理由や動機
クルマに乗せられて、徳吉は、桂が支所長をしている地区に着いた。だがしかし、その支所のタテモノのなかに、はいっていくことはなかった。そもそも徳吉は、死人というカタチ・たちばなのである。
もっといえば、「一旦強制労働施設にはいったニンゲンが、戻ってくる」ということは、滅多にあることではない。
ということであれば、徳吉を知っているニンゲンが、もしも、徳吉のスガタを見てしまえば、ケイサツにたいして通報されかねない。
クルマは、支所自体に入っていくことはなかったが、支所が保有しているという、外部施設に向かっていった。その施設は、桂が支所長をしている地区のなかで、もっとも中心から離れた場所にあった。
(この施設は、たしか、オレが支所にいたときからあったか。この第3地区のなかで、もっともソト側というか、第4地区に近いところにある。
ソレで、フダンは無人の施設で、ダレもニンゲンがいなかったとキオクしてるが、今はどうなのか)
その施設に着いてみると、あいかわらず、ニンゲンがいる気配はしなかった。
「この施設って、たしか、オレが支所にいたときもあったとおもうんですが、今も無人のままなんですか?」
徳吉は、桂にたいして聞いた。
「そうなんだよ。いちおう、無人っていうことになってる。なにせ、第4地区にいるニンゲンとかかわることは、フダンないからね」
「というと、年に何度か、第4地区のニンゲンたちとかかわるときだけ、職員が駐在するっていうことですか?」
「そうなるね」
(じゃあ、なんでオレを、この施設につれてきたのか。いちおう無人といってたが、いちおうってことは、実は、ニンゲンがいるってことか?)
「いちおう無人っていうことは、ソレはつまり、オモテ立って駐在はしてませんが、実は、ウラで隠れて、ニンゲンがいるっていうことですか?」
「そうなんだよ」
(こういう施設に、オレをつれてくるっていうことは、ヤッパリ、オモテ立ってうごけない、ソトにたいしてバレたらこまることを、ヤレっていうことなんだろう)
強制労働施設からたすけだしてもらい、「特殊ケイサツと、似たようなシゴトをする」ということを、承知したとはいっても、正直なところ、不安を感じていた。
(あのまま強制労働施設にいたら、かくじつにコロサレてた。そういうワケだから、今さらウダウダいうツモリはない。
たすけてもらった以上、イチイチ文句はない。でも、オレにそういうシゴトができるとは、とてもじゃないがおもえん)
「あの桂さん、チョットいいですか?」
「どうしたんだい?」
「さっき、特殊ケイサツが、施設の囚人を処刑してたようすを見て、オレにはもう、戻れる場所がないというか、後戻りができないっていうことは、わかってるツモリなんです。
でも、オレは今まで、特殊ケイサツがやってるような、情報の収集や分析だったり、ウラでうごくようなことは、一度もやったことがないです。
だから、オレにそういうシゴトをさせるっていうのは、じぶんでいうのもなんですが、大丈夫なのかと、不安があるとおもうんですが。
というか、そもそも、なんでオレにたいして、そういうシゴトをさせよう。っておもったんですか?
ほかにも、そういうシゴトを経験したことのあるニンゲンだとか、適任者はいるとおもうんですが。
もしも、オレが桂さんのたちばだったら、そういう経験がない上に、じぶんがほとんど知らないニンゲンなんですから、オレを選ぶっていうことは、まずしないとおもうんです。ほかのニンゲンをあたる気がします。
だから、なんでオレを選んだのか、その理由や動機ってものが、サッパリわからんのですが。差しつかえなければ、おしえてくれませんか?」
「いや、じぶんをそんなに卑下することはないとおもうよ。ついさっき、断片的で、わずかな情報や事実から、オレたちの狙いや動機というか、ホンネやもくてきを、ズバリと見事にあてたじゃない。
つまり、そういうところを、われわれとしては買ってるんだよ。期待してるといってもいい」
「ソレはアリガトウございます。でもコレは、情報の収集や分析、ウラでの工作・かつどうといったことと、ほとんど無かんけいですよね。こういうことだけで、オレを選ぶっていうのは、どうなんだろうかと。
ソレに、さっきオレが推理して、推測したっていうのは、あくまでも、施設からたすけだしたあとじゃないですか。つまり、たすけだす前のだんかいで、オレがソレをしたワケじゃないんです。
オレが推理し、推測するまえのだんかいで、なんでまた、『強制労働施設からたすけだす』っていう、おおきなリスクというか、キケンを犯したのか。その理由や動機が、サッパリわからないんですよ」
この徳吉のコトバを聞いた桂は、すこしだまってしまった。




