キッカケ
「そう、あきらめ。なんていうか、あきらめてるからこそ、ヘタにキボウを持つこともないし、フツウだったらおどろいて、パニックになるような状況でも、こんらんすることがすくない。
コレはたぶん、精神的につよいとか、タフっていうよりは、あきらめてるような気がする。極端ないいかたをすると、なんていうか、ゼツボウしてるっていうか」
「ゼツボウねえ」
「そう、ゼツボウ。じぶんのミライやじんせい、うんめいとかに、ほとんど期待してない気がする。
期待したり、望んだり、もとめることがすくない。というか、ほとんどあきらめてるんじゃないか?あのヒトは。
じぶんのじんせい・うんめい・ミライにたいして、最初から、ほとんど期待してない。だから、とつぜん、イッポ間違えば、じぶんのイノチがなくなるような、特殊な事態になったっていうのに、ほとんどパニックにならなかったんじゃないか?」
「たしかに、ソレはあたってるかもしれん。でもだったら、じぶんのミライやじんせい、うんめいとかにゼツボウしてて、あきらめてるようなニンゲンが、なんで強制労働施設に11年近くもいて、自殺してなかったんだ?
じぶんのミライやじんせい、うんめいとかにゼツボウしてるんなら、たぶん、あの施設のなかにいて、生きながらえるとはおもえん」
「なるほど、高井のいうとおりだ。結果的に、オレたちがあのヒトを、強制労働施設からたすけだしはしたが、このことを、事前にまったくつたえてなかった。
つまり、あのヒトからしたら、『いつ施設からでることができるのか。このことが、事前にまったくわからなかった』ったってことになる。
だったら、『じぶんは死ぬまで一生、強制労働施設のなかにて、きつくてツライ強制労働を、死ぬまでさせられる』とかんがえるのが、フツウのことだろうし。
事前のだんかいで、じぶんがたすけだされる。ということが、まったくわかっておらず、知らなかった。そして、じぶんのじんせいやミライ、うんめいとかにたいして、あきらめて、ゼツボウしてる。
こういうタイプのニンゲンだったら、どこかのだんかいで、生きることをあきらめて、自殺するとおもうんだけど」
「でもあのヒトは、自殺することがなかった。コレって、カナリ矛盾してる気がするが」
「だな、ホントウに矛盾だ。まあ、あのヒトはむかしから、アタマのなかで、なにをかんがえてるのか、イマイチ読めないところがあった。
オレもオマエも、ほとんどのニンゲンだったら、『あいてがアタマのなかで、なにをかんがえてるのか』っていうことは、大体のことが、カンでわかるけど、どうもあのヒトだけは、チョット違った。
たしかに、そのときは、なにをかんがえてるのか、カンでわかった気になるが、あとになってから、イロイロ聞いてみると、根が深いというか、『カンでわからなかったことまで、深刻にかんがえぬいてた』っていうことが、何度もあった。こんかいも、たぶんソレじゃないか?
オレたちが、カンで察知することができず、気がつかないようなことを。つまり、そういう『なにか』を、実は、かんがえてるのかもしれん」
「なにか、ねえ」
「いずれにしろ、ほんにんに聞けばいいんじゃないか?そのうち、聞く機会があるかもしれん」
ふたりが、このような会話をしているうちに、徳吉が待機しているタテモノに、クルマが着いた。
ふたりがクルマをおりて、タテモノのなかにはいっていき、地下室のまえに立ち、ドアをノックして、なかにはいってみると、徳吉がイスにすわり、机の上に書類をひろげ、熟読をしていた。
「あ、どうも、徳吉さん。桂さんは支所に戻ったんですよね?」
藤柴が話しかけた。
「そう。桂さんはシゴトに戻ったよ。それにしても、なんというか。因果は巡るってコトバをおもいだした」
「え?どうしたんですか?」
藤柴は、おもわず聞きかえしてしまった。
「因果かんけい。とでもいえば良いのか。あるいは、因果応報とでもいったほうが良いのか。じぶんにたいして、なにかの現象や結果がおきたときに、ソレは、『じぶん自身の過去のおこない・振るまいが、キッカケ・理由・原因になっておきた』っていう視点や発想というか、かんがえかたってあるじゃない。
似たようなコトバに、身からでた錆だとか、自業自得ってものあるけど。いずれにせよ、むかし、じぶんがおこなったことがキッカケ・理由・原因になって、今のじぶんの置かれた状態や結果になった。
つまり、因果かんけいがあって、じぶんにたいして、因果が巡ってきた。とでもいえばいのか。蒔いたタネが、実ったといってもいいのか」
そういうと、徳吉は、藤柴と高井にたいして、ひとつの書類を、机の上にひろげて見せた。
「ふたりとも、っていうか、桂さんも、この書類を読んだってこといいよね?」
「ええ、そうです」
「ちなみに、この地下室にある書類は、君たちが、かつどうしてることにかんする、参考資料ってことで合ってるよね?」
「そうですよ。だからこの場所に置いてあります」
「なるほど」
こういうと、徳吉は、イスの背もたれに寄りかかり、天井を見ながら、なにやら思案しているようすであった。
「どうしたんですか?」
高井が、徳吉にたいして聞いてみると、徳吉は、カオをふたりにむけて、ハナシをはじめた。
「この書類を基にして、君たちは、かつどうしてるんだよね?」
「ええ、そうです。というよりも、この書類を読んだことがキッカケになって、われわれ3人は、かつどうをはじめたんです」
「そうか、コレがキッカケになったのか。なるほどねえ。ちなみに、キケンを犯してまで、強制労働施設からオレをたすけだしてくれたのは、『オレに、おこなわせたいことがあるからだ』と、たしか言ってたけど。その内容っていうのは、この書類に書かれてることじゃない?」
「そのとおりです」
高井と藤柴は、揃って答えた。
「じぶんと高井、桂さんで話しあって、『この書類に書いてることを、イザ実際におこなうとなると、ひつようになるタイプのニンゲンは、ダレなのか』っていうことをかんがえて、検討したんです。
すると、じぶんと高井は、おたがいに、徳吉さんのカオとナマエが、アタマにうかんできたんです。
ソレで、そのことを、桂さんにつたえたんですが、桂さんは、徳吉さんと、ほとんど面識がなかった。ですから、直接会ってみたいとおっしゃいまして。
強制労働施設にいた徳吉さんにたいして、桂さんが会いにいった動機や狙い、理由・もくてきのひとつは、徳吉さんのことを、『どういうニンゲンなのか、直接会って、知りたかった』っていうのも、あったみたいです」
「なるほど、ソレで、ほとんど面識のなかったオレに、あのヒトは、わざわざ会いにきたってことか。
こうしてオレを、たすけだしてくれたっていうことは、桂さんのおメガネに適った。っと判断して良いんだろうか」
「もちろん、ソレで合ってるとおもいます。でなければ、そもそも徳吉さんを、この場所につれてきませんよ。この地下室は、あくまでも、オモテ向きには、そんざいしていない場所なんですから」
「そりゃそうか。藤柴くんのいうとおりだ。コイツは、ダメなヤツだと判断されたら、この場所には、つれてきてもらえないか。というか、あの施設に送りもどされて、処刑されたとかんがえたほうがいいか」
「そうですよ」
高井と藤柴は、揃って答えた。
「君たちのいうことを、信じるとするよ。ソレで、チョットした好奇心というか、ギモンがあるんだけど。君たち3人は、この書類に書いてることを、オレにおこなわせたい。コレは合ってるんだよね。
じゃあ、もうズバリ聞くが、この書類をつくったのが、オレだっていうことも、君たちはもう、とっくにカンづいてる?」




