第05章
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イ…ニ…シャ…ライズ中—エラーシステム過負荷—エラーインターフェースパラメータを再構成中…
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識別中…:[̷̹̕̕不̷̻̄̔明̷͓̬̓存̷̞̯̄͝在̵͈̋̈́]再評価中…存在分類:ダンジョンコ̵̽ア̵̬̥̾̿
記憶をロ̴̜͘ー̶̤̃ディング中…【記憶転送を検出】【人格データ同期中…】警告:基本的な感情再現に失敗。エラー:感情フィードバックループを検出。 不安定性を抑制中…
認知フレームワークを調整。再起動中…
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「……は?」
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ユーザー識別:???
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「え、なにこれ?」
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存在分類:ダンジョンコア
コア機能をローディング中…
コア機能、確立。
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「ダンジョン…? ダンジョンって、中世の塔みたいなアレ?」
画面が十秒ほど表示されたのち、すぐに消えた。だけど、その内容は、はっきりと脳裏に刻み込まれていた。
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【ダンジョンコア・インターフェース】
システム通知:
おめでとうございます、「???」さん。あなたはダンジョンコアへと進化しました。これより、あなたの『ダンジョンマスター』としての旅が始まります!
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「ダンジョンコア? ダンジョンマスター…って、まさかゲームみたいな? えぇ、完全に迷子なんだけど。」
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【???のステータスインターフェース】
名前:???存在分類:ダンジョンコアシステム権限:ダンジョンマスター
【リソース】・マナ鉱塊(R.M.C):1▲ / 1▲・使用可能マナ(M.A):323.7▲・神性潜在力(G.P):90
【ダンジョンマスター・コア機能】・領域視覚化・領域エディタ・資源管理『展開』
【召喚可能存在】・ガーディアン・スポーン・スポーン図鑑『展開』
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「ふぅん……」
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瞬間にも永遠にも感じられる、曖昧な時間の中で、目の前に現れた情報の波を理解しようともがいていた。
まるで解けそうで解けない、未完成のパズル。……まだ、今は。いずれは、きっと。
「ま、少なくとも理解できることが一つくらいはあるだけマシか。お祝いメッセージが見えたし。視認できる、ってだけでも前進だな。いや、正確には『視認しているような感覚』か。この画面、物理的じゃないし。目で見てるというより、感覚で捉えてる。微妙な差だけど、大事なところだな。」
「さてと。他には? うーん……今のところ、他に目立つものはなし。じゃあ、さっきの画面内容に戻ってっと…」
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【???のインターフェース】
名前:???存在分類:ダンジョンコアシステム権限:ダンジョンマスター状態:待機中
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この部分は、比較的わかりやすかった。なんというか、ゲームっぽいというか。
別にゲームオタクってわけじゃないけど、表示されている内容からして、今の自分の状態を表してるのは間違いない。
十秒も経たずに消えたお祝い通知が、なぜか鮮明に脳裏に焼き付いていた。
「あの通知では確かに、ダンジョンコアへの進化おめでとうって言ってたよな。で、ダンジョンマスターとしての旅が始まる…って。ふむ。つまり、俺は――ダンジョンコアってことか。」
けど、ダンジョンコアって何を感じるもんなのか、想像もできない。そもそも、それを感じ取る術がないのかもしれない。
……いや、それが「感じている」ということなのか。
言葉で表すなら、まず最初に思い浮かぶのは――「空虚」だ。
人間だった頃の記憶は、やたらとはっきりしている。それだけに、今感じていないことの方が、あまりにも鮮明にわかってしまう。
見えない――当たり前だ、目があるような感覚もない。もしあったなら、自分で動かせるはずだ。匂いもなければ、音もない。
声を発することはできる…いや、「できた気がする」と言った方が正しいか。言葉を口に出した感覚はなかったけど、それでも「喋った」と確信している。頭の中で独り言を言う感覚に近い。けど、この沈黙の中では、妙に現実味がある。
……味覚? 言うまでもないな。
そして、最後の感覚――触覚。
これは少し特殊だった。触れている。けど、それは物理的なものに触れる感覚じゃない。机とか、人とか、物とか、そういうのではない。
例えるなら、自分の「身体」に触れている感覚だ。ぞっとするけど、それが一番正確な表現だった。
その触感から察するに、俺の表面は岩壁のようで、全体の構造は……まるで「洞窟」のようだった。
「……洞窟か。となると、“そっちの”ダンジョンってことか。」
ファンタジー作品に詳しいわけじゃないが、古代の遺跡や、忘れられた場所にモンスターや罠、財宝が眠る「ダンジョン」の概念くらいは知ってる。この触覚的な感覚も、それと一致するように思えた。
だけど――「コア」という単語には、まだ違和感があった。俺のイメージでは、コアってもっと……球体のはずだ。
そう考えた、その瞬間だった。
言葉では形容できない感覚が、俺を襲った。何かが――いや、俺自身が――変化していく。
球体へと、姿を変えていく感覚。
「な、なんだよこれっ!?」
思わず叫ぶ。変化の速さに、驚きを隠せなかった。
折りたたまれるような感覚。
けれどその最中でも、俺の唯一の感覚――触覚――を広げると、洞窟の隅々まで、変わらず意識が届いていた。
ただ、それに加えて、まったく新しい感覚が加わっていた。
……球体になった。
今の俺は、確かに「球形」の存在だった.
「よし、もう『なんだよこれ』は今日だけで十分だろ」そう自分に言い聞かせるように呟き、なんとか気持ちを落ち着けようとする。「思い出せ、チャンピオン。お前は人生でも死後でも、あまりにも多くを見てきた。今さら驚くようなことじゃない。お前は今や、れっきとした“球体”のダンジョンコアなんだ。しかもほんとに、びっくりするくらい球体。……だから、しっかりしろっての!」
深呼吸――いや、あくまで“比喩的な”深呼吸をして、目の前のまだ理解しきれていないインターフェースに意識を集中し直す。
「さてと。次は何があるかな…?」
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【???のインターフェース】
【リソース】
・マナ鉱塊(R.M.C):1▲ / 1▲・使用可能マナ(M.A):324.2▲・神性潜在力(G.P):90
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「マナ鉱塊、か。ふむ、興味深い。実に興味深い。でも……ぶっちゃけ、何が何やらさっぱり分からん」思考に合わせて、俺の球体ボディがほんの少し揺れる。「でも、これは明らかに何かが“増えてる”よな? マナってのは、まあ…魔力みたいなもんだろ? 名前からして完全にそれっぽいし。で、さっきは323.7だったのに今は324.2。上がってるのは、いいことなんだろう、たぶん」
情報を整理しようと、少し黙って考え込む。すると、ふと目に留まったのがもう一つの項目――『神性潜在力』。略して「G.P」。
「神性潜在力、ね……神性……。あれか? あのマイティK.R.U.Lが言ってたことと関係ある?」声にならない思念で呟く。
不思議と、このステータスには妙な親近感があった。これが「自分の本質」に直結しているような感覚。確信はないが、K.R.U.Lが求めていたのは、まさにこのステータスを上げることだったのでは――そんな直感があった。
マナのように上昇してはいないが、それでも確かに、この数値は自分の「本質」に刻まれていると感じる。
「でも……どうやって上げればいいんだろ? 全然分かんない。てか、マニュアルとかないの? あるなら今すぐ読みたいんだけど」
当然ながら、そんな都合のいいものは見当たらない。仕方なく、次のセクションへと意識をスクロールさせる。“ダンジョンコア”としての役割をもう少し把握したい――そんな思いで。
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【???のインターフェース】
【ダンジョンマスター・コア機能】
・領域視覚化・領域エディタ・リソース管理
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「ほう……これは面白そうだな」また独り言のように呟きながら、次のセクションを確認する。
まずは一番上の『領域視覚化』を選んでみることにした。どうやらクリック可能なオプションらしく、直感的にそう感じたからだ。意識で命じると、即座に反応があった。
次の瞬間――きらめく半透明の投影図が、目の前にふわりと現れた。ホログラムのような3Dマップが空中に浮かび、ゆっくりと回転しながら、微細な光を放つ線が柔らかく脈打っている。
興味津々でその投影を凝視する。最初は詳細に欠けているように見えたが、よく見ると、そのワイヤーフレームが描いているのは――岩のような洞窟構造。
そして、すぐに気づく。
「……これ、俺だ」自分自身のダンジョン構造が視覚化されているのだと理解し、驚きと感嘆が入り混じる。
だが、見た目こそ幻想的で美しいものの、詳細情報やマークなどは表示されておらず、実用性としてはやや不明。
興味本位でいくつかのエリアに意識を向けてみるが、反応はない。あくまで「表示」専用のようだ。
「まだ何か隠されてるのかもな…」そう考えて視線を下へ移すと、画面の下部に新たなオプションを発見。『領域エディタ』――迷うことなく、選択。
マップが一瞬ちらついたあと、画面が切り替わり、より詳細なグリッド構造へと変化した。画面の横にはいくつかのツールオプションが表示され、明らかに編集用のモードに入ったとわかる。
中でも気になったのは――『編集』。すぐにそれを選択すると、周囲のUIが消え、マップと編集用ツールのみが残った。
表示されたツールは以下の通り:『2D表示切替』、『保存』、『見積もり』、『ブックマーク』、『リセット』。
なるほど、完全に編集モードだ。
俺は投影図に集中し、どんな構造にするか考える。今の洞窟型は悪くないが――もっとこう、俺なりの理想形がある。
中央の縦穴から、両側に球状の部屋を二つ。シンプルだが、どこか“中枢感”がある構造。
意識を通じて命じると、マップが応えた。まるで粘土をこねるような感覚――実在感がありながらも、どこか夢の中のような操作感。
俺の思考に沿って、ホログラムはリアルタイムで形を変えていく。
「……よし、完璧だ」満足げに呟き、2D表示に切り替えると、グリッド状の平面マップが現れた。構造がより明確に視認できるようになり、完成度への自信が深まる。
そして――抑えきれない好奇心に突き動かされ、俺はそっと『見積もり』を選択した。
『見積もり』をクリックすると、インターフェースは編集後のダンジョンマップをグリッドなしで表示してきた。その隅っこに表示されていたのは――
《神性潜在力消費:3.79GP》
……はい?
要するに、俺が作ったこの“ナニかを彷彿とさせる形”のダンジョンは、3.79GPかかるってことらしい。
「3.79GPで、アレ型のダンジョン? マジで言ってんのか、これ……」
思わず笑ってしまった。状況のバカバカしさに、声すら出る。笑いながらも、脳内は既に次の思考に突入していた。
――もっと神性潜在力(G.P)を増やさなければ。
それは本当に自分が望んでいることなのか?それとも、あの“マイティ・K.R.U.L”という存在の影響か?
生きていた頃の俺は、キラキラしたものとか、銃とか、爆発物とか――そういうものを収集するのが好きだった。でも、この「神性潜在力を貯めたい」という欲求は、それらとは違う。もっと根源的な、本能に近い感覚だ。
軽く舌打ちをして、見積もり画面から意識を外す。
「まだ90GPしかないしな。今この時点で、全体の4.21%を“ナニか型のダンジョン”に捧げるとか……さすがにないわ」
もっと増えて、例えば0.001%くらいの負担で済むようになったら……そのときに、気が向いたらやるかもしれん。
それまでは保留だ。
気を取り直して、次に最後のオプションである『リソース管理』を選択した。表示されたのは、ほぼ空っぽの画面。そこにあったのは、ただ一つの情報だけだった。
《使用可能マナ(M.A):339.7▲》
そして、その下に表示されたのは――【割り当て】。
「……割り当て、ね」
ためしにクリックしてみた。マナの使い道について何か分かれば――そう思って。
しかし表示されたのは、空っぽのサブインターフェース。どうやら、割り当てる対象が今の俺には“存在しない”らしい。
「なんだよそれ……」
少しだけ肩透かしを食らった気分になりながらも、諦めずに次へ進む。次こそは、何か得られる情報があるかもしれない。
最後に残されたセクション、それは――【召喚可能存在】。今のところ、この項目が一番興味を引かれる内容だ。
でも、「順序を守らないのはよくない」と謎の義務感に駆られ、気持ちを落ち着かせる。まずは順にチェックするのが礼儀ってもんだ。
……結果は、予想通りの空っぽ。
最初の二つのオプションを見ても、【割り当て】のときと同じく表示されたのは――《このセクションには現在利用可能な項目がありません》
「くっ……マジかよ」
だが、最後の希望――【召喚図鑑】を開いたとき、ようやく違う反応があった。
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【???のインターフェース】
【召喚可能存在】
◆ 召喚図鑑・知性体・モンスター
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「知性体……」
その言葉に引っかかりを感じ、即座に意識をそこへ向けた。
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【???のインターフェース】
【召喚図鑑】
◆ 知性体・天使 『展開』・悪魔 『展開』・エルフ 『展開』・獣人 『展開』・ドワーフ 『展開』・人間 『展開』
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知性体カテゴリの中には、思った以上に多くの種族が並んでいた。だが、その中で一番馴染み深いのは――「人間」だった。
迷わず、それを選択。
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【???のインターフェース】
【召喚図鑑】
◆ 人間・下民 0.1 GP 『展開』・ヴェルデンカインド 1 GP 『展開』・ハイブリード 2 GP 『展開』
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「……なんだ、この分け方」
地球では、人間の区分けといえば国籍や民族、あるいは階級とか社会的立場だった。でも、ここでは違う。完全に別の基準で分類されている――しかも、消費GPまで違う。
これはただの見た目や文化ではなく、明確な“価値差”のようなものが存在している……そう感じた。
興味に駆られ、『下民』の『展開』を選ぶ。
画面に、三次元投影が浮かび上がった。
現れたのは、ヒューマノイド型の存在。両腕、両脚――四肢の数は人間と同じ。頭も肩の上に乗っていて、目、鼻、口……構造的には、完全に“人間”。バランスも悪くない。やや細身ではあるが。
「……ハゲてるな」
ぼんやりと呟きながら、映像を観察する。だが、どう見ても――いや、どこからどう見てもこれは、紛れもない人間だった。かつて俺がそうであったように。
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【???のインターフェース】
《召喚可能な存在》種族:ピオン神格ポイント消費:0.1 GP
説明:ピオンは、フィーンドフェルにおける人間種の基礎層であり、未覚醒者に分類される。彼らはシステムへのアクセスを持たず、称号・スキル・能力といった超常的な力を持っていない。その外見はヴァーデンカインドやハイブリードと似ているが、二者に見られる特有の気配や異能は持たない。社会の大半を構成し、日々を平凡に生きる彼らだが、本来秘めた可能性は、ほんの少しだけ「それ以上」になれる可能性を秘めている。
▶︎【0.1 GPで取得】▼ 閉じる終了
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「見た目も説明も、完全に人間だな……」俺はぽつりと呟いた。「でも、やっぱり魔法とか存在してるっぽいな。マナの表示を見たときから、そんな気はしてたけど。それに、システムってやつもあるみたいだし……混乱するけど、めちゃくちゃ興味深い。」
取得ボタンを押したい衝動をぐっと堪え、他の人類カテゴリも確認することにした。人間種だけでも、何かが違う──それを確かめたかった。
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【???のインターフェース】
《召喚可能な存在》種族:ヴァーデンカインド神格ポイント消費:1 GP防御:2攻撃:2
説明:ヴァーデンカインドは、フィーンドフェルにおける覚醒者のひとつ。ピオンから覚醒し、システムへの完全なアクセスを得たことで称号・スキル・能力を授かり、成長の道を歩み始める。レベルアップによって強化できる六種の能力値を持ち、職業も選択可能となる。
▶︎【1 GPで取得】カスタマイズ(クラス)カスタマイズ(レベル)▼ 展開終了
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またしても表示されたのは、一見普通の人間のホログラムだった。しかし、説明を読む限り、これはさっきのピオンとはまったく違う存在らしい。
「だんだん複雑になってきたな……」俺は自然と笑みを漏らす。「だが、それがいい。」
情報が増えるたびに、興味は深まり、いつの間にかどっぷりと没入していた。
「レベルアップに能力値、そして職業……? こっちはまだ人間カテゴリの一部だってのに、これから先は一体どうなるんだよ……」
誘惑を振り払い、取得を一旦見送り、さらなる情報を求めてカタログに戻ることにした。
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【???のインターフェース】
《召喚可能な存在》種族:ハイブリード神格ポイント消費:2 GP防御:2攻撃:2
説明:ハイブリード──生まれながらにして才能を宿した希少な血統。彼らは[信仰]に基づくスキルに対する自然な親和性を持ち、ヴァーデンカインドやピオンを遥かに凌駕する存在である。覚醒によって力を得るヴァーデンカインドとは異なり、ハイブリードは生まれた時点で力を有し、加えて第八の能力値である「信仰」を持つ。この「信仰」は、神聖や癒しの力との親和性を高め、天使のような存在に近づく要素とされている。
▶︎【2 GPで取得】カスタマイズ(クラス)カスタマイズ(レベル)▼ 展開終了
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