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おにぎりカフェいろは  作者: 瑞谷樹梨
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おにぎりカフェいろはオープンです!

「ん〜!今日のお米もピッカピカ!輝いてる〜!」


大きなガス炊飯器のフタをあけながら

たちのぼる湯気をスーッと吸い込みながら

うっとりしてるのは大野夏実。


「毎日毎日同じこと言ってよく飽きないもんだね」


糠漬けを混ぜながら呆れたように言うのは

いろ葉の祖母の大野沙代子。


 ここは 『おにぎりカフェいろは』

昭和に建てられた民家を改造した小さなカフェでございます。

古民家カフェとまではいきませんが、スッキリとした佇まいのレトロ和風な雰囲気です。


メニューは店名にあるとおり、おにぎりがメイン。

ちいさめのおにぎりが2つに具沢山お味噌汁、沙代子が漬けたお漬物。

これが基本のセットメニューです。

あ、お味噌汁は日替わりですよ。

おにぎりはお好きな具を選んでくださいね。


 ドリンク代のみでトーストやサラダがついてくるモーニングサービスなるものがあるところもあるそうですね。

でもおにぎりカフェいろはにはありません。

ランチサービスもありません。


「時間でメニュー変えたり金額変えると間違えちゃうかもしれないから!」と、夏実。


メニュー数が少ないんじゃない?と言われたら


「いろんなおにぎりあるよ?」と、夏実。


「いくつも手際良く作れないもん。でもおにぎりだけは自信あるの!」 だそうです。


「カフェって名前つけたんだから飲み物もいるだろ?コーヒーに紅茶、あとはジュース?えぇとあとはどんなものが必要かしら?」


突然カフェを開きたいと言い出した孫娘に強引に付き合わされた形の祖母沙代子ですが

一般的な常識人で生真面目な人のため

おにぎりのことしか頭にない夏実が心配です。


「おばあちゃんの好きにしていいよ!」

「そんなこと言ったってさ、あんたのお店でしょうが」

「おばあちゃんのお店でもあるんだよ!」

「…。」


沙代子の心配をよそに夏実はおにぎりの試作に余念がありません。


「おばあちゃん食べてみて!クリームチーズと塩鮭だよ」

「味見はもっと小さくしてちょうだい!おばあちゃんそんなに食べられないよ」


これでいいのか、本当にカフェが開店できるのかと心配の尽きない真面目な沙代子でしたが

カフェの話が具体的になってくると不思議と自分も心が浮き立つような気がしてきていました。


「ほうじ茶に緑茶、烏龍茶…茶器や食器はどんなものにしようかねぇ」



 このお店を開く前の楽しかった準備期間を思い出しながら沙代子が今日のおにぎりプレートにのせる漬け物の準備をしていますと


「あ、もうこんな時間!おばあちゃん開店の時間だよ」

「はいよ!」


 木枠の格子引き戸の鍵を開けると表にはすでに何人も待っています。

ありがたいことです。


「お待たせいたしました。いらっしゃいませ。」


お客様を出迎えるのは紗代子です。

朝にやって来るのは近所のお年寄り達。

つまり紗代子と夏美の顔馴染みばかり。


「お出汁のいい香りがしてるわ〜」

「大野さんおはよう。今日は暑くなりそうだねぇ」

「さよさん今日のお味噌汁なあに?」


口々に紗代子に挨拶しながら勝手知ったるなんとやらで

みなさんそれぞれ思い思いの席に散らばって行きます。


このときばかりはちょっと忙しくなります。

席に着いたお客様にお水とおてふきを持って行き

注文の品を聞く。

伝票にその注文を書いて、それぞれの席番号も記入して、夏実のいる厨房に持っていかなければいけません。


何しろ近所の人たちは開店前から店の前でいまかいまかと

待っていますので、一気に店内が騒がしくなるのです。

初めの頃は慣れない仕事にオロオロしてしまいましたが

いつしかご近所のみなさんは店内に入ると水の入ったコップとその横に置いてあるおしぼりをひとつずつ自分で持って席に着くようになりました。


「さよちゃん1人じゃ大変だものね。これぐらいは自分で持っていくわよ。」


ありがたいけれどお客様にこんなことしてもらっていいのだろうか。

これまでの人生、テキパキさには自信のあった沙代子さんは自分の不甲斐なさに情けないような悔しいような

そんな感情もかすかに湧きあがりましたが

深く考える暇なんてありませんのでひとり反省会は後回しにすることにしました。



「みなさん!ご注文はいつもの、でよろしい?」


お客様が席に落ち着いた頃を見計らってカウンターの前に立っている紗代子が声をかけます。


『はあーい』


あちこちの席から返事が聞こえます。


先生と生徒か!と心の中でツッコミながら夏実は肩を振るわせつつおにぎりセットを仕上げていきました。


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