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召喚した勇者がクズでした。魔王を討伐して欲しいのに、勇者が魔王に見えてきた。助けて  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
第1部:神の来訪期

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第1話「召喚成功、そして始まる国の狂気」

深夜の執務室で、レオニス・アルディス三世は一枚の羊皮紙を見つめていた。窓の外では松明の灯りが城壁を照らしており、見張りの兵たちの声が夜風に乗って聞こえてくる。いつもより多い歩哨の数は、この国が平穏ではないことの証だった。


「陛下」


扉が開き、宰相ヴァルクが静かに入室した。灰色の髪に深い皺が刻まれた顔には、疲労の色が濃い。


「報告を」


レオニスは羊皮紙から目を上げずに言った。


「北方第三要塞が陥落しました。守備隊三百、全滅です」ヴァルクの声は平坦だった。悲しみを通り越し、もはや淡々と事実を告げるしかない段階に達している。

「また、か」


レオニスは深く息を吐いた。


三ヶ月前に魔王軍の侵攻が始まってから、状況は悪化の一途を辿っていた。最初は国境付近の小競り合いだと思われていたが、それは楽観だった。

魔王ゼファルの軍勢は組織的で、容赦がなかった。第一要塞が落ち、第二要塞が落ち、そして今、第三要塞までも失われた。


「このままでは、半年も持ちません」


ヴァルクは静かに言った。


「分かっている」


レオニスは立ち上がり、窓辺に歩み寄った。城下町の明かりが、まだらに広がっている。眠らない街――否、眠れない街だ。魔王軍の噂は民衆の間にも広がり、不安が蔓延している。


「だからこそ、だ」


レオニスは振り返り、その目には覚悟が宿っていた。


「異界召喚の儀を執り行う」


ヴァルクの目が僅かに見開かれた。


「陛下...本気で?」

「他に道はない」


レオニスは執務机の上に広げられた古文書を指さした。褪せた羊皮紙には、複雑な魔法陣と古代文字が記されている。


「『世界が滅びの淵に立つとき、異界より救世主を招かん』――建国神話に記された、最後の切り札だ」

「しかし、それは神話です。伝説です。実際に成功した記録は――」

「ない。分かっている」


レオニスは頷いた。


「だが、試さねばならぬ。このままでは、確実に滅ぶ」


ヴァルクは沈黙した。理性的な宰相は、神話や伝説を信じるタイプではない。しかし、彼もまた現実を見ていた。このままでは、アルディス王国は魔王軍に飲み込まれる。選択肢など、もはや残されていなかった。


「…分かりました」


ヴァルクは深く頭を下げた。


「儀式の準備を整えます。明日の正午に」

「頼む」


レオニスは再び窓の外を見た。神よ、どうか――心の中で祈りを捧げる。もし本当に異界から救世主が現れるなら、どうかこの国を、この民を救ってくれと。窓の外で、松明の炎が揺れていた。




翌朝、王城の大広間は異様な熱気に包まれていた。正午の儀式に向けて準備が進められており、床には巨大な魔法陣が白亜の粉末で描かれ、その周囲には十二本の蝋燭が立てられている。神官たちが祈りの言葉を唱え、空気が神聖な響きに満たされていく。


「本当に成功するのでしょうか」


若い騎士が、隣の仲間に囁いた。

「神話が真実なら、な」


年配の騎士が答える。


「しかし、このままでは我々に未来はない。賭けるしかあるまい」


広間の隅で、宰相ヴァルクは冷静に儀式の進行を監督していた。神官たちの配置、魔法陣の精度、蝋燭の位置――全てが古文書の記述通りでなければならない。一つの誤りが、儀式全体を無に帰す可能性がある。


「ヴァルク卿」


振り向くと、王女フィリアが立っていた。十七歳の王女は純白のドレスに身を包み、その瞳には期待の光が宿っている。


「殿下。こんなところまで」

「私も見届けたいのです。神の使いが、本当にこの世界に降臨なさるのかを」


フィリアの声には、疑いの色がない。純粋な信仰心が、彼女の心を満たしていた。


ヴァルクは内心で嘆息した。この純真さが、後に何をもたらすのか――彼にはまだ分からなかった。


「殿下、危険です。儀式の最中は、何が起こるか分かりません」

「大丈夫ですわ。神の御業を、この目で見届けます」


フィリアは微笑んだ。その表情には、一片の曇りもない。


その時、広間の扉が大きく開いた。レオニス王が王冠を戴き、威厳ある姿で入場する。彼の後ろには文武百官が列を成しており、貴族たちも騎士たちも、皆が固唾を飲んで王を見守っている。


「皆の者」


レオニスの声が、広間に響いた。


「本日、我らは建国以来初めて、異界召喚の儀を執り行う」


ざわめきが広がる。


「神話が真実であるならば、今この時、異界より救世主が降臨されるだろう。我らの世界を、魔王の脅威から救うために」


レオニスは一歩、魔法陣に近づいた。


「祈れ。願え。そして――信じよ」


その言葉と共に、神官たちが一斉に詠唱を始めた。古代語の響きが広間を満たし、蝋燭の炎が激しく揺れ、魔法陣が淡く光り始めた。


ヴァルクは息を飲んだ。


これは――本物だ。魔法陣の光が強くなり、白から青へ、青から金へと色を変え、やがて眩い輝きが広間全体を包み込んだ。


人々は目を細めながらも、見つめ続けた。光の中に、影が見える。一つ、二つ、三つ、四つ――人の形をした、四つの影。


「来られた…!」


フィリアが叫んだ。光が収束していき、眩さが薄れ、やがて視界が戻ってきたとき――そこに、四人の人影が立っていた。


「――え、マジ?」


最初に発せられた言葉は、それだった。広間が静まり返る。


魔法陣の中央に立つ四人は、明らかにこの世界の住人ではなかった。異様な衣服、見たこともない素材と形――一人は奇妙な上着を着て、もう一人は短い衣に素足を晒している。


「うわ、マジで異世界召喚じゃん!」


その声は若い男のものだった。黒い短髪に整った顔立ち、年の頃は二十歳前後だろうか。彼は周囲を見回し、目を輝かせた。


「やべー、本物の城! 騎士! これ、マジ?」


レオニスは言葉を失っていた。これが――神の使い?




「ちょっと待って」


今度は女の声だった。茶色の髪を肩まで伸ばした少女が、手に持った四角い板――何かの道具だろうか――を見つめている。


「圏外なんだけど。Wi-Fi飛んでないの? マジ無理なんだけど」


Wi-Fi? 何だそれは?

「おい、ハル! 見ろよこれ! 本物の甲冑だぜ!」


もう一人の男が興奮した様子で騎士たちに近づいていく。筋骨隆々とした体格に運動着のような簡素な服装、彼は騎士の甲冑を無遠慮に触り始めた。


「すげー、本物じゃん! 重そう!」


触られた騎士は、困惑した表情で固まっている。


「…運命か」


四人目の声は低く、どこか芝居がかっていた。黒い外套のようなものを羽織った青年が、腕を組んで天井を見上げている。


「闇が我を呼んだのか...それとも光が? いや、これは必然。世界の理が――」

「クロウ、お前また始まったよ」


ハルと呼ばれた青年が、苦笑しながら言った。


レオニスは、ようやく声を取り戻した。


「――勇者殿!」


その声に、四人が一斉に振り向いた。


「勇者?」


ハルが首を傾げる。


「ああ、そうか。俺たち、召喚されたんだっけ」


レオニスは一歩前に出た。威厳を保たねば――これが神の使いであるなら、王として相応しく迎えねばならない。


「ようこそ、異界の勇者たちよ。我が名はレオニス・アルディス。この国の王である」

「おー、王様! マジで!」


筋肉質の男――レンが目を輝かせた。


「レン、お前ちょっと落ち着けって」

ハルがレンの肩を叩き、そしてレオニスに向き直る。


「えーと、つまり――俺たち、魔王倒せばいいんすよね?」


すよね――その軽い口調に、広間がざわめいた。ヴァルクは額に冷や汗が浮かぶのを感じた。これは――どういうことだ?


「そ、その通りだ」


レオニスは動揺を隠しながら答えた。


「魔王ゼファルが、我が国を脅かしている。異界より来たりし勇者たちよ、どうか我らに力を――」

「了解っす」


ハルは軽く手を上げた。


「じゃ、適当に頑張りますわ」


適当に――レオニスの目が、僅かに見開かれた。


「あのー、すみません」


ミカと呼ばれた少女が手を挙げた。


「お風呂とかあります? マジで無理なんですけど、お風呂ないの」

「ふ、風呂?」

「あと、Wi-Fi。ネット環境。スマホ充電できないと死ぬんで」


ネット? スマホ? レオニスは完全に理解を超えた言葉の洪水に晒されていた。


「腹減った! 飯は?」


レンが叫ぶ。


「我が運命の時は今――」


クロウが何かを唱え始める。広間は一瞬にして、混沌に包まれた。


ヴァルクは静かに王を見た。王もまた、宰相を見返した。その視線の中に、同じ感情が宿っていた――これは、一体何なのだ?




それでも、儀式は成功したのだ。そう自分に言い聞かせながら、レオニスは歓迎の辞を述べた。


「勇者たちよ。長旅の疲れもあろう。まずは休息を。部屋を用意させている」

「マジっすか! やった、ベッドある?」


ハルが笑顔で言った。


「当然です。最高の部屋を――」

「じゃ、案内してください」

「は、はい」


レオニスは侍女たちに目配せし、侍女たちは慌てて前に出た。


「勇者様、どうぞこちらへ」

「お、ありがとうございます」


ハルは侍女に軽く手を振った。その瞬間、侍女の顔が赤くなる。フィリア王女も、頬を染めていた。


「なんて…優しい方...」


彼女の瞳は、既に恋する乙女のそれだった。

ヴァルクは密かに頭を抱えた。勇者たちが広間を去った後、静寂が戻ってきた。貴族たちがざわざわと囁き合う。


「あれが…神の使い?」

「随分と…軽い感じだったな」

「しかし、召喚は成功した。伝説は真実だったのだ」

「ならば、あの者たちは本当に救世主なのだろう」


人々は、そう信じようとしていた。信じなければ、希望がなくなるから。


レオニスは玉座に腰を下ろした。


「ヴァルク」

「はい」

「あれが…神の使いか?」


ヴァルクは答えなかった。答えられなかった。




夕刻、勇者たちのために用意された部屋では、予想通りの光景が繰り広げられていた。


「えー、エアコンないの?」


ミカが部屋を見回しながら言った。


「エア、コン?」


侍女が首を傾げる。

「あ、いや、いいです。こっちの話」


ミカはベッドに腰を下ろした。豪華な天蓋付きのベッドに絹の寝具、王族に匹敵する調度品が揃っているが、彼女の表情は不満そうだった。


「スマホ充電できないし、マジつらい」


別の部屋では、レンが窓から身を乗り出していた。


「うおー、見ろよハル! 城下町だぜ! 本物の中世ヨーロッパ!」

「中世じゃないと思うけどな」


ハルは部屋の隅の椅子に座っていた。


「でも、マジで異世界なんだな。ゲームみたいだけど、リアルすぎる」

「俺、もう無双していい?」

「待て待て、まだ魔王の場所も分かってないだろ」

「チッ、つまんね」


レンは窓から離れた。




廊下では、侍女たちが小声で話していた。


「勇者様…思っていたのと違いますね」

「神話では、もっと威厳のある方々かと…」

「でも、優しそうですよ。あの黒い髪の方、私に微笑んでくださいました」

「私もです! あの方、きっと心優しい勇者様です」

「そうですね…神の使いですもの。私たちが理解できないだけで、きっと深いお考えがあるのでしょう」


侍女たちは、そう信じることにした。その方が、楽だから。




その夜、王城では盛大な歓迎の宴が開かれた。大広間には長いテーブルが並べられ、山のような料理が運ばれてくる。貴族たちが着飾って集まり、勇者たちを囲んだ。


「勇者殿! ようこそ!」

「我が国の救世主に、乾杯!」

「神の御加護を!」


歓声と乾杯の声が響き渡る。


ハルたちは上座に座らされていた。


「すげー豪華!」


レンが目を輝かせて料理に手を伸ばし、フォークもナイフも使わず、肉を手づかみで頬張った。


「うめー! これマジうめー!」


貴族たちが目を丸くする。


「あ、あれは…異界の作法なのか?」

「き、きっとそうだろう」


彼らは納得しようと努めた。


ミカは料理を前に、例の四角い板――「スマホ」と彼女が呼ぶもの――を掲げていた。


「これ、映えなくない?」

「映え…?」


隣に座った貴族の娘が首を傾げた。


「あ、いや、こっちの話」


ミカはスマホを下ろした。


「てか、マジで充電できないのヤバい。あと二日くらいしか持たない」

「充電...とは?」

「えーと…」


ミカは説明に困った様子で口を閉ざした。


ハルは、向かいに座るフィリア王女と目が合った。


「あ、どうも」


軽く手を振る。その瞬間、フィリアの顔が真っ赤になった。


「あ、あの、勇者様...!」

「ん?」

「私、フィリアと申します。お、お名前を教えていただけますか?」

「あ、俺? 神谷ハルっす。よろしく」

「カミヤ…ハル様...!」


フィリアは頬を染めたまま俯いた。その様子を見て、周囲の貴族たちがクスクスと笑う。


「王女殿下、お気に召したようですな」

「勇者殿、お優しい方だ」


一方、クロウは一人ワインを飲みながら独り言を呟いていた。


「この世界の酒...悪くない。いや、これこそが運命の一滴。闇と光が交わる、禁断の――」

「クロウ、お前もう酔ってるだろ」


ハルが苦笑する。


宴は続いた。しかし、上座の端では――レオニス王とヴァルクが、静かに勇者たちを観察していた。


「陛下…」

「ああ」


レオニスは小声で答えた。


「見ているぞ」

勇者たちは笑い、食べ、騒いでいる。悪意はない。ただ――


「まるで、子供だ」


ヴァルクが呟いた。


「いや、それ以上に…何かが、違う」


レオニスは頷いた。何が違うのか、言葉にはできない。しかし確かに――この者たちは、この世界の住人ではない。それは服装や言葉だけの問題ではなかった。価値観、視点、存在そのもの――全てが、異質だった。


「陛下」


ヴァルクが更に声を潜めた。


「もし…あの者たちが、期待通りの力を持っていなかったら?」


レオニスは答えなかった。答えたくなかった。なぜなら、その可能性は――既に、彼の心の中にあったから。


宴は深夜まで続いた。貴族たちは勇者を讃え続け、民衆は城下で「勇者万歳!」と叫び続けた。しかし――レオニス王の心には、ひとつの疑念が芽生え始めていた。




深夜、王の執務室でレオニスは一人、窓の外を見つめていた。城下ではまだ祝祭の灯りが点っており、


「勇者万歳!」

「神の使いが来られた!」

「我らは救われるのだ!」


という民衆の声が微かに聞こえてくる。彼らは喜び、信じ、希望を抱いている。


しかし――


「これが…神の使いか?」


レオニスは呟いた。あの軽薄な態度、あの無邪気な振る舞い、あの理解できない言葉の数々。確かに彼らは異界から来た。神話は真実だった。しかし、それで終わりではない。


「本当に、あの者たちが…魔王を討てるのか?」


窓ガラスに映る自分の顔を見つめる。疲れた目、深い皺、そして――恐怖。


「いや、それ以前に――」


レオニスは拳を握りしめた。あの者たちは本当に勇者なのか? それとも――。


コン、コン。ノックの音。


「入れ」


扉が開き、ヴァルクが入ってきた。


「陛下、まだお休みでは?」

「眠れぬ」


レオニスは振り返った。


「ヴァルク…正直に言え。お前は、あの者たちを信じられるか?」


ヴァルクは沈黙し、やがてゆっくりと首を横に振った。


「...分かりません」

「そうか」


レオニスは深く息を吐いた。


「私も、だ」


二人はしばらく無言で立っていた。窓の外では祝祭の声が響き続けているが、この部屋には――重い沈黙だけがあった。


「陛下」


ヴァルクが口を開いた。「明日から、勇者たちの訓練を始めます。彼らの力を見極めねば」

「...ああ」

「それによって、全てが分かるでしょう」

「そうだな」


レオニスは再び窓の外を見た。祝祭の灯り、喜びの声、そして――闇。


「祈ろう、ヴァルク」

「はい」

「あの者たちが、本当に救世主であることを」


レオニスは目を閉じた。しかし心の奥底では――既に、別の予感が芽生えていた。これは、祝福ではない。これは――。


窓の外で風が吹き、松明の炎が激しく揺れた。まるで警告するかのように。やがて訪れる災厄の予兆を、レオニスは――感じていた。


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