おにぎりカフェいろは 夕
おにぎりカフェいろはの閉店時間は18時です。
早いですか?
まあ田舎の住宅地ですので、これくらいかな?って夏実が決めました。
日によっては夕方にはごはんがなくなることがあります。
そんなときは入り口に「おにぎり完売」の看板をたてさせていただいてます。
ラーメン屋さんみたいですね。
「麺完売」 …真似しました。
炊き立てごはんのおにぎりを食べてもらいたいという夏実のこだわりでお米はこまめに炊いているのですよ。炊飯器は4台あります。
ですので夕方に近づくにつれ炊く量は減らしますし、閉店後に余らせるよりは 「完売」のほうを選択しました。
フードロス対策です。
食べ物大切に。
ですがたまにクレームを言われることもあるんです。
「事前にお電話いただきましたら、そのように取り計らいますので夕方にお越しの際は一度お電話くださるとありがたく思います」
…と夏実がお客様に話をしていたとき
「え、そうなの?取り置きしてくれるんだ。
月末は絶対残業になるからおにぎり欲しいのよ。
駅前の肉屋さんのコロッケも惣菜も帰る頃にはなくなってるし、コンビニは逆方向なんだもん。ここでおにぎり買えるなら助かる〜!じゃあそういうときは電話するね!」
突然、横から会話に入ってきたのが店内にいたやすらぎアパート住人の篠島さんでした。
篠島さんの勢いに押されて、それまで
「おにぎりカフェなのにおにぎりがないなんて」
と、ぷりぷり怒っていたお客様も
「じ、じゃあ私も今度は電話するわ…」
と納得してくれたようです。
「ホントにすみませんでした。今日はお詫びにパウンドケーキをサービスさせていただきますね。アレルギーがあったり、パウンドケーキ嫌いだったりします?」
夏実はベーカリーで働いていましたし、専門学校は製菓・製パン学科でしたのでお菓子やデザートも作れるのです。
夏実手作りの焼き菓子やデザートはなかなか人気があるんですよ。
当の本人はおにぎりにしか熱意がないので
「お口にあって良かったです」(ニッコリ)
だけですが…。
16時ごろ、いろはの電話が鳴りました。
「夏実ちゃんおにぎりを6個お願い!具はお任せするわ!18時に間に合わないんだけど良いかな…」
電話の相手は篠島さんです。
篠島さんはシングルマザーで2人のお子さんがいます。
「はーい。19時まででしたら閉店作業でお店にいるから大丈夫ですよ。入り口の鍵は閉めちゃうから着いたら電話してください」
「いつもごめんね!ありがとう!じゃ、あとでね!」
仕事中でしょうか。
慌ただしく早口な篠島さんの電話を切ると
「なんのおにぎりにしようかな〜」
冷蔵庫をのぞいて考えます。
「篠島さんかい?」
庭仕事を終えた紗代子が手を洗いながら聞きます。
「そうだよ。おにぎり6個のご注文」
「あそこの子はまだ小学生だったかしら?」
「そうみたいよ。学校のあとは学童保育に行ってるんだって」
「あそこの学童は夏実も通っていたね」
「そうなの。楽しかったな〜学童。あ、そうだ。今度、お店のチラシ持って宣伝してこよう」
「もう夏実が通っていた頃の指導員さんはいないんじゃないの?じゃあ、おばあちゃんは先に帰るよ」
「はーい。お疲れ様でした。」
閉店後の作業のあと、ひとりでのんびり夢ノートを広げるこの時間が夏実は好きでした。
甘酢生姜のおにぎりが人気出てきたなぁ
暑くなって来たから冷たいお味噌汁ってどうだろう
スタミナつくようにコッテリ味付けした肉巻きを出してみようかな?
とりとめもなく頭に浮かんでは消えるアイデアや今日1日の出来事をノートに書いていると
電話が鳴りました。
「わ!びっくりした!」
きっと篠島さんですから、電話に出ながらお店の入り口の鍵を開けにむかいます。
「夏実ちゃん遅くにごめんね」
「大丈夫ですよーおにぎり用意してありますよ」
「やった!いろはのおにぎり!オレ大好き!」
「ボクも大好き〜中身、何?」
元気良く店内に入ってきた篠島さんのお子さん2人が口々にいいます。
「あー、もう!静かにしなさいよ!いっぺんに喋っても夏実ちゃん困っちゃうでしょ!」
「ねえ、学童行ってるんだよね。学童の指導員さんっていまは誰がいる?」
夏実が2人に聞きます。
「えーっとね、さの先とぉ、さき先とぉ、たつ先とぉ、浜さんとぉ、ところさんとぉ、えりなとぉ…」
◯◯先というのは『先生』の略です。
指導員さんを◯◯先生と呼ぶ決まりになっているのですが、高学年になるにつれ親しみを込めて◯◯ 先となるのです。
さんづけや呼び捨てはたぶん学生バイトさんやパートさんのことだと夏実は見当つけました。
「私も小学生のときは学童行ってたんだよ。佐野先生と浜さんは私の頃にもいたわ。懐かしい!今度、学童に遊びに行くね」
夏実が言うと
「じゃあ夏実ちゃんが来たらオレが一輪車教えてやるよ!」
「にいに、一輪車は難しいよ。夏実ちゃんが転んだら危ないよ」
「じゃあ竹馬!」
「竹馬も危ないよ。お部屋でけん玉しようよ」
お兄ちゃんのたける君が得意気に夏実に一輪車や竹馬を教えてやると言うと、気の優しい弟のゆうと君が反対します。
ですが夏実も学童っ子でしたから、一輪車も竹馬もけん玉も経験があります。
今もできるかはわかりませんが。
「楽しみだなぁ。じゃあ学童で会ったらよろしくね」
「うん!いつ来る?明日来る?」
「うーん。お店が空いてたら行けるんだけど、いつ行けるかはわからないんだぁ。ごめんね」
「いいよ、夏休みだからオレ達いつもいるから!」
バイバーイ!と篠島一家が帰ると夏実はまた店の鍵をかけて夢ノートを広げるのでした。
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