面会
強制労働施設にある廊下を、監視官につれられて、ひとりのオトコが歩いていた。そして、指示された場所にある、イスに座った。
「囚人番号888番、徳吉イキチ、ヘヤにはいれ」
監視官に呼ばれ、面会室にはいったとき、徳吉は、なんともいえない表情になった。ソレは、すこしばかりの懐かしさと、すこしばかりのとまどいだった。
(なぜこのヒトは、オレに会いにきた?)
面会室で、じぶんにたいして会いにきたニンゲンを見たとき、ダレなのか、すぐわからなかったのだ。
つまり、徳吉にとって、「じぶんにたいして面会にきた」というニンゲンは、それほど面識のあるニンゲンではなかった。
(ナマエは、たしか)
ちなみに徳吉は、あいてのナマエを、すぐおもいだすことができなかった。つまり、このニンゲンとは、そのていどの縁であった。
「スイマセン、今日はわざわざ、ワタシに会いにきていただいて、アリガトウございます」
「いえ、急に面会を申しこんだんだから、コチラこそ、もうしワケないとおもってるよ。それにしても、君と会うのは、たしか、11年ぶりにくらいになるワケか。
今の君が、一体どういう状態なのか、サッパリわからなかったから、正直なところ、今日はすこし、不安もあったんだけど。でもまあ、いちおうゲンキそうに見えるから、あんしんしたよ」
「そうですか、それはどうも」
「ちなみに、今のじぶんは、こういうたちばなんだよ」
面会者は、徳吉にたいして、じぶんの名刺を差しだした。
(良かった、コレでナマエを聞きだすひつようはなくなった)
と、徳吉はすこし、ホッとした。なにせ、ナマエをおもいだせなかったため、失礼のないように、「どうやってムリなく、しぜんなカタチ・ながれで、あいてのナマエを聞きだそうか」と、内心において、すこし、こまっていたのだから。
だがしかし、つごうよく、あいてのほうが、名刺を差しだしてきた。
(ちいさなことだが、今日はチョットだけ、オレの運は良いかもしれん。こういう些細でちいさなことから、運の善し悪しが、わかることもあるだろうし)
このようなことを、一瞬のうちに、アレコレとかんがえていた。そして、ソレと同時に、徳吉は、目のまえにいる面会者のことを、必死になって、おもいだしていた。
「桂さんて、じぶんがまえにいた職場の桂さんですよね?」
「そうだけど。オレのこと、覚えててくれたかい?」
「もちろんですよ。でも正直なところ、桂さんとじぶんは、あまり接点がなかったとおもうんですが。たしか、おなじ部署になったことも、なかったとおもいますし」
「そうなんだよね。オレと君は、あまり接点がなかった。マトモにハナシをしたことも、たしか、一度か二度くらいだった」
(そうなんだよなあ。オレとこのヒトは、たしか、ほとんど接点がなかったはずだが。それなのに、なんで今、オレに会いにきたのか。ソレがわからん)
徳吉が内心において、とまどうのもムリはなかった。なにせこの場所は、反体制的とされるニンゲンを収容するという、強制労働施設なのである。
にもかかわらず、この桂は、じぶんにたいして会いにきた。しかも、じぶんとほとんど、接点がなかったのにもかかわらず。
(さっき、今日は運が良いかもとおもったが、カン違いかもしれん。今のオレに会いにくれば、ヘタすると、じぶんが反体制的なニンゲンだと、疑われるリスクがあるだろうし。そんなことを好きこのんでやるヤツは、まずいない)
徳吉は一瞬だけ、「今日は運が良いかも」とおもったことを、後悔してしまった。そういう、短絡的で、安直な期待・願望というものを持ったときほど、ソレが裏切られたときに、あるいは、ハズレてしまったときに、ショックがおおきくなるのだから。
そういうことは、今までのじんせい経験において、イヤというほど味わってきた。
(イカンイカン、なまじ、ヘタに期待やキボウを持つと、ハズレたときに、立ちなおるのに時間がかかる)
「ホントウにおひさしぶりですが、今日は一体、どういう用件でいらしたんですか?正直なところ、ワタシには、その用件というか、もくてきが、サッパリわからないんです」
「そうだろうね。とつぜんのことで、予想がつかないのはとうぜんだとおもうよ。この面会時間もかぎられてるし、時間が惜しいから、単刀直入にハナシをする。徳吉くん、この施設にはいるまえにやってたシゴトのこと、おぼえてるかい?」
「まえにやってたシゴトのことですか?」
「そうなんだよ。君がまえにやってたシゴトの件で、イロイロと、わからないことがでてきてね。ソレで、担当者だった君に、直接聞いて、かくにんしたいとおもって、今日はきたんだよ」
「正直なところ、おぼえてるか自信はないです。なんせ、この施設に11年近くいますので。11年近く前にやってたシゴトのことを、おぼえてるとはいいにくいです」
「ソレはそうだろうね。まあコッチも、そういうことは想定済みだけれど。でも、すこしでもおぼえてるんであれば、聞いておきたいとおもってるんだよ。
だから、可能なかぎりで良いので、コチラの質問にたいして答えてほしいんだけれど、良いかな?」
「わかりました。おぼえてる範囲で良いのであれば」
「じゃあ、さっそく」
こういうと、桂は、カバンから書類をとりだして、徳吉に見せた。そして、徳吉にたいして、アレコレと質問をした。徳吉のほうは、ソレにたいして、おぼえてるかぎりのことを答えた。
面会時間は、最長でも一時間が限度であり、その一時間が過ぎようとしていた。面会の様子をチェックしていた監視官が、桂にたいして、面会時間の終了を告げた。




