パズルのピース
「ソロソロじゃないか?」
高井が、藤柴にたいして話しかけた。
「なにがだ?」
「ソロソロ桂さん、徳吉さんを、あの施設の地下室に、連れていったとおもうけど」
「だろうね。時間的に、今ごろ桂さんは、支所にもどってシゴトをして、徳吉さんは、地下室でやすんでるか、資料を読んでるんじゃないか」
「徳吉さんは、オレたちのやってることを知って、どういう感想をもつだろうか。まあ今さら、強制労働施設にもどることはできないし、じぶんが死んだ身分ってことを、十分わかってるだろうから、あのヒトからしたら、キョヒ権ってものがないか」
「たぶん、そういうことになる。高井のいうとおりだろうね。あのヒトからしたら、どこかに行くアテなんて、まずないだろうし。だから、オレたちにたいして、否応なく、協力するしかないとおもう」
「つまり、選択肢がないってことになるのか」
「そういうことになる。でもまあ、オレたちが知ってるあのヒトの性格からしたら、コレもなにかの縁だとか、うんめいや運だろうってかんがえて、積極的かどうかはわからんが、なんだかんだいって、協力してくれるだろうとはおもうけど」
ふたりは、このような会話をしながら、第4地区を、クルマで走らせていた。徳吉がいる施設に向かうまえに、まだあと一カ所、行くところがあった。
「とりあえず、今日まわったところは、順調っていうことで良いとおもうけど、藤柴はどうおもう?
オレの見たところ、ハッキリと反対したり、イヤがってるようなヤツは、いなかったとおもうけど」
「オレもおなじ意見だ。おそらく、ハッキリと反対するツモリもないが、積極的に協力したり、賛成するっていうヤツも、いなかったと感じた。でもまあ、コレがフツウだろう」
「だな。まずはちいさくても、最初のイッポを踏みださんことには、なにもはじまらん」
「そのとおりだ。最初のイッポはちいさいだろうが、オレたちの見立てだと、コレはおそらく、そのうちおおきなウネリというか、うごきになる。
おそらくは、そのときにこそ、ものごとを順序立てて、うまくまとめて、組織的におこなって、進めていくようなタイプのニンゲンがひつようになる。つまり、徳吉さんのようなタイプだろう」
ふたりが乗っているクルマは、第4地区にある、つぎのもくてき地に着いた。
「いつもどおり、あいてにつたえるのはオマエにまかせるから、ヨロシクたのむ。オレは所々、意見をいったり、補足するのにとどめる」
クルマを降りながら、高井が、藤柴にたいして話しかけた。
「わかった」
もくてき地のタテモノは、第4地区の街中にあった。街とはいっても、けっして大キボなものではない。中小キボの街といって良い。
なぜならば、第4地区は、キホン的に貧しい。そのために、ニンゲンが、たくさんあつまって住めるほど、経済が発展していないのだ。
(この地区の有力者が持ってるタテモノとはいっても、貧相なもんだ。税を吸い上げられるくせに、その見返りがないんだろう。
フツウなら、税金をはらったら、その見返りに、なにかしらのカタチで、行政サービスだとか、インフラの整備だったりがあるもんだが、第4地区のニンゲンには、ソレがあたえられない。
こんなんじゃあ、そのうち、フヘイ・フマンがバクハツしかねん。そうなるのは、ソロソロ時間のもんだいか)
街のようすを見ながら、藤柴はおもった。
「高井、今から会うあいても、たぶんオレたちのことを、第3地区のニンゲンだから、まず疑ってかかるだろう。だから、気をつけていけよ。あいての感情を害するようなことを避けるため、穏やかにな」
「ああ、わかってる」
高井がこのように答えると、ふたりは、タテモノにはいっていった。
一時間くらいであろうか、タテモノのなかから、ふたりがでてきた。
「これで、今日まわるところはすべておわった。じゃあ徳吉さんがいるであろう、第3地区の施設に向かうか」
高井が、藤柴にたいして話しかけた。
「だな、あんまり待たせると、あのヒトにワルイ。ソレに、れからやってもらうことを、早いうちに、チャントつたえるほうがいい。
なにせ、もしかしたら、すぐうごいてもらうことになるかもしれん。だからこそ、早目につたえておきたい。
ちなみに、オマエの見立てだと、うごきだすのはいつ頃だとおもう?こういうときは、高井の直観を聞いたほうが、あたるような気がする」
「どうだか。ちなみのオレのカンだと、ヘタすると、ホントウに、すぐうごきだすかもしれん」
「すぐっていうと、いつくらいだよ」
「いやもう、ホントウに、今すぐってイミで」
「今すぐっていうと、極端なハナシになるが、今日とか明日っていうことか?」
「そういうこと」
「そりゃまた、ずいぶん急なハナシになるけど。でもこういうときの高井のカンは、案外あたるんだよなあ」
「あたるかどうかはわからんが、ものごとが、急にうごきだす気がする」
「その理由はいえるか?」
「いや、しょせんはただのカンだから、理由を言えといわれても、スマンが、ハッキリとはいえそうにない」
「そりゃそうか。理由をハッキリいえんからこそ、カンなんだろうし」
「とはいえ、おぼろげならいえるかもしれん」
「というと?」
「欠けてたパズルのピースが揃ったから、急にうごきだす気がする」
「欠けてたピース?なんだよソレは」
「いや、もうわかってるだろ。徳吉さんのことだよ」
「あのヒトが、欠けてたピースか。たしかに、今までのオレたちにとって、欠けてたタイプのニンゲンだっていうのは、たしかだろう。
ああいうタイプのニンゲンっていうのは、そもそも、ほとんどいないだろうし。今までオレたちが会ったニンゲンのなかで、ああいうタイプのニンゲンっていうのは、徳吉さんだけだった」
「ソレは、オレもまったく賛成。似たタイプのニンゲンを、チョットおもいうかべることができん」
「正直なところ、オレはチョット、ゾッとしたんだよ」




