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第07章

地図上に表示された米粒ほどの点――それが「スペクトラル・リーヴァー」だとわかったとき、その静かで何の動きもない様子に、俺はすぐに飽きてしまった。


だからスポーンの挙動設定を「警戒(Guard)」から「巡回(Patrol)」へと変更することにした。


設定を切り替えた瞬間、地図上のその点はダンジョンの内部をゆっくりと行き来し始めた。ほんの小さな変化にすぎない。だが、なぜか胸が高鳴り、奇妙な達成感が湧き上がってきた。


地図上を移動するその点を眺めていると、不意に、自分の体を優しく撫でられているような感覚が走った。いや、それは感覚以上のものだった。俺の「使用可能マナ(M.A.)」がじわじわと増加していく実感が伴っていたのだ。


この妙な感覚、そして生命の存在を象徴するように動くその点。それらが一つになったとき、俺の中でひとつの確信が生まれた。


――俺はもう、ただの存在じゃない。


今や俺は、こういった存在を生み出し、育むことのできる「ダンジョン」という概念そのものになったのだと。


「大したことじゃないかもしれないけど……悪くないな」


そう呟きながら、俺はふと思った。ダンジョンとスペクトラル・リーヴァーの外見――それを視覚的に見てみたい、と。


姿形については、スペクトラル・リーヴァーの外見や、なんとなく把握している自分のダンジョンの構造から想像できなくはなかった。だが、想像と実際に目にすることとは、全くの別物だ。


考えがその方向に向かっていったとき、ふと、思い出した。以前見かけたインターフェースに、そのヒントとなる何かがあったような……。


が、その前に。


突如として目の前に画面が現れた。


システム通知だった。


「ん?」


―――――――――――――――――――――


《ダンジョンコア・インターフェース》


【システム通知】


おめでとうございます、「???」。1サイクルが完了しました。


収穫成功。


G.P +7.7 獲得


―――――――――――――――――――――


「……は?」


“サイクル”とはなんだ? なぜ、こんなにも気前よくG.P.が手に入る?


もっと面倒な過程を経て得るものだと思っていたのに。……そう思っている自分に気づいて、すぐに苦笑した。


なんだよ、タダでもらえる神性値に文句つけるなんて。ありがたく受け取っとけって話だろ。


神に感謝しておこう。この祝福に。


***


それからというもの、地図上にポツンと存在するたった一つの点――その姿がどうにも気になった。広大なチェス盤の上に、ただ一つだけ置かれた駒のようで、なんとも寂しげに映る。


もしかすると、それは俺の収集癖か、単に物事を理路整然と整えたいという性格のせいだったかもしれない。いや、もらったばかりのG.P.が背中を押したのも事実だ。


結局、俺はスペクトラル・リーヴァーを更に四体、追加で取得した。


計五体だ。


―――――――――――――――――――――


《???のインターフェース》


◆スポーン可能ユニット


・スペクトラル・リーヴァー Lv1【警戒中】→行動変更


・スペクトラル・リーヴァー Lv1【警戒中】→行動変更


・スペクトラル・リーヴァー Lv1【巡回中】→行動変更


・スペクトラル・リーヴァー Lv1【巡回中】→行動変更


・スペクトラル・リーヴァー Lv2【スポーン可能】→行動変更


―――――――――――――――――――――


これらのユニットを手に入れた俺は、それぞれをダンジョン内の“要所”に配置することにした。


二体は入り口付近――恐らくここがダンジョンの入り口だろうと仮定して――侵入者を迎撃するための門番として待機させた。


まだ訪問者は一人もいないが、ダンジョンコアという存在が“歓迎”の準備をしておくべきだということは、誰に教えられなくともわかる。


他の二体は巡回役として、通路部分を並走させながら警備させた。一体は「警戒待機」状態で、エネルギーを節約しつつ奇襲用の伏兵として配置。もう一体は、ダンジョンの最奥部に待機させた。


これで五体のユニットがそれぞれ異なる役割を担い、マップは一気に賑やかになった。点の数は増え、それぞれが複雑なパターンで移動を始めたのだ。


その光景を見ていると、ふとこんな考えがよぎる。


「もっとカスタマイズできたら、いいのにな」


「っていうか、どうやったらそれができるんだ?」


インターフェースは確かに俺にある種の“支配者”としての権限を感じさせてくれる。でも今のところ、やれることはパターンを指定して、それを眺めているだけだ。


まるで一人チェスのような感覚。見ていて面白いけれど、もう少し“深さ”が欲しい。


***


―――――――――――――――――――――


《???のインターフェース》


■名前:???


■存在:ダンジョンコア


■称号:ダンジョンマスター


■ステータス:待機中


【リソース】


・生マナ鉱核(R.M.C):2▲ / 2▲


・使用可能マナ(M.A.):923▲ / 988.1▲


・神性値(G.P.):86.9 G.P.


―――――――――――――――――――――


この新しい存在としての俺にとって、時間の流れは実に奇妙だった。どれほどの時間が過ぎたのか、さっぱり感覚がつかめない。


その原因は二つに絞られる――俺がダンジョンコアであること、もしくはこの世界特有の何かだ。


ただ、そんな時間感覚の代わりに頼りになるのが、M.A.の増加だった。不正確――というより、はっきり言って信用できないほど不安定ではあるのだが、それしか目安がないのだから仕方ない。


一度、ほんの数十分ほど目を逸らしていたら、M.A.が434から647.4、さらに900超まで跳ね上がっていた。……正直、進行状況としてはありがたいけど、時間感覚をこれで測ろうとするなら、完全にアテにならない。


……まぁ、そういうものだと諦めるしかない。


ともあれ、目を離している間にM.A.が665に達したとき、「生マナ鉱核(R.M.C.)」が1から2に増えた。


これが、大きな変化をもたらした。


ダンジョンのビジュアル表示を確認すると、アイコンが一つ追加されていた。これが新たに得たR.M.C.の象徴らしい。


そして「ホログラフィック3D表示」を有効にすると、アイコンではなく、立体的なクリスタルクラスターが表示されるようになった。


……一つだけ。


R.M.C.は「2」なのに、どうして一つだけ? たぶん、もう一つはまだ形成中で、完全に完成した時点で可視化されるのだろう。


そのときが来るのは、R.M.C.が3になったとき。つまり、さらに988 M.A.ほど必要になるだろう。


だからこそ、今あるこのクラスターを全力で守る必要がある。俺はすぐさま、ガーディアンユニットのうち二体をこのクラスターの守備に回した。


なぜなら、これは“マナの源”に違いないからだ。ユニットたちがエネルギーを引き出しているのも、ここからなのだろう。


M.A.も、R.M.C.も、G.P.も、全て上昇している。それがどういう理屈でそうなっているかは分からないが、文句はない。だが、それでも俺は神性値――G.P.についてだけは、もう少し深く関わりたいと思っている。


今のところ、それが増えているのは“自動的”であり、俺自身の行動によるものとは言えない。


何かしら、行動すれば増える要素があるのではないか。そう思わずにはいられない。


スペクトラル・リーヴァーの生成とカスタマイズに、G.P.の多くを投じた。それ自体に後悔はない。……いや、後悔する性格ではないと言った方が正しいか。


火炙りにでもされれば話は別だが、基本的に俺は、やったことを悔いるタイプじゃない。


もしも後悔を感じる場面に遭遇したら、そのときは悔いるのではなく、改善に向けて動くだけだ。


そう、今のように。


***


時を計る確かな手段もなく、ただM.A.の増減だけを頼りに漂う日々。だが目を逸らしている間に何かが変わる――それが、この世界の常なのかもしれない。


―――――――――――――――――――――


《???のインターフェース》


【リソース】


・生マナ鉱核(R.M.C):3▲ / 3▲


・使用可能マナ(M.A.):1002▲ / 1967.1▲


・神性値(G.P.):107.6 G.P.


―――――――――――――――――――――


気づけばR.M.C.は3に増加し、M.A.も2000を目前に控えるほどになっていた。


もしこのまま何事もなければ、俺はモンスターカタログを延々と眺め続けていただろう。だが――そうはならなかった。


それは、これまで一度も見たことのない通知だった。


―――――――――――――――――――――


《???のインターフェース》


【システム通知】


《???ダンジョンドメインに侵入:ヴェルデンカインド(蛮族)Lv3》


《???ダンジョンドメインに侵入:ヴェルデンカインド(騎士)Lv2》


『拡張表示』


―――――――――――――――――――――

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