文系特化
「ん?なんだよとつぜん」
藤柴の発言にたいして、高井は、おもわず聞きかえしてしまった。
「だってさあ。11年近くも強制労働施設にいれられてて、ソレでとつぜん、むかしの知りあいが訪ねてきて、死人というカタチでたすけだされた。
その上、ついさっきまで一緒にいた、施設の囚人たちが、つぎつぎに、処刑されてるのを見せられた。イッポ間違えたら、じぶんがそういう目に遭っていた。
こういう状況だったら、ダレでもパニックになって、アタマがまわるワケない。たぶん、オレたちのなかで、一番カンがするどい高井だって、そういう状態になったら、アタマがまわらんだろう」
「ソレはまあ、たしかにそうか。そういわれると、そうかもしれん」
「だろ。ソレがフツウっていうか、アタリマエのはずなんだって。でもあのヒトは、多少はこんらんしてたが、パニックってほどじゃなかった。
ソレで、その処刑される光景を目にしながら、オレたちがたすけだした動機や狙い、理由やもくてきを、わずかな情報や事実から、ズバッと言いあてたけど、コレも、良くかんがえてみれば、チョットおかしいんじゃないか?
ああいう状況下で、つまり、ほんのすこしの手違いで、じぶんが死んでたかもしれん状況なのに、些細な情報や事実を見のがさず、すばやくソレをまとめ上げて、テキセツな仮説やけつろんを導きだすっていうのは、フツウのニンゲンに、できるような芸当とはおもえん」
「たしかに、ソレはあるかもしれん。たぶん、あのヒトのはカンじゃないな。オレとは、というか、オレとオマエとは、チョット違う気がする」
高井は、もうすこし、なにかいいたそうであったが、どうもソレ以上は、うまく言語化して、コトバすることができないようすであった。
「オマエのいうとおりだとおもう。オマエは、オレ以上にカンがするどい。でも、オレよりもリクツがすくないから、うまくいえないんだろうけど。
たぶん、オマエがいいたいことを、オレなりにいうとだ。オレたちは、まずアタマのなかに、なにかしらの案・けつろん。というか、ゴールのようなモノがうかぶ。そのあとに、ソレがあたってるかどうか、アレコレと、かんがえるタイプなんだとおもう。
いいかたを変えると、アタマのなかに、まずは絵というか、映像がうかぶ。ソレで、その絵や映像がうかんだら、ソレを、コトバやリクツでもって、アレコレと、合ってるかたしかめる。
ソレにたいして、あのヒトは、たぶん真逆なんだろう。いきなり仮説・けつろんが、アタマにうかぶことはない。
たぶん、そうじゃなくて、あつめた情報や事実を、もっというと、それらのカケラを積みかさねて、うまく組みあわせたり、組みたてていって、カタチづくっていくんだろうね。レンガを積みあげて、タテモノをつくっていく工程に似てるかもしれん。
さっきの絵や映像でいうなら、あのヒトはたぶん、アタマのなかで、最初に絵や映像は、見えてないとおもう。
そうじゃなくて、たぶん、コトバを積みあげて、つなぎあわせて文章にして、そのイミを、つくっていくんだとおもう。
オレやオマエと違って、まず最初に、仮説・けつろん、絵や映像が、アタマにうかぶことはない。
だからこそ、あたらしいジケン・できごと・ものごとを、すぐに理解したり、イキナリ答えがわかるっていうワケじゃない。
というよりは、かんがえていくうちに、ダンダンと、答えが見えてくる。というか、仮説・けつろんが、組みたてられてくる。
ダンダンとコトバがあつまり、つながっていって文章になり、イミを持って、絵や映像のようになってくる。そういうタイプなんだとおもう」
「つまり、オレとオマエは理系で、あのヒトは、文系っていうことになるのか」
「端的にいえば、そういうことになるか。もっというと、高井、オマエはカンゼンに、理系特化タイプのニンゲンだろうね。
ちなみに、オレも理系のニンゲンなんだけど、やや文系に近いというか、文系寄りの部分もある。ソレにたいして徳吉さんは、カンゼンに、文系特化っていうタイプのニンゲンだとおもう。
ソレで、その文系特化っていうタイプなんだろうけど。あのヒトは、さらに、特殊なタイプかもしれん」
「というと?」
「ものごとを、コトバやリクツをつかって、それらを積みあげてかんがえるっていう、文系のニンゲンとはいっても、フツウだったら、あるていどは、カンをはたらかせるというか、すこしくらいは、リクツやコトバを省くだろう。
10割のうち、コトバやリクツで表現したり、せつめいするのは、大体半分くらいか、おおくても、8割は超えることはまずない。
つまり、文系特化タイプのニンゲンとはいっても、のこりの5割から2割は、リクツやコトバを省いて、カンというか、感覚に頼るんだよなあ。
でもあのヒトは、極端なハナシになるが、カンにたよる部分が、ほとんどゼロに近いかもしれん。
つまり、1から10まで、ほとんど10割すべてのことを、リクツやコトバをつかってかんがえて、判断し、理解し、把握してるような気がする。
正直なところ、今まで生きてきて、あのヒト以外に、こういうタイプのニンゲンっていうのに、オレは会ったことがない。
オレやオマエみたいに、カンをはたらかせるニンゲンっていうのは、あるていどはいたとおもう。
まあ、ソイツらのカンのするどさが、どのていどのレベルか。っていうのはハナシがべつとしても、まずはカンをはたらかせて、そのカンが、あるていどハズレない。そういうタイプのニンゲンっていうのは、オレたちのほかにも、すこしはいた。
あるいは、カンは弱いけど、その分だけ、理づめのかんがえをしてて、カンに頼る部分がすくない。っていうタイプも、あるていどはいた。
でもあのヒトは、それらとは、チョット違うとおもう。じぶんが見たり、聞いたり、体験したことを、あるいは、アタマのなかでかんがえたことを、1から10まですべて、言語化してコトバにして、ソレを理づめで積みあげて、組みたててる気がする。
コレはあくまでも、オレの想像になるんだけど、こういうタイプのニンゲンは、フツウだったら、ほとんどカンがなくて、感覚がニブイもんだから、予想外の状況に出くわすと、パニックになるはずなんだよ。
でもあのヒトは、とつぜん強制労働施設からつれだされても、その上、目のまえで、囚人たちの処刑の光景を見せられても、ほとんど、動揺してないように見えた。
コレって、フツウだったら、もっと動揺したり、パニックになったりして、現状を把握するのに、ながい時間がかかるとおもうんだけど。
でもあのヒトは、そういうようすは、ほとんどなかったようにおもえる。オレにはそう見えたんだけど、どうおもう?」
「そのとおりだ。オレから見ても、ほとんど動揺してなかったし、パニックになってなかった」
と、高井は答えた。
「オマエから見ても、そうおもったか。それにしても、コレってかなり、あのヒトの特殊性っていうものを、表してるかもしれん。
オレが想像するに、なんでほとんど動揺せず、パニックにならなかったのかっていうと、おそらくソレは、あきらめてるからだとおもう」
「あきらめ?」




