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「あの、レニール様……」

 レニールは後ろをついてきたセイルの弱々しい声に振り返った。

「なんだね、セイル」

 彼の表情は暗い。長年支えてきた「聖女様の裏切り」に、思う所でもあるのだろうかと、その顔を見下ろした。

 当時、十を数えたばかりの子供にそんなことができるわけがないと、少し考えればわかりそうなものなのにと心の中で嘲笑する。

 だが、レニールの言うことを、決して疑わないようにと注意深く育ててきた結果だと思えば、彼のその反応は非常に満足のいくものだった。

 セイルはレニールが己の手駒とするため、幼少期に孤児院から引き取り、自身を崇拝するように育ててきた駒の一つだった。

「聖女様をどうするおつもり、なのですか……」

 ぼそぼそと疑問を口にしたセイルに、嘲るような気持ちを押し隠したまま、いかにも優しげな笑顔を浮かべた。

「おかしなことを聞くのだな? 聖女様はじきにお目覚めになる。これまでと変わらず、()()()するだけだよ」

 そう、今までとやることは変わらない。

 レニールの本来の計画では十年前の時点で聖女アンを殺害し、その後釜として自身の娘を聖女に押し上げる予定だった。

 だが何故か用意した呪いがうまく働かず、聖女は昏睡状態となった。

 ならばとその兄を懐柔する方向に方針を転換してみたものの、信頼を勝ち得ることはできなかった。

 何のために方々まで手を回して、聖女の護衛に内定させたのかと、一時期はセイルを疎ましく思ったものだった。

 しかし、やっとツキが回ってきたらしい。

「……いえ、レニール様。アン様の、ことではなく」

「ああ、あの聖女を騙り害した男のことかね?」

 セイルは己の計画を殆ど知らない。レニールが野心を強く持っている、ということには気付いているのだろうが、それだけだ。

「そうだな、お前に一つ働いてもらいたい」

 セイルが顔を上げる。

「一体何を……」

「それは――」

 その時、外の廊下を走る足音が聞こえた

「失礼いたします!」

「どうした」

 慌てた表情で部屋を訪ねてきた足音の主は、レニール子飼いの神官だ。

「聖女の兄と薬師が姿を消しました」

「――!?」

 驚いたのか息を呑んだのはセイルだった。

 レニールは、ニィッと笑う。

「これは丁度いい。セイル、お前に仕事を与えよう」

「レニール様、今は――」

 レニールは、彼の言葉を制して懐から短剣を取り出した。その柄には呪術が刻み込まれている。

「これを使って、始末してくるんだ」

「なに、を……」

「言わなくてもわかるだろう?」

 レニールは、その短剣をセイルに押し付けるようにして渡す。

「レイモンド・アーデルハイン――。聖女の兄を、殺してきなさい」

 あの兄妹を亡きものとすれば、後は全て自分の思い通りになるのだから。

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