睡魔
桂が面会にきた翌日に、徳吉が、じぶんの作業ゲンバに行こうとしたら、とつぜん、監視官に呼ばれたのである。
「囚人番号888番の徳吉、今日は作業ゲンバではなく、このタテモノにいけ」
と、指示をされた。
「わかりました。それで、このタテモノにいって、なにをすればよいんですか?」
「そんなことは、このタテモノに着いてから、向こうの担当に聞けばいいだろうが!!イチイチそんなことをオレに聞くな。バカなのかオマエは、この低能が!!」
「スミマセン」
おそらく、じぶんよりも、一回り近くは若いのであろう、監視官に怒鳴られて、内心において、ハラワタが煮えくりかえりながらも、カオは温和な表情をつくり、ヘコヘコとアタマをさげて、その場を立ちさった。
(つくづく、なさけない状況だ。今のオレには、ドレイ根性が染みついてやがる)
理不尽な仕打ちをされながらも、ヘコヘコし、じぶんのほうがアタマをさげて、あやまっている。まっとうなニンゲンであれば、ダレだって、アタマに血が上ってしまうであろう。
アタリマエのことだが、徳吉も、アタマに血が上っていた。だがしかし、もしも、その感情・キモチというものをを、ソトにだしてしまったり、まして、コトバにだしてしまったら、ソレこそ、身のハメツを招きかねない。
ぐたいてきには、反抗的で、反体制的な反乱分子とされて、イノチがいくつあっても足りないような、キケンで、さらにキツイ強制労働を課せられるかもしれない。
そして、サイアクのばあいでは、処刑されてしまうキケン性・リスクだって、捨てさることはできない。
(こんなことで、身のハメツを招くワケにはいかん。ガマンだ、ガマン。こうやってオレは、この施設のなかで、11年近く生きのびてきたんだろうが。
ソレに、縁がうすいとはいえ、むかしの知りあいが、カナリ出世して、わざわざ、オレにたいして会いにきたんだ。しかも、施設の監視官ですら、遠慮するほどのたちばになったらしい。
コレはもしかしたら、吉兆の可能性もありえる。だったら、コレから先、オレの運が上向くかもしれないのに、こんなことでハメツしてたまるか。今はただ、ガマンだ、ガマン)
こういうことを、じぶんにたいして言いきかせながら、指定されたタテモノに向かっていった。
指定されたタテモノに着くと、ヘヤに案内された。そのヘヤのなかで、机の上に、書類が置かれていた。
「コレは一体、なんの書類ですか?」
「くわしいことは、オレも知らん。ただ、この書類をオマエが見て、わかる範囲でいいから、意見を書いたり、なおすようにとのことだ。終わったら、ヘヤにあるデンワでれんらくをしろ」
いわれるがまま、徳吉は、机の上に置かれた書類を見た。すると、この書類には、昨日、桂から聞かれた内容が書かれていた。つまり、11年以上まえに、じぶんがかかわり、おこなっていたシゴトにかんするモノである。
(コレはまた、ずいぶんとなつかしい)
じぶんがむかしつくった、参考資料などが基になっているのであろう書類を読みながら、徳吉は、わかる範囲で、じぶんの意見であったり、注意点や指摘事項などを書いていった。
(ザっと、こんなもんか)
「スイマセン、一応おわったんですが」
徳吉は、おわったことをつたえるために、いわれたとおり、デンワをかけた。
「わかった。じゃあ、そのままこのヘヤにいろ。あとでコッチから、またデンワをかける。それまでは休んでて良い」
「わかりました」
デンワを切ると、徳吉はすこし、うれしくなった。なにせ今日は、ツライ強制労働を、おこなわずに済みそうなのだから。
人権というものを、カンゼンにはく奪されているのが、今の彼が置かれた状況・たちばなのである。つまり、普段の彼には、休暇や休憩時間というものなど、あたえられていない。
そして、差しいれでだされたコーヒーを飲みながら、ユックリしていたのだが、ダンダンと、睡魔が襲ってきた。
普段のつかれが、一気にドッとでたのであろうか。イスに座りながら、そのまま、机の上にアタマを乗せて、眠ってしまった。




