我に返る
徳吉が目をさますと、そこは、先ほどまでいたヘヤではなかった。クルマのなかにいたのである。ソレも、うごいているクルマのなかに。
(アレ、なんでオレ、クルマのなかにいる?)
今のじぶんが置かれた状態が、サッパリ飲みこめず、かるいパニックになってしまった。
さらに、カラダをうごかそうとしたら、うごかすことができない。じぶんのカラダを見てみると、拘束着でかためられており、手には手錠がかけられていた。
(クソ!!やられた。さっきのコーヒーに、睡眠薬でもいれられたか。でなけりゃ、カラダをうごかされたり、クルマに乗せられるときに、目がさめるはずだ)
強制労働施設にいれられた囚人である以上、こういう状態に置かれたのであれば、「ほぼ100%の確率で、これから先、ロクなことが待っていない」ということは、容易に想像することができた。
(カラダを拘束してるってのは、オレがアバレたり、にげることを警戒してるってことか。行き先やもくてき地を、まったくなにも知らされてないが、もしもオレがソレを知ったら、アバレたり、にげるかもしれないと、想定してるってことか。
ということは、オレにとってイヤなことが、これから待ってるってことだ。強制労働施設から、カラダを拘束されて、ムリヤリつれだされる以上、今よりもっと、ツライことが待ってるってことになる)
ここまでかんがえてみたのだが、もうコレ以上は、正直なところ、かんがえたくはなかった。なぜならば、導きだされる答え・けつろんは、「さらに過酷でツライ強制労働か、処刑されてコロサレル」というものしかないのだから。
徳吉は、なんとかして脱出することができないか、アレコレと、かんがえてみたのだが、すぐにソレが、不可能なことだと悟った。彼のカラダを拘束している、拘束着や手錠を外すことは、できそうにない。
ソレに、クルマからソトにでるのもむずかしい。徳吉が乗っているのは、クルマの後部座席なのだが、運転席・助手席とのあいだには、おそらく防弾とおもわれる、分厚くて、頑丈そうなガラスがある。そのために、後部座席から運転手にたいして、なにもすることができない。
さらにいえば、ドアのロックの解除も、運転席からしかできそうにない。後部座席のドアを見ても、ロックを解除するキーがない。
(ここから脱出するのはムリらしい。ソレに、もし脱出することができても、そのあとオレは、どうやって生きていけばいいのか。
もしにげることができても、脱走者として追われながら、ビクビクして脅えながら、のこりのじんせいを生きることになる。
そもそも、にげきることができるとはおもえん。どこかで捕まるだろうし、そのときこそ、問答無用でコロサレルだろう)
と、ここまでかんがえたとき、ムダな抵抗をしたところで、どうしようもないと悟った。
(さらにキツイ強制労働にしろ、コロサレルにしろ、どっちにしろ、オレのじんせいは詰んだか。もう終わったようなもんだ)
このような、あきらめの心境に達したために、徳吉は、アバレたり、抵抗しようとはおもえなかった。
(すこしは運が上向くかもとおもったが、カンゼンにハズシたか。オレのカンは、ホントウにアテにならん)
桂が、じぶんにたいして会いにきたとき、「コレは、吉兆なのでは」とおもったのだが、今げんざい、じぶんが置かれた状況をかんがえてみると、どうやらソレは、ハズレたようである。なまじ期待してしまったために、その分だけ、ショックや落ちこみもおおきかった。
こういうこともあってか、なおさら、ムダな抵抗をしたところで、どうしようもないとおもえた。徳吉は、クルマのなかで、観念したようにジッとしていた。
クルマは、山道を登っていたのであるが、その道の途中で停まった。その場所には、べつのクルマが停められており、3人のオトコが立っていた。そのオトコたちは、カオがバレるのを警戒しているのか、全員が、覆面をしていた。
徳吉が乗っているクルマは、そのべつのクルマのトナリに停まった。
「着いたぞ、降りろ」
助手席に乗っていた監視官にいわれ、徳吉は、クルマを降りた。
「いわれたとおり、囚人番号888番、徳吉イキチを、この場所までつれてきました」
「ごくろう、あとはコチラが引きつぐから、帰ってくれ」
(ヤマのなかか。まさかここで、コロサレルんだろうか。撃ちコロシたあと、ヤマのなかに埋められるとか。
それとも、べつのクルマがあるから、また乗せられて、違うところにつれていかれるのか)
じぶんが、「今から死ぬかもしれない」という状態に陥っていた。そのために、徳吉は、今のじぶんのまわりの状況を、冷静に見ることができなかった。
そのために、クルマのヨコに立っていたニンゲンが、カンゼンに、視界にはいっていなかった。
「徳吉さん、徳吉さん」
じぶんを呼ぶ声がきこえて、ハッと、我に返った。




