に砕けた壁。レンの拳が、石壁を容易く破壊していた。


「王はどこだ!」


レンが叫ぶ。その目は、怒りに燃えていた。


「待て!」


ベルナールは剣を抜いた。


「これ以上の暴挙は許さん!」


レンは、ベルナールを見た。そして――笑った。


「邪魔すんな」


レンの拳が、ベルナールに向かってくる。


ベルナールは剣で受け止めようとした。しかし――。


金属が砕ける音。


剣が、まるで木の枝のように折れた。そして、レンの拳がベルナールの胸を直撃する。


世界が、回転した。


ベルナールの体は宙を舞い、廊下の奥まで吹き飛ばされた。背中から壁に激突し、石壁にひびが入る。


体中が痛い。呼吸ができない。


ベルナールは床に崩れ落ちた。意識が遠のいていく。


「団長!」


騎士たちが駆けつけてくる。しかし、彼らもレンの前では無力だった。


次々と吹き飛ばされる騎士たち。廊下が、戦場と化していく。


ハルも現れた。手のひらに光を集めている。


「王様、出てきて」


その声は、驚くほど軽かった。まるで、友達を呼び出すかのような調子だ。


しかし、手のひらの光は――危険だった。あれが解き放たれれば、城が吹き飛ぶ。


ミカは遠くから見ている。


「早く終わらせてよね。眠いんだけど」


城内がパニックになっていく。悲鳴が響き、騎士たちが次々と倒れる。壁が崩れ、天井が揺れる。


クロウが必死に追いかけてきた。


「やめろ!」


息を切らしながら、ハルの前に立ちはだかる。


「クロウ、どいて」


ハルは困った表情で言った。


「ダメだ」


クロウは両手を広げた。


「話を聞くべきだ。なぜこうなったのか」


レンが後ろから近づいてくる。


「理由なんてどうでもいい」


「俺たちを追い出そうとしてるんだぞ」


クロウは振り向いた。


「それには理由があるはずだ!」


「考えろ!俺たちが何をしてきたか!」


ハルが首を傾げる。


「...俺たち、助けてきただけだよ」


「本当にそうか?」


クロウは叫んだ。


「村を壊し、街を破壊し、人を殺して――それが助けることか!」


レンの表情が変わった。


「うるせえ!」


レンの手が、クロウを突き飛ばす。


クロウの体は、まるで人形のように軽々と吹き飛ばされた。廊下の壁に激突し、床に転がる。


「がっ...」


体を強く打ち、息ができない。肋骨が折れたかもしれない。


「頼む...やめてくれ...」


クロウは床に這いつくばりながら、手を伸ばした。しかし――誰も見ていなかった。


三人は、クロウを置いて先に進んでいく。


クロウは無力だった。唯一の理性の声は――届かなかった。


明け方、執務室にはレオニスとヴァルクが集まっていた。


外からは、まだ騒ぎが聞こえている。壁が崩れる音、騎士たちの叫び声、そして――勇者たちの怒号。


レオニスは窓辺に立ち、疲れ切った表情で外を見ていた。


ヴァルクが報告に来る。


「計画が露呈しました」


「...分かっている」


レオニスの声は、かすれていた。


「被害は?」


「城の西棟が半壊しています」


ヴァルクは報告書を見ながら続けた。


「騎士十五名が負傷。うち三名が重体です。ベルナール団長も...」


「生きているか?」


「はい。しかし、数週間は動けないかと」


レオニスは拳を握りしめた。ベルナール――長年仕えてくれた忠臣が。


「やむを得ん」


レオニスは振り向いた。


「儀式を急げ」


ヴァルクは驚いて顔を上げた。


「しかし、準備が――」


「明日だ」


その言葉に、ヴァルクは息を飲んだ。


「明日...ですか?」


「一週間など待てない」


レオニスは窓の外を指差した。


「このままでは、城が崩壊する。いや、城だけではない。王都全体が危険だ」


ヴァルクは、その意味を理解した。勇者たちの怒りは、もう制御できない。


「魔王に緊急の伝令を送れ」


レオニスは命じた。


「明日の夜、儀式を決行する」


「承知しました」


ヴァルクは深く頭を下げた。部屋を出ようとして――振り向いた。


「陛下...これで本当に」


「他に道はない」


レオニスは即答した。


「もう、後戻りはできない」


ヴァルクは何も言えず、部屋を出ていった。


一人残されたレオニスは、再び窓辺に立った。


外では、夜が明け始めている。城下では、民衆が目を覚まし始めているだろう。いつもと変わらない朝。しかし――。


「フィリア...すまない」


レオニスは呟いた。


娘の顔が、脳裏に浮かぶ。幼い頃、初めて歩いた日。初めて笑った日。父の膝の上で眠った、あの温かさ。


全てが――壊れてしまった。


外から、再びレンの叫び声が響いた。城の壁が揺れる。


ヴァルクが戻ってきた。


「陛下、避難を」


「いや」


レオニスは首を振った。


「ここにいる。王として、最後まで見届ける」


朝日が昇り始めた。しかし、その光は冷たい。


窓から、黒い伝書鳥が飛び立っていく。魔王への、緊急の知らせを乗せて。


「明日...全てが決まります」


ヴァルクが呟いた。レオニスは頷く。


「ああ」


二人は、窓の外を見つめた。


城内では、まだ騒ぎが続いている。勇者たちの怒りは、収まる気配がない。むしろ、激しさを増していた。


「準備を」


レオニスは静かに命じた。


「明日の夜――最後の戦いだ」


ヴァルクは深く頭を下げ、部屋を出ていった。


一人残されたレオニスは、玉座に座った。重い王冠を被り、背筋を伸ばす。


外では、新しい一日が始まろうとしている。


しかしレオニスは知っていた。


これが――最後の朝になるかもしれない。


勇者との、最後の戦い。


世界の運命を賭けた、決戦の夜が近づいている。

読んで下さりありがとうございました!

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