変化
「もう時間か。もっとイロイロと聞きたいところだけど、仕方ない。今日はこの辺でおわりにするよ」
「わかりました」
「じゃあ、今日はアリガトウ。たすかったよ」
こう言うと、桂はヘヤからでていった。そして徳吉も、監視官から退室するようにいわれ、ヘヤからでていった。
(この面会は、オレにとってプラスのことか、それともマイナスのことか)
ヘヤをでながら、徳吉は、こんなことをかんがえていた。今のところ、プラスとも、マイナスともいえない。なにせ、プラスの成果・効果も、マイナスの成果・効果も、まったくでていないのだから。
(こういうときは、あえてプラスの一面がないか、探したほうがいいかもしれん)
このような視点・発想・かんがえかた・スタンスは、この11年近くにもわたる、強制労働施設でのせいかつのなかで、編みだしたものである。
なにせ、フダンのせいかつが、つねに苦痛をともなうシゴト・労働であり、なにも良いことがないのだ。
それどころか、すこしの不注意・ミス・失敗で、さらにヒドイ内容の強制労働を課せられたり、サイアクのケースでは、処刑されてしまうことだって、可能性としてありえるのだから。
つまり、カンタンにいってしまえば、この施設における、日常のシゴト・せいかつにおいては、プラスの良いことなど、ほとんどない。むしろ、「ソレとは真逆の、マイナスのイヤなできごとばかり」といっても良いであろう。
こういう状態のなかに置かれている以上、じぶんから意識して、ムリヤリにでも、プラスの良いことを探していかないと、マイナスのことばかりに、しぜんと、目がいってしまいがちである。
そういう状態になってしまえば、どこかのだんかいで、じぶんのミライ・じんせい・うんめいにたいして、カンゼンに、ゼツボウしてしまいかねない。
(こういう施設のなかにいる以上、カンゼンにゼツボウしてしまった、もうソレでおわりだ。たぶんオレは、二度と立ちなおることができない)
このようにかんがえながら、徳吉は、じぶんの作業場所にたいして戻っていった。今日もまた、強制労働のノルマが課せられており、ソレをまだ、終えていないのだから。
と、ここでふと、気になることが出てきた。
(そういえば、今日の作業ノルマが、まだぜんぜん終わってなかったのに、面会客と会わせられたのは、チョット妙だ。施設の監視官どもは、オレたちの人権なんて、まったくかんがえてない。
いつもだったら、オレへの面会なんかより、作業ノルマを達成することを、優先させるはずなんだが。なんでまた今日は、オレへの面会を優先させたんだか)
ソトからきた面会客と会うのは、じぶんにあたえられた権利なのだが、いつもだったら、そのような権利など、まったく考慮されることはない。
だがしかし、なぜか今日のところは、一日の作業ノルマ分が、まだ未達成であるにもかかわらず、面会のほうが、優先されたのであった。
(ということは、今日、オレにたいして会いにきた客は、施設のヤツラにとっても、重要な客っていうことになるのか。
だったら、名刺に書いてあった、あのヒトの肩書きは、もしかしたら、ホントウなのかもしれない)
ちなみに、面会室で会った桂が、徳吉にたいして渡した名刺には、この地区における、地区長の肩書きが書かれていた。
コレは、このちいさな地区だけの限定とはいえ、行政府における、権力者という地位・たちば・肩書きなのである。
(ヤツラ監視官どもは、権力者がやってきたから、今日の作業ノルマがまだ終わってないのに、オレとの面会を、許可したってことになるのか。
だったら、あの桂さんは、かなり出世してることになる。それで、この地区の権力者が、オレにたいして、わざわざ会いにやってきた。
しかも、ほんらいだったら、囚人にたいして、紙切れ一枚だって、モノを渡してはダメなのに、オレに名刺を渡してきた。その上、監視官どもは、この名刺を、オレから取りあげようとしない。
つまりコレは、監視官どもは、桂さんにたいして、カナリ遠慮してるっていうことになるか。だったら、桂さんが権力者になったっていうのも、信憑性があると、かんがえていいかもしれん)
のこりの作業ノルマをおこないながら、徳吉は、このようにかんがえていた。
(もしこの想定があたってれば、オレの運も、すこしは上向いてきたんだろうか。だったら、明日以降、なにかしら、良いカタチで変化があるかもしれない)
徳吉の想定というものは、「変化があるかもしれない」という点では、どうやら、あたっていたようである。




