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トカゲのシッポ

「処分ですか」

「そう、処分」

「つまり、処刑されたってことですよね?」

「露骨にいえば、そういうことになる」

「ちなみに、その支所の元職員っていうのは、処刑されるほど、重い罪で捕まったんですか?」

「ソレが、どうもそうでもないんだよね。捕まったのは、たしか、反体制的な言動をおこなっていた疑念があるとか、そういう罪だと聞いてる。

 だから、強制労働施設に送られて、何年間かの強制労働を命じられることはあっても、すぐに処刑されるってことは、ないはずなんだよね」

「それなのに、その捕まった支所の元職員は、処刑されてしまった。と」

「そうらしい」

「それはまた、どうもオカシイというか、チョットした不自然さを感じてしまうんですが」

「というと?」

「だって、反体制的な言動をおこなった疑い。というだけで、処刑されるっていうのは、いくらなんでも極端すぎますよ」

「だろうね。ソレはオレも、そうおもうよ」

「となると、その捕まった元職員は、なにか、違う容疑をかけられたとか?」

「いや、捕まったのはあくまでも、反体制的な言動の疑いらしい。ソレ以外の容疑で、捕まったってワケではないと聞いてる」

「そうですか」

 反体制的な言動をした。という疑念で、捕まったその元職員が、なぜ処刑という、もっとも重い罰を、受けなければならなかったのか。このギモンが、徳吉のアタマから離れなかった。

 なぜならば、つい先ほどまで、じぶんも強制労働施設にいたのだから。つまり、一歩間違えば、じぶんも似たような目に、遭っていたかもしれないのだ。そのために、どうしてもも、他人ごとにおもえない。

(直接、今のオレ自身にたいして、かんけいがあるとはおもえん。でも、その捕まった支所の元職員が、なぜ処刑されたのか。っていうギモンは、ハッキリさせたほうが良いかもしれない)

「ちなみに、桂さんは、その元職員が処刑された理由って、知ってるんですか?」

「くわしいことまでは知らないけど。オレが聞いたところによると、捕まったあとに、その施設にたいして、ヒドイ被害・損害をあたえたらしい。

 そのことが、体制にたいする、めいかくなカタチでの反対行為、ハカイ行為と見られてしまい、処刑されたと聞いてるよ」

「捕まったあとに、施設にたいして、ヒドイ被害・損害をあたえたんですか」

 コレを聞いて、徳吉は、チョットかんがえこんでしまった。

「どうしたんだい?オレのハナシに、なにかオカシイ点があったとか?」

「いえ、桂さんのハナシ自体が、どうこうっていうワケじゃないんです。ただ、そういう強制労働施設にいたじぶんとしては、カナリ不自然さというか、違和感を感じてしまうんです」

「ソレは一体、どういうなのか。できれば、おしえてほしいんだけど」

「ハッキリいえるかどうか、チョットわかりませんが、そもそもの前提として、ああいう強制労働施設っていうのは、受刑者にたいして、自由や権利っていうものが、まったくあたえられていません。そういうものは、カンゼンにうばわれ、はく奪されてます。

 となると、そもそも受刑者のほうが、どうガンバッてみたところで、施設にたいして、ヒドイ被害・損害をあたえるほど、大キボなかつどうをすることなんて、まずできないとおもうんです。

 ですから、『なにかのかつどうというか、行動をおこなって、施設をハカイする』なんていうのは、ほぼ不可能なことなんです。そんなことがゆるされるほど、アマイ状況じゃないんですよ。ああいう施設っていうのは」

「なるほど。いわれてみると、たしかにそのとおりだ。よくかんがえてみれば、捕まるまえに、なにか反体制的なハカイ工作をしたっていうのなら、ありえるかもしれない。

 でも四六時中、つねに監視されてる施設のなかで、施設にたいするハカイ行為というか、ハカイ工作をするなんていうのは、カナリおかしい。

 長年施設にいたニンゲンに、そう指摘されると、なんというか、説得力があるよ。すごく納得できる」

「いえ、こんなことで、説得力を持ちたくはないんですがね。でもまあ、仕方ないですね」

 徳吉としては、苦笑せざるをえない。なにせ、施設にいたときに、良い思い出などないのだから。

 そういう、良い思い出のない施設での体験が、説得力を持つ。といわれたところで、正直なところ、うれしくなかった。

「じぶんのいうことに、説得力があるかどうかはべつとして、ああいう施設のなかは、自由なじぶんの時間や空間なんて、まったくないんです。

 それこそ、寝るときだって、トイレにいるときだって、ダレかに監視されてる可能性があるんですから。

 まして、施設をこわしたり、ハカイするための武器や道具なんて、まず持ちこむことはできません。つくることもムリです。たとえ持ちこんだり、つくることができたとしても、ソレを隠す場所がありません。

 にもかかわらず、その元職員は、施設にたいするハカイ行為というか、ヒドイ被害・損害をあたえて、処刑されたっていうのは、なんというか、アリエナイ気がするんです。

 じゃあ、物理的なハカイ行為じゃなくて、なにか、もんだいのある発言をしたことで、施設にたいして、ヒドイ被害・損害をあたえたのか。とも、かんがえてみたんですが、でもコレもチョット、ムリがありそうです。

 たとえば、その元職員が、ウソの情報というものを、施設にたいしてつたえた。そして、施設の側が、その情報を基にして、なにかのシゴトやかつどうをおこなった。その結果として、ヒドイ被害・損害をこうむった。

 と、こういう可能性があるかもしれない。と、かんがえてみたんですが、でもどうも、コレもアリエナイかなと。

 なぜならば、そもそも、強制労働施設にいる囚人っていうのは、たちばが弱くて、ほとんど虫ケラのようにあつかわれて、バカにされて、下に見られてるんです。

 そういう、いわば、ゴミクズとおもわれてる囚人のいってることを、施設のニンゲンが、マトモに受けとるはずがない。

 つまり、最初から、囚人のいうことを、イチイチ信じるワケがないんです。そもそもの前提として、囚人のいうことを信用して、ソレを基にしてなにかをおこなう。なんていうことは、まずアリエナイんですよ。

 ウソをつかれ、ダマされた。だから、そのウソによって、ヒドイ被害・損害がおきた。っていうのは、あいてのことを、信用しているからこそ、成りたつ状況のはずですし。

 囚人のことを、虫ケラ・ゴミクズとおもってる、施設のニンゲンとしては、囚人のいってることを、最初から信用するワケがない。つまり、疑ってかかるのがフツウなんです。

 だからこそ、囚人のいってることを信用して、ソレを基にして、なにかをかんがえ、判断し、おこなった。そうしたら、ウソをついていたとわかった。なんていう状況は、まずアリエナイというか、かんがえにくいんです。

 じゃあ、なにかキケンな内容の言動というか、発言をしたことによって、処刑されたっていう可能性はあるのかどうか。

 でも、ソレはあくまでも、反抗的な態度をとったから、処刑されたっていうことですので、施設にたいして、ヒドイ被害・損害をあたえた。っていうワケじゃない。

 ソレに、そもそもコトバっていうのは、あくまでもコトバにすぎないワケですし。つまり、コトバを発することで、なにかをこわすことはできないので。

 にもかかわらず、施設にたいするハカイ行為をして、ヒドイ被害・損害をあたえて、処刑されたされ。っていうのは、ハナシがチョット矛盾するというか、シックリこないというか」

「なるほど、たしかにそのとおりだ。君にいわれると、それまでアイマイだったことが、えらくハッキリするというか、ぐたいてきになる気がする。アタマのなかが、クリアになっていく気分だ」

「ソレはどうも。素直にホメられたと受けとっておきます。それで、さっきのことを、さらにつづけてかんがえてみると、その処刑された支所の元職員っていうのは、もしかしたら、なにかの罪をなすりつけられて、トカゲのシッポ切りのようにして、せきにんをとらされて、処刑されたのかもしれませんね」

「トカゲのシッポ?」

「ええ。スケープゴート。といってもいいかもしれません」

「ソレはまた、ハナシがすこし、飛躍してる気もするけど」

「たしかに、すこしハナシが飛躍してるかもしれません。でも、ああいう施設のなかに、長年いた身としては、こういう可能性もあるんじゃないかと、おもえてしまうんです。

 なんせ、収容所にいる囚人っていうのは、ホントウに、なんの自由・権利もないんですよ。だから、人権っていうものがない。

 そのために、施設の職員がおこなったミスでも、『いつの間にか、囚人のせいにされて、処罰されてしまった』っていうケースは、何度もありましたので」

「ソレはヒドイねえ。ホントウにヒドイ」

「そういうヒドイことが、アタリマエのようにまかりとおるのが、強制労働施設っていうところなんです。

 こういう状況というか、条件をふまえてかんがえれば、その処刑された元職員っていうのは、施設のニンゲンにいわれて、改修工事の役にたつような書類だとかんがえて、オレがむかしつくった書類を、施設にわたしたんですよね。

 ソレで、その書類が原因になって、イロイロと、もんだい・トラブルがおきてしまった。だからソイツは、『施設にたいして、ヒドイ被害・損害をあたえた』と判断されて、処刑されてしまったんじゃないでしょうか?」

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