テスト
「なるほど!!たしかにそうかんがえると、イロイロと、ツジツマが合う気がする」
「この想像というか想定が、もしも、ホントウにあたってるんだとしたら、オレとしては、『じぶんがむかしつくった書類が、キッカケというか、理由・原因になって、その元職員が、処刑されてしまった』っていうカタチになるので、なんというか、チョット微妙な気分ですがね」
「いや、ソレはあくまでも、その元職員が、じぶんで勝手にやったことであって、君がイチイチ、そのことを、気にするひつようはないとおもう。
そもそも、その元職員自身、君がつくった書類を勝手につかっている。つまり、じぶんがつくった書類じゃないのに、あたかも、じぶんの手柄にしようとしたんだし。
そうかんがえれば、あるイミで、自業自得というか、因果応報というか。じぶんで勝手に蒔いたタネだよ」
「ソレはまあ、たしかにそうなんですが。でもじぶんとしては、チョット微妙な気分です」
「気にしすぎだとおもうけどね」
桂がこのように発言し、徳吉のカオをみたら、すこしだけ、カゲのある表情をしていた。
(なんだ、なにか気になることでもあるのか?)
このようにおもい、桂が徳吉にたいして、ソレを聞こうとしたときのことである。
「というより、徳吉さん、こういう事態が起こることを、あらかじめ、予想してませんでした?
もっといえば、『じぶんがつくった書類を、ほかのニンゲンがつかってシゴトをおこなえば、カナリたかい確率で、キケン・もんだい・トラブルが起こる』っていうことを、わかってませんでしたか?」
と、それまでは、ほとんど発言をしてこなかった高井が、クチをひらいた。高井からの指摘にたいして、徳吉は、なんともいえないようなカオをしていた。すこしのあいだ、だまっていたのであるが、クチをひらいた。
「実をいうと、高井君のいうとおりだ。良くわかったね、ソレが」
「ヤッパリですか」
高井は、じぶんの想定があたったことについて、腑におちたような感じでいった。
「正直なところ、徳吉さんがつくった書類っていうのは、一見すると、実によくできてるんですよ。ピンポイントで、重要なところというか、要点とかが、上手にまとめられてるように見えたんです。
でも、じゃあイザじぶんが、その書類を基にして、実際にシゴトをしていくとしたら、どうなるのかっていうことを、チョットだけ、アタマのなかで、かんがえてみたんですよ。そうしたら、どうもコレは、そうじゃないとおもえまして」
「イヤ、そのとおりなんだよ。あの書類はあくまでも、かんがえて、判断するときに参考になる資料というか、ソレをまとめて書いただけであって、『このとおりに、シゴトを進めろ』っていう、ルールやマニュアルじゃないんだよね」
「ですよね、オレの想定があたってましたか。パッと見ただけでは、シゴトのダンドリというか、マニュアルのように見えますから。
だから、ものごとを、深くかんがえないタイプのニンゲンが、この書類を読んだときは、おそらく、『なにもかんがえず、ここに書かれている内容のとおりに、シゴトを進めていくんじゃないか』とおもえました。
そうなると、たぶん、あとになってから、イロイロなキケン・もんだい・トラブルが、多発するんじゃないかとおもえましたね。
一見すると、良くできていて、シゴトをするときに、とても役にたちそうに見えますが、実はコレは、一種のワナというか、『バカで不用心なタイプがこの書類を見ると、とんでもない目に遭うな』と感じましたよ」
高井の発言にたいして、徳吉は、感心したような表情になった。
「いや、あいかわらずカンがするどいね、高井君は。そうなんだよ。オレがつくった書類っていうのは、わざと肝心なところは抜いてあってね。
いわば、最初のスタート地点と、さいごのゴールというか、けつろんのみを書いたんだよね。つまり、途中の経過っていうものを、すべて省いてある。一切書いていない。
そういうことだから、ほかのニンゲンが、その書類を読んで、シゴトを進めようとしても、おそらく、まったくイミがわからんとおもう。
もっといえば、その書類に書いてあるとおりにシゴトを進めると、かならず途中で、たくさんのトラブル・もんだいが発生することになる。つまり、そういう仕組みになってるともいえる。
露骨にいえば、書類をつくった当のほんにんしか、イミがわからないカタチというか、内容にしたんだよね。わざとそうしといた」
「なんでまた、そんなメンドウ臭いことをしたんですか?と、聞きたいところですが、なんとなく、その狙いや動機というか、もくてきがわかる気はしますよ」
「ソレはチョット気になるなあ。じゃあ聞くけど、オレがソレをおこなった、狙いや動機、もくてきっていうのは、なんだとおもう?」
「ズバリいってしまえば、じぶんの身を、まもるためじゃないですか?」
「そのとおり!!まったく、カンがするどいねえ」
「ヤッパリですか。徳吉さんのほうこそ、あいかわらず深謀遠慮というか、性格がワルイというか」
「深謀遠慮はともかく、性格がワルイっていうのは、ヒドイいいかたじゃないか」
「いえいえ、コレは、ホメコトバとして受けとってください」
「どうだろうね」
高井のコトバに、徳吉は苦笑してしまった。なぜならば、たしかにこの書類のつくりかたというか、書きかたは、カナリ性格がワルイ発想といえたのだから。
「ちなみに、徳吉さんが、じぶんの身をまもるために、こういう書類の書きかたをした。っていうのは、オレもわかったんですが、ぐたいてきなことまでは、良くわからなかったんですよ。
ただなんとなく、徳吉さんの性格というか、視点や発想、思考の仕方をふまえると、じぶんの身をまもるためだろう。っていうことは、カンづいたんですがね。
せっかくだから、くわしくおしえてくれませんか?徳吉さんがかんがえたっていう、この書類の狙いや動機、もくてき、望んだ成果や結果、効果っていうものを」
「ここにいるニンゲンにだったら、ネタをバラしてもいいか。オレたちがいる、今の世のなかっていうのは、ワケのわからん事情や理由で、とつぜん粛清されることがある。ソレこそ、捕まって処刑されたっていう、支所の元職員みたいに。
そういう事例は、身のまわりにいくらでもある。というか、むかしからあった。そういうことを知っている身としては、ヤッパリ用心のために、保険をかけておくべきだとおもった。
シゴトをしているときに、『コイツは、このシゴトを進めるときに、ひつよう不可欠な人材だ。代用が効かない。コイツがいないと、シゴトがまわらない。つぎつぎに、トラブル・もんだいが発生する』と、まわりのニンゲンから、おもわれるひつようがある。と、そうかんがえたんだよね。だからそうした。
もちろん、公的な文書になるから、あからさまに、真っ赤なウソを書くワケにはいかない。そんなことをしたら、ウソがバレたときに、その書類をつくったニンゲンであるオレ自身が、そのせきにんを追及されて、せきにんを取らされることになる。つまり粛清されかねない。
コレじゃあ、元も子もない。じぶんの身をまもろうとして、真逆の成果や結果、効果になってしまう。
だから、ウソを書くことなく、じぶん以外のニンゲンが、深くかんがえずにコレを読んで、そのとおりにおこなったときは、つぎつぎに、トラブルやもんだいが起こるようにしといた。っていうワケだよ。
ぐたいてきにいえば、シゴトのながれの1~10までのことを、つまり、細々としたことまで、すべて書くひつようはない。
だから、最初のスタートの1と、さいごのゴールの10の部分を、ぐたいてきに書いておく。だけど、途中の2~9の部分を、わざと省いて抜いてある。一切書いてない。
コレが違和感というか、不自然さがないカタチにするために、最初のスタートの1と、さいごの10の部分を書くときに、このふたつを、可能なかぎりぐたいてきに、かつ詳細に書くことで、その分量を増やしといた」
「なるほど。ソレはたしかに、カナリ性格がワルイ発想だよなあ。現に、徳吉くんのつくった書類をつかったために、強制労働施設は、つぎつぎに、トラブルやもんだいがおきたワケだし」
徳吉のハナシを聞いていた桂は、唸るようにいった。
「オレが徳吉君の書類を読んだとき、たしかに、最初のスタート地点と、さいごのゴールについては、ハッキリと、ぐたいてきに書いてあった。だから、えらくわかりやすい書類だと、そのときは関心した。
でも、じゃあじぶんが、イザその書類を基にして、シゴトを進めていこうとしたら、途中の経過がサッパリわからなくて、正直なところ、カナリこまった。だから、コレはもう、ほんにんにたいして、直接聞くしか仕方がないとおもった」
「だからこそ、オレに会いに、施設までやってきたんですよね?そして、あの面会室で、オレに書類をみせて、イロイロと聞いてきた。
そのとき、たしか桂さんは、オレがつくった書類に書かれていない部分を、つまり、途中経過のところを、的確に聞いてきた。
だからオレは、このヒトは、『オレがつくった書類の欠陥というか、欠落した部分のことを、チャントわかってるニンゲンだ』っておもいましたよ」
「ソレはどうも。なんというか、オレは、君がつくったテストに受かった。と、こういうことで良いかい?」
わらいながら、桂はいった。




