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処刑

(となると、もしかしたら、アイツはもう、今の支所にいないんだろうか。だったら、ほかの支所や部署に異動したか、出世して上にいったか。それとも、支所をヤメたってことになる。

 アイツはたしか、あの地区の党員の幹部だった。だから、そうカンタンに、ほかへの異動があるとはおもえん。なら支所をヤメたか、あるいは出世して、上にいった可能性がたかいか)

 今さら、じぶんを陥れて、無実の罪をかぶせたあいてのことを、イチイチ知ったところで、どうしようもない。

 だがしかし、じぶんをこういう境遇におとしいれて、じんせいを、メチャクチャにしたニンゲンなのである。

 このことにたいして、徳吉は、今でも根に持っており、つよいウラミを持っている。そのために、どうしてもアタマから、このニンゲンのことが、消えてくれない。

(アイツはたしか、学歴はたいしたことなかったはずだ。ソレに、アタマの回転も、それほどはやくなかった。とくべつに優秀だとか、有能なタイプじゃなかった。

 上にたいして媚びを売ったり、へつらったりすることで、あの地区の幹部に出世したっていうヤツだった。

 だから、今はもう支所にいないとして、その理由が、出世っていうことはあるかもしれん。上に媚びを売りつづけて、うまくやりやがったのか)

 このようにかんがえると、ダンダンと腹が立ってきた。コレはもう、しかたないであろう。なにせ、じぶんを陥れて、無実の罪をかぶせたニンゲンが、その罰を受けずに、出世しており、オイシイ思いをしているとなれば、ダレであっても、腹がたたざるをえない。

 だがしかし、ここまでかんがえて、徳吉は、ふとギモンを持った。ソレは、もしもホントウに、出世しているのであれば、それこそ、今の支所長である桂の行動というものを、より把握し、コントロールすることができそうなのである。

 となれば、こんかい桂が、「強制労働施設を訪問し、徳吉にたいして会いにきた」という行動は、なおさら不可能になりそうなのだ。

(となると、もしかしたら、アイツは支所をヤメたんだろうか。でも今の時代、シゴトをヤメたら、つぎのシゴトなんて、そうカンタンに、見つかるはずがない。

 ソレに、そもそもあの地区の支所で、党の幹部をやってたようなヤツが、転職をするっていう選択肢や発想を、持てるワケがない。

 党にたいして、すべてを捧げることになるだろうから、じぶんのかんがえで判断して、なにかを選び、おこなうっていうことが、できるとはおもえん)

 徳吉は、今の支所長である桂にたいして、じぶんをワナにハメた元上司のことについて、質問をしたくなった。

「スイマセン桂さん、チョットお聞きしたいんですが、オレをハメた元上司っていうのは、その当時、支所の党の幹部だったニンゲンなんですが。コイツは、今はもう支所にいないんですか?」

「そうなんだよ。よく気づいたね」

「ヤッパリですか。いや、もしもソイツが、今もまだ支所にいるんだったら、桂さんが、オレにたいして会いにくるのを、なんとしてもジャマしたり、妨害するだろうとおもいまして。

 なんせアイツは、あの支所における党の幹部でしたから。そうなると、支所長の桂さんといえども、アイツの意向ってものを、無視することはできないでしょうし。

 まして、アイツとしては、じぶんの悪事というものが、支所長である桂さんにたいして、バレるキケン性やリスクがあるワケですし、必死になって止めるとおもいます」

「たしかに、ソレはそのとおりだとおもう。ソイツがいないからこそ、徳吉君に、会いにいけたっていうのはあるね」

「ちなみに、オレの元上司っていうのは、今はどこで、なにをしてるんですか?」

「いや、君の元上司は、もうこの世にいないんだよね」

「え?ってことは、死んだっていうことですか?」

「そうなんだよ」

「ソレは一体、なにがあったんですか?病気や事故ですか?」

「そういうのじゃなくて、たんじゅんに、捕まって処刑されたんだよ」

「捕まり、処刑ですか」

「そうなんだよ」

「ああいうヤツでしたから。なにか悪さをして、ソレがバレたんでしょうか?」

「ぐたいてきに、『なにかの悪事がバレたから捕まった』というよりは、フダンの言動、おこないから、反体制的なニンゲンじゃないかと疑われて、特殊ケイサツにつかまり、強制労働施設に送られたんだよね。

 そのすこしあとに、その施設のなかで処刑された。と、こういう風に聞いてる」

(反体制的なニンゲンと疑われて、つかまったのか。たしかにアイツは、不用心で慎重さに欠けるようなところがあった。あの地区での党員の幹部だったくせに、やたらとフヘイ・フマンをいってたか。

 だから、そういうフダンの発言やおこないが、さらに上の連中の目に止まり、ミミにはいり、疑われたっていうのも、あるイミで、とうぜんといえるかもしれん。なるべくして、そうなったっていうことか)

 徳吉は、このようにかんがえたのであるが、チョットしたギモンもまた、湧いてきてしまう。

 ソレは、「反体制的なニンゲンと疑われただけで、イキナリ処刑されてしまうのか」ということである。

 たしかに、反体制的なニンゲンと疑われれば、強制労働施設にたいして送られてしまう。そういうケースというものは、たしかにそんざいしている。現に、つい先ほどまで、徳吉自身がそうだったのだから。

 だがしかし、「強制労働施設に送られたニンゲンが、すぐに処刑されてしまうのか」となると、コレはまた、ハナシがべつなのである。

 なにかハッキリとしたカタチで、反体制的なおこないをしたり、あるいは、体制にたいして、被害・損害をあたえないかぎり、すぐ処刑されるとはおもえない。

 なにもコレは、人命を尊重するという、人道的な配慮からではない。たんじゅんに、強制労働施設に収容されている囚人は、ドレイあつかいであり、強制労働をさせるニンゲンなのである。

 そのために、すぐにコロシてしまえば、その分だけ、こきつかうことができるドレイが減ってしまい、はたらかすことができないのだ。

 だからこそ、労働力を減らす行為である処刑が、「ハッキリとした罪状がないのに、イキナリおこなわれる」ということは、すくないのである。

 にもかかわらず、徳吉の元上司は、強制労働施設に送られたすこしあとに、処刑されたという。

(ということは、アイツは施設にはいったあと、なにかおおきなトラブルやもんだいを、引きおこしたっていうことになるのか。

 でも、じぶんの時間や空間、場所のない施設のなかで、たいしたことがやれるとはおもえん)

 「まさかとはおもいますが。オレがつくった書類を、勝手に強制労働施設にわたした元職員っていうのは、オレを陥れた、元上司なんですか?」

「そうなんだよ」

 と、桂はこたえた。

「コイツがつかまったときに、どんなヤツなのかと、過去のことをしらべてみたら、イロイロと、もんだいのあるニンゲンだとわかった。

 たとえば、じぶんのミスや失敗を、たにんのせいにしたりする。特に、『部下にたいして、じぶんのミス・失敗のせきにんを、ムリヤリなすりつけていた』っていうケースが、何度もあった。その被害者やギセイ者が、何人もいたんだよ。

 露骨にいえば、自分の部下を、トカゲのシッポのようにして、あるいは、スケープゴートのようにして切りすてることを、何度もおこなってた。

 ソレで、過去に、コイツの部下だったニンゲンのことをしらべたら、なんとそこに、徳吉君のナマエがあった。

 コレを知ったときに、『高井君と藤柴君が、コレはおかしい。調べるべきだ』っていいだしたんだよね」

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