地下室
(ん?なんだろうこの間は、オレはなにか、マズイことでもいったか?)
桂の沈黙にたいして、徳吉はすこし、不安を感じてしまった。
「いやあ、ホントウにおどろいたよ。あのふたりのいったとおりだ。徳吉くんは、ものごとのダンドリというか、順序ってものを、キチンと踏まえてかんがえるタイプと聞いてたんだよ。
そのときに、すこしでも違和感や不自然さ、ムリや矛盾、欠落したり、欠けてるところがあると、すぐに気がつく。
だから、『ものごとをおこなったり、うごくようなときは、その理由を、チャントかくにんするニンゲンだ』と、こう聞いてたんだよ」
「そうですか、あのふたりが、そんなことをいってましたか」
実は今、高井と藤柴は、このクルマに乗っていない。徳吉は、先ほどの強制労働施設における、特殊ケイサツの処刑を見たあと、クルマに乗って、今の場所に向かっていたのだが、その途中、れんらくがきて、ふたりは、べつ行動を取ったのであった。
「徳吉くんのいうとおり、君はオレと、おなじ支所にいたんだけれど、面識がほとんどなかった。たしか、数回だけ会ったり、ハナシをしたことがある程度だった。
だから、オレだけのかんがえでは、おおきなキケンやリスクを冒してまで、君を、強制労働施設からたすけだす。っていうことを、判断できないし、決断もできなかった」
「でしょうね、ソレがフツウのことですよ。しかも、施設のニンゲンにたいしては、『べつの場所で処刑する』と、ウソまでついてるワケですし。
もしもコレが、施設のニンゲンにたいしてバレてしまえば、もしかしたら、支所長の地位を失いかねません。
たすけてもらったオレがいうのも、ヘンなハナシですがね。そんなキケンやリスクを犯すことは、バカげてるとおもいます」
「ホントウに君は、ものごとをおこなったときの動機や狙い、もくてき・理由とかを、チャント把握するよね。
おそらく、君にたいしては、隠しごとはむずかしいだろうね。短期的にはウソをついて、ダマすことができたとしても、いずれは、ホントウの狙い・もくてき、理由・動機とかを、察知しそうだよ」
「どうでしょうね。じぶんでは、良くわかりませんが」
「そこまでわかってる君があいてだったら、イチイチ隠したり、ごまかす理由やひつようはないだろうから、ズバリいってしまうと、あのふたりが、『なんとしても、君のことをたすけだしたい。コレからおこなう行動・かつどうには、君がゼッタイに、ひつよう不可欠なニンゲンなんだ』と、つよくオレにいってきたんだよ。
極端なハナシになるけれど、君がいないと、ふたりがおこなうかつどうが、破たんする。とまでいってた」
「破たんですか、ソレはまた、チョット大げさというか、オレのことを、過大評価しすぎてるような気もしますが」
「いや、そんなことはないとおもう。ここまでの君との会話をかんがえてみても、ふたりの意見は、たぶん、ただしいとおもう」
「そういえば、ふたりはここに着くまえに、別行動を取りましたが、一体なにをしに行ったんですか?」
「そういえば、ソレをまだいってなかったか。でもまあ、ソレもふまえて、とりあえず、この施設にはいることにしよう。そのなかでせつめいするよ」
こういうと、桂はクルマから降りた。そのあと、徳吉もクルマから降りた。
施設にはいったのだが、やはり無人のようであり、べつだん、気になることはなかった。
(この施設が、一体なんだっていうんだ?)
こうおもいながら、徳吉は、桂のうしろをついていった。そして桂は、一室のなかにはいり、床の絨毯を取った。すると、そこの床には、ドアとカギ穴があった。
桂は、そのカギ穴に、カギを差しこんでまわし、ドアを上にあげた。そのドアの下には、地下につづく階段があった。
(なんか、いかにもって感じのヒミツのヘヤだなあ。この先に、一体なにがあるのか)
桂につれられて、地下の階段をおりていくと、すぐ先にヘヤがあった。そのヘヤのなかにはいると、いくつかの机やイスがあり、本棚もあり、通信機器も置かれていた。
(一見すると、なにかの作業部屋とか事務室に見えるか。でも、なにをするヘヤなのかまでは、パッと見ただけではわからん)
「このヘヤは、フダンから、ニンゲンがいるワケじゃないんだよ。ときどき、ひつようなときに、このヘヤに滞在して、なにかのシゴトや作業をしている。つかってるのは、主に、高井君と藤柴君のふたりだね」
「そうなんですか。あのふたりが、ここをつかってるんですか。ちなみに、今は無人なんですよね?」
「そのとおり、もともと無人っていうのがタテマエの施設だから、そう何人も、フダンから、ニンゲンがいるワケにはいかない。
ソレに、フダンからニンゲンがいて、せいかつすることができるほど、器具や道具があるワケじゃないしね。
だから、『ひつようなときに、ひつような時間だけ、ここに滞在している』っていうのが現状だね」
「たしかに、フダンは無人の施設なので、『ニンゲンが長い期間、滞在することができる状態を揃える』っていうのは、カナリ、ムリがありますよね。もしもソレを用意するとなると、それなりの工事がひつようになりますし。
となると、たくさんのおカネがかかる。もっといえば、フダンからニンゲンがそこにいれば、電気や水道やら、イロイロと費用がかかります。つまり、どこかのだんかいで、ダレかにバレることになる」
「そのとおりだよ。いくらオレが支所長のたちばでも、ほかのニンゲンの目を、カンゼンにごまかして、そこまでやれるほどのチカラはない。
だから、あくまでも、みじかい期間のあいだ、ニンゲンが滞在することができるように、地下にあった倉庫を、チョット改造しただけだよ。
この地下室は、『ダレかに見つからないように、とくべつに隠された、ヒミツのヘヤ』っていうほどじゃない。
つまり、特殊ケイサツに見つからないほど、徹底的に、隠されてはいない。だって、絨毯を取れば、すぐに出入り口が見つかるからね。
だから、もしもダレかに、たとえば、特殊ケイサツとかにバレたとしても、非常時用のシェルターとでもいえば、ごまかせるだろうし」
(なるほど、へタに見つかりにくい、ヒミツめいた場所につくれば、ソレが見つかったときに、かえって、その意図やもくてきを怪しまれ、疑われることになるか。良くかんがえられてる。それにしても、なんでオレを、ここにつれてきたのか)
「それにしても、桂さん、オレは一体、このヘヤのなかで、なにをすればいんでしょうか?」
「そうだった。ソレをせつめいすべきだね。とりあえず、高井君と藤柴君のふたりが返ってくるまで、このヘヤのなかにいてほしいんだよ。これからのことは、ふたりが帰ってきてからハナシをするよ」
「そうですか、わかりました。ちなみにふたりは今、どこにいってるんですか?」
徳吉がこう聞くと、桂は本棚にあった地図を取りだした。その地図は、第3地区だけでなく、そのトナリにそんざいする、第4地区も記した地図であった。
「あのふたりは、今この第4地区に行ってるよ。ところで、オレはまだシゴトがのこってるから、支所にもどることにするよ。ワルイんだけど、しばらくのあいだ、ここにいてもらっていいかい?
そのうち、ふたりが帰ってくるだろうから。それまでは、このヘヤにいて、ユックリして、カラダを休めたらいい。
おもうに、とつぜん強制労働施設からつれだされて、急な展開がつづいて、カナリつかれてるだろうから」
「たしかに、そのとおりなんです。正直なところ、つかれがドッとでてきて、グッタリしてます」
「だろうね。さっきから、カオに覇気がない。このヘヤには、すこしばかりの飲料と、食べものも置いてある。ヨコになって、カラダをやすめるソファーもある。ユックリしておいてよ」
「ええ、そうさせていただきます」
「ソレと、いちおうこの施設は、フダンは無人っていうカタチになってる。だから、この地下室からでて、施設のほかの部屋や場所にいくときは、外から見えるところでは、明かりをつけないように気をつけて。
トイレやシャワーは、ソトから見えない奥の場所にあるから、明かりをつけてもらってかまわんよ。
あと、この地下室の本棚には、われわれがフダンおこなっている、かつどうにかんする資料も多少はあるから、自由に読んでもらってかまわないよ。
おそらく、今の徳吉くんは、イロイロなギモンがアタマのなかで、あふれかえってるだろうからね。
われわれがおこなってるかつどうを、チャント理解してもらうためには、最初から、ていねいに説明するひつようがあるんだろうけど、ざんねんながら、今のじぶんには、そのための時間がない。支所長としてのシゴトが溜まっててね。
くわしいことは、ふたりが帰ってから、イロイロと聞くと良いよ。でも、それだけじゃ不十分かもしれない。
だから、じぶんの目で資料を読んでもらったほうが、良く理解して、納得してもらえるとおもうのでね。
特に、君のような性格だったら、じぶんでチャント理解して、納得をしないかぎり、気が済まないだろうし」
「そうですね。まさにおっしゃるとおりです。ずいぶんとワタシの性格を、ご存じなんですね」
苦笑しながら徳吉はいった。
「いや、コレもあのふたりからの受け売りだよ。ふたりから、徳吉くんの性格やかんがえかた、価値観とかを、今日たすけだす前から、何度か聞かされたからね。
ソレで、実際に今日、あらためて、君と会ってハナシをしてみたら、ふたりから聞いてた内容は、あたってるとおもえた」
「そうですか。ふたりから、ワタシの性格とかを聞いてたんですか」
「そういうことになる。とまあ、オレはソロソロ支所に向かわせてもらうよ」
こういと、桂は施設をでていった。
のこされた徳吉は、ソファーに座り、ヘヤにある資料を読んでいたのだが、ダンダンと、つかれがでてきたのであろうか。いつの間にか、ソファーの上でヨコになり、眠りについた。




